CAV林口哲也氏:経営者の最高の壁打ち相手でありたい、投資先の7割以上を次のラウンドに送り込む【VCの赤本④】

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ベンチャー・キャピタリストの思考をご紹介する本連載、4本目はサイバーエージェント・ベンチャーズ(以下CAV)の若手キャピタリスト、林口氏にお話をお伺いした。CAVは昨夏のファンドレイジング以降、シードステージでの投資において急速にプレゼンスを高めてきているVCである。

サイバーエージェントの投資活動自体は、mixiへの投資など、過去に多数のトラックレコードを有している。昨今ではシードステージの調達の登竜門的な存在となりつつあるCAV、その中のキーマンである林口氏に迫る。ちなみに林口氏は、本日1億円の増資をリリースしたRettyの担当者でもある。

BCGからキャピタリストへ転身:その心は?

林口氏は大学卒業後、コロンビア大学大学院へ進学している。留学自体は2度目だったようだが、2度の留学で米国とのビジネス人材層の厚みや勝つことへの強い気持ちの差に衝撃を受けた。

新卒で戦略コンサルティングファームのボストンコンサルティンググループ(BCG)に入り、コンサルタントとして経験を積んでいくものの、グローバルな競争環境と凄まじい変化のスピードの中で、ベンチャー企業のようなスピード感で戦う必要があり、海外経験やBCGでの経験を活かし1社でも多くのベンチャー企業を支援し、グローバルで勝てる企業を日本から輩出したいと考え、キャピタリストへと転身したという。

投資先の過半数以上が次のラウンドへ

林口氏の担当者数はシードステージに関しては6社。本日大型調達を発表したRetty子供と親のプレイグラウンド・コミュニケーションプラットフォームを間もなくリリース予定のファンタムスティック、教育系のBest Teacher、マッチアラームを運営するQrunchキュレーションツールを提供するvingowを運営するJX通信社、部屋版のPinterestといえるであろうRoom Cilpを運営するTunnelがある。

現段階で詳細はお伝えできないが、シードステージで投資したこの6社中既に4社が次のラウンドの投資が決まっているという。他のシードアクセラレーターの具体的な数字が手元にないので定量的な比較はできないが(参考:確率は30-50%?:シードアクセラレーター4社発のスタートアップの次のラウンドの行方 from The Startup)ここ1年以内に投資した案件が大多数の中で、感覚値として次のラウンドが決まっている確率が7割というのはかなり高い方であると思われる。他の2社も次のラウンドへ向けて進行中であるという。

事業経験豊富な起業家はやはり魅力的

起業家や経営チームに対する投資方針は下記の3つをお持ちのようだ。

1:人を惹き付ける磁場のような「何か」を持った起業家であること
2:ユーザー視点に立ち、愛されるサービス作りを目指していること
3:事業経験や重要な意思決定経験が多数ある起業家であること

VCとして実務に携われる前からあまりブレない投資方針であったようだが、実務経験を積み、より1の重要性を認識するようになったという。起業家は順風満帆であることよりも、劣勢に立たされる場面が圧倒的に多い。ゆえにちょっとしたことではへこたれない強さがある戦闘力の高い起業家を好むようだ。その他にも人を巻き込む力や、柔軟に物事を吸収する力もサービスを伸ばす上で重要な資質であるという。

2は林口氏に限らない当然の条件であるとして、3は後述するCAVの投資方針で詳述するが、特に責任者クラスで事業経験がある起業家の方が、VCをはじめ色々な物事をレバレッジすることに長けているケースが多いという。極論するとVCをレバレッジし尽くして企業価値を高めることが起業家に求められる責務ともいえ、レバレッジ力が高いスタートアップが伸びやすい傾向にあるようだ

既存のネットビジネスで革新の余地がある分野に注目

Rettyに代表されるO2OやファンタムスティックやBest Teacherに代表される教育xITという特定の注目分野の他に、既に立ち上がっているネットビジネスでイノベーションがまだ起きていない分野に注目しているようだ。

メディアビジネスでいえば、単純な広告掲載モデルや総合平均型のCGMモデルは数年前から変化しておらず、現代風なアレンジによるイノベーションの余地があると考えている。その一例として、ぐるなびや食べログという外食分野に対するイノベーションとしてRettyというソリューションが当てはまるといえるであろう。現代ではソーシャル的な要素などを加えることで、他分野でもイノベーションを起こせるのではないだろうか。

林口氏ではなく、著者の解釈だが、全くゼロから新しい文化を創るモデルの他にも、既存の市場をリプレイスするモデルも好まれるのではないかと感じた。「既存メディア・オルタナティブ」という表現を林口氏が使っていたことも、印象に残った。既存メディアでユーザーは本当に満足しているのか?この考え方はビジネスを起こす上でのヒントになるであろう。

ハイレベルな事業DDが次のラウンドへ進む成功要因?

経営チームあるいは分野に関しては上記が投資方針となるようだが、実際の投資実務の際のデューデリジェンス(DD)はハイレベルな印象を持った。基本的にVCの赤本シリーズでご登場頂いている方々はみな事業DDがハイレベルな印象であり、その厳しさが次のラウンドへの進出の成否を握る一つの要因であると著者は考えるため、好ましいと思っている。

事業に関するCAV独自のコンセプトシートを用意しており、それに沿ってそのサービスが実現したい世界観やユーザーが利用しているシーンを具体的に想像できるように詰め切るようだ。同様に簡易的なUIのシートもあるようだ。コンサル出身ということもあり、ロジックが弱いとすぐに跳ね返されるだろう。この辺は記事タイトルにもある「経営者の最高の壁打ち相手でありたい」という、自身のVCとしての在り方のバリューを発揮しやすいところであるとも言えるであろう。

とはいえ、事業モデルが詰まり切っていなければすぐにダメというわけではなく、人物的に魅力を感じる起業家であれば、定期的に議論を重ねていき、そこから投資を検討していくケースもあるようだ