CAV田島聡一氏:大きな絵が描けて緻密な字を書ける経営チームへ投資したい【VCの赤本⑧】

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VCの赤本シリーズ8作目はサイバーエージェント・ベンチャーズ(以下CAV)代表取締役社長の田島聡一氏をお迎えする。

CAVの投資方針はアジアに幅広く注力していくというのは業界では周知の事実であり、田島氏のキャリアの話はCAVのHPthe incubatorのインタビュー記事に譲るとして、本誌ではより田島氏の核心に迫りたい。

代表取締役自らも現在進行中の複数の案件を担う

代表取締役ともなると、チームマネジメントが主な業務である印象を受けるが、田島氏はプレイヤーとしてもいくつかの案件を担う。「プレイヤー感覚がなくなるのは良くない。 日本のVCのトップマネジメントは、メンバーが上申してくる案件の審査をする役割を担っているケースが多いが、海外の著名VCはトップ マネジメント自らが率先して案件を取りにいき、自らが成果を出している」(田島氏)

現在田島氏が主担当として関わっているのは6社。本誌でもお馴染みのクラウドワークスは エンジェルラウンドのリードインベスターとして参加。クラウドソーシング事業のコンセプト構築から携わっている。本誌でも注目しているアーティストのバーティカルSNSのリボルバーもほぼ創業と同時に出資し、主担当を務める。

その他にも、名刺管理の三三、 社内ソーシャルネットワークのTalknote、後払い決済のネットプロテクションズ、プリペイドカードのバリューデザインなども手掛けている。

過去に手掛けた代表的な案件には、フルスピード、クルーズ、ウノウ、ベクトル、トレンダーズ、シナジーマーケティングなどがある。田島氏が主担当だった案件の約半数以上が既にIPOかM&AでExitしており、高いパフォーマンスを実現している。 

マーケットが最重要であり、次に経営チーム、そしてHow

担当ディールの高い成功確度や、業界でも「鋭い意見を持っている」と評判の田島氏。その投資判断や投資後の関わり方について多角的に伺った。

投資判断の前提として「マーケットの成長ポテンシャルの大きさ」を挙げた。結果として、優秀な経営チームであれば大きなマーケットで勝負しようとすることを選択しているケースが多いという。また、やみくもに面白い会社を探しているわけではなく、有望な事業領域をしっかり見定め、そういった事業をやっている有望な会社があればそこに投資し、もし存在しなければチームビルドしてゼロから創るという。いずれにしても、マーケットが起点の考え方であるとのこと。

成長ポテンシャルの高いマーケットと優秀な経営チームが揃っていればそれだけで投資を決める場合もあるし、 どうすれば勝てるかという戦略である「How」を議論してある程度固めてから投資する場合もある。この「How」をブラッシュアップするために、時には合宿したりして、投資前にかなり時間をかけるケースも多いようだ。このようにして、投資前に成功シナリオを必ず描いている。

「鋭い意見を持っている」と言われる所以に関しては、「傍観者としてその事業を捉えるのではなく、自分がその投資先の経営チームならどう考えるか」を普段から考え抜き、自分なりの仮説を持つ習慣を身に付けているという。「成果を出しているベンチャーキャピタリストは、自分自身の注目分野や、なぜその分野に注目しているのか、どうやったらその事業で勝てると考えているか、などの意見を必ず持っている」(田島氏)。CAV社内では親会社のサイバーエージェント同様の社内事業プランコンテストを行っており、各々の興味分野を発表する。その興味に基づいた案件に当たっていくことも多いという。

ちなみに現在はシードステージへの投資を主としているCAVだが、昨年夏に投資活動を始めたスタートアップ向けに特化した20億のファンドで投資した約30社のうち大半は既にシリーズAを終えているという。「シードアクセラレーターとしてのまず与えられた責務は、きっちりとシリーズAに繋げること」(田島氏)というコメント通り、高いシリーズAの成功率を誇る。

O2O/バーティカルSNS/セレンディピティコマースに注目

■O2O

「リアルとネットのハブになりそうなサービス」いわゆるO2Oへ意図的に多く投資してきたという。その中でもオンリーワンやナンバーワンになれそうなディール、例えば後払い決済であればネットプロテクションズ、プリペイドカードであればバリューデザインなど、そういう案件に投資をしている。手掛ける案件の多くがO2Oと何かしらの接点がある案件である。

