KDDIやニフティと二人組合でファンドを運営することで知られる独立系ベンチャーキャピタルのグローバル・ブレイン。本日2013年7月18日にMONOCOがグローバル・ブレインが運用するKDDI Open Inovation Fund(以下KOIF)からの増資を発表しています。あまりメディアに露出しないベンチャーキャピタルだが、パートナーである熊倉次郎氏と青木義則氏に取材して話を伺うことに成功した。投資家の取材は「VCの赤本」として本誌ではお届けしてきたが、趣向を変えて「CVCの視点」というコーナーの第一弾として本稿をお届けする。
KDDI Open Inovation Fund投資先:7社
本稿では特にKDDI Open Inovation Fund(以下KOIF)の運営に焦点を当てる。2012年2月に50億円規模で2022年1月までの10年という運用期間で組成された。今までの投資先について、公開情報から紹介する。
ジモティ、Origami、レアジョブあたりは本誌の読者であれば説明を割愛して良いであろう。ゲームのMutations Studioに関しても最近調達リリースを本誌で出している。その他の3サービスについて補足説明する。
TOLOTはスマホからフォトブックを作成・注文するサービス。5億円の投資を実行している。スマホでアプリへの写真投稿数が増えており、その出口のマネタイズ手段としてのフォトブックサービスは魅力的だ、米国では既にそれなりの市場規模だという。
3rdKindはHPを見るとグローバルの香りが漂い、北米の箱庭育成ゲーム「ハッピーストリート」を日本向けにローカライズしてヒットさせているゲーム会社のようだ。ゲーム会社がKOIFから投資を受けてスマートパスやプリインでユーザーを伸ばすというシナジーはイメージしやすい。
最後にHailo Network。こちらは英国企業。スマホを利用したタクシー配車サービス。Uber(リムジンだが)が近しいといえる。国内でも強力なタクシー配車サービスがあったと思うが、Hailo NetoworkはグローバルでAtomicoなどから累計2,000万ドルを調達しており、日本法人も既にあり、どのような事業展開をしてくるのか注目したい。タクシー配車もKDDIとのシナジーは見込みやすいだろう。
参考URL:KOIFの概要(グローバル・ブレインHP)
尚、上記参考URLに記載がなかった案件として米国の子供専用Androidタブレットであるnabiを展開するFuhuに500万ドル出資しているとの情報がTech Crunchの記事にあった。
事業シナジーの創出を見込んでからの投資実行
投資方針について早速伺った。
「CVCですので純投資ではなく事業シナジーありきの投資が必須です。CVCでは投資実行後に投資先と協業できればいいですねというニュアンスで投資が決まることもあり、当社も過去にそういうことがありました。現在はほぼ投資前にこういった座組で事業シナジーを創れるという目算を立てた上で、投資実行しています」(熊倉氏)
KOIFを運営するグローバル・ブレインは総勢約20名で投資候補先のソーシングとインキュベーションにあたる。1人あたりの主担当は2-3社と、VCの赤本で取材した各キャピタリストよりも担当社数は少なく見える。
「投資後は主担当のみならず、サブ担当が1,2名、多い時には3名以上投資先に付く場合があります。我々は事業育成に時間をかけて取り組んでいきたいので、お金だけ入れて口は出さないでほしい。という経営チームだと相性は良くないかもしれません。グローバル・ブレインはチームの総力をあげて投資先支援に務めています」(青木氏)
熊倉氏、青木氏両名とも、事業シナジーの創造に尽力できるという観点でグローバル・ブレインにジョインしたという。
意外にもシード・アーリーの案件も投資検討
昨今はOrigamiやTOLOTに代表される数億円単位の大型投資案件が目立ったため、話を伺うと投資ラウンドや投資額に特に制約はなく、シードやアーリーでも投資検討していくという。実際にレアジョブはKOIFで最近追加投資しているが、立ち上げ時の最初の投資家はグローバル・ブレイン。SSPを展開するジーニーにも最初の投資家として資本参加している。
「KDDIさんとのシナジーが創造できると判断すれば、どんなステージでも投資していきたいと考えています。むしろ早い段階からアプローチしてきていただけると嬉しいです。グローバル・ブレインが立ち上がった初期の頃はシード・アーリーの投資案件の方がむしろ多かったですね。投資先には我々やKDDIさんの事業資産を活用し切っていただきたいです」(熊倉氏・青木氏のコメントを要約)
シード・アーリーの実績としてはKDDI∞Labo採択企業から、Donutsに売却したソーシャルランチやソーシャルギフトのgifteeへの投資もある。
KOIFの特徴と攻略法:マス向けtoCサービスは相性が良い
残念ながら個別の事業シナジーの事例や、投資実行に至った理由に関しては開示されなかったが、KOIFからの投資の特徴から下記のようなことがいえる。今後ファイナンスに臨む起業家には下記を頭に入れておいていただきたい。
■KOIFからの投資で期待できること
・事業シナジーの創造に尽力してくれる可能性が極めて高い
・KDDIのファンドであるがゆえBtoCでマスを狙いたいサービスと相性が良い(とはいえBtoBサービスも歓迎とのこと)
・スマートパスやプリインに期待したい(だがその効果のほどは取材では明らかにできなかった)■The Startupが考えるKOIF攻略法
・1億円単位以上での投資実行とは思い込まず、早めのステージからでもアプローチすること
・事業シナジーの仮説を持つこと
事業シナジーを考えると投資実行のスピードが鈍りそうなものだが、「当社の進捗で投資実行が遅れた。ということは今までになく、1-2ヶ月で投資検討の結果を出せるよう尽力しています。早くいけば検討開始から実行の決定まで1ヶ月を切ることも」とのこと。事業シナジーで一体どれだけ跳ねるのかはNDAを巻かないと教えてもらえなさそうだが、toC向けサービス事業社はKOIFからの投資でレバレッジを掛けるという戦略は合理的といえそう。
尚、キャリアということで他のキャリアから投資を受けてはいけないというエクスクルーシブ契約があるかという点に関しては「KDDIさんは比較的オープンに取り組んでいると思います」との回答であり、そのような契約はなさそうであるという見方ができる。
個人的にはtoCサービスで会員規模が15-30万規模になり、マス向けに一気に拡大したいというフェーズにあるスタートアップにとってはこれほど最適な事業シナジーを実現できるファンドはないのではないかと感じた。KDDIといえば過去にはGREEやコロプラという現代のメガベンチャーへの投資実績もある。KOIFの投資先からも次代のメガベンチャーが生まれる可能性は極めて高いだろう。
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