■バーティカルSNS

今担当しているリボルバーがその分野にあたる。バーティカルSNSの例として「例えば鉄道オタクの人が、Facebookで電車について積極的にコミュニケーションすることは難しいと思います。このように、Facebookのような網羅型SNSではカバーしきれないSNSはまだまだ需要がある」と田島氏は挙げる。リボルバーはアーティストのSNSであり、板野友美のSNSであるTeamtomoなどを運営している。 また、画像中心のPinterestに近しいUIであることもあり、バーティカルSNSのみならず、Eコマースなどについても国境を越えたオウンドメディアとして既存のメディアの形を変えるポテンシャルがあるという。

■セレンディピティ・コマース

この分野にはまだ投資していないようだが、コマースはまだまだ進化する余地があり、その一つとして注目している分野だという。セレンディピティ・コマースの例として「Amazonと街の本屋の違いをよく挙げます。Amazonでは買うつもりだったものを買うことが多いが、街の本屋では買うつもりのなかったものを買うことも多い。 こういった偶発性をネットに持ち込むことで、モノとの出会い方はまだ進化する余地がある」という。この辺は本誌でも紹介したSumallyiQonが国内では近しい。この分野に田島氏が投資する可能性はあるであろう。

大きな絵が描けて緻密な字を書ける経営チームは魅力的

「どんな起業家や経営チームへ投資したいか」という質問に対して3つの回答をいただいた。

■1:大きな絵が描けて緻密な字を書ける経営チーム

これは筆者にとって非常に腑に落ちる表現であった。「大きな絵を描ける起業家は字も大きくなりがち。逆に緻密な字が書ける起業家は小さな絵になりがちです。なので、大きな絵が描けて緻密な字を書ける経営チームに魅力を感じる」「必ずしも最初の段階でこういった経営チームが組成できている必要はなく、経営者が自分自身の強みと弱みをしっかり認識し、そういったチームビルドの必要性を感じていることが大事」であるという。

■2:コミュニケーション力の高さ

特にBtoCサービスを手掛ける場合は、どれだけユーザー視点に立って物事を考えられるかが重要である。 この点については、通常の対面でのコミュニケーションから、推し量ることができる。

■3:目線の高さ

日本最大規模のインキュベーションオフィスStartup Base Camp(以下SBC)を作るに先駆けてシリコンバレーの500startupsなどを視察した際に、「ここからGoogleやFacebookも出て行った。次は俺たちが!」という空気を感じ、その成功基準の目線の高さに感銘を受けたという。その経験を踏まえて「隣に一流がいる環境」をSBCのコンセプトとした。SBCは今後も原則としてCAVの投資先しか入居できないようだ。「隣に一流がいる環境」を徐々に実現していっている。

田島氏の攻略法:ファンネル分析の理解が早い人を好む

「ファンネル分析」という言葉は多くの人にとって耳慣れないであろう。
ファンネル分析に関してはこちらのブログ記事がわかりやすく参考になる。簡単にいうとファンネル分析とは「事業の全体感や成長プロセスを可視できていること」と言えるであろう。このファンネル分析の理解が早い人を田島氏は好むようだ。点と点の議論ではなく、あくまで全体感を踏まえた上での議論を重視している。

田島氏曰く、「左脳で定量的に判断しながら、右脳でサービスを作れるバランスの良さ」がとても重要とのこと。ファンネル分析が最初からキッチリできている人は少ないが、キャッチボールを繰り返すうちにすぐにキャッチアップできる柔軟性や吸収力が高い方を好むようだ。地頭と言い換えられるかもしれない。

また、最近は経営経験や事業経験のある起業家に投資することが多いという。 起業への垣根が下がった一方で、グローバルでの戦いが求められる現代においては、勝ち残る敷居はむしろ上がっているという。勝ち残るためには経験豊富な経営陣を擁するチームの方が成功確度が高いと判断し、意図的にそういう経営チームへの投資をしているようだ。

編集後記:本質を突く金言だらけでした

インタビュー時間は約1時間であったが、幾つもの本質を突く金言をいただき、非常に密度の濃いお話をお聞かせ頂いた。肌感覚として、今までのVCの赤本の中でもトップクラスの攻略難易度の高さを感じた。田島氏を株主に迎えられるチームはさぞ頼もしく思うであろう。

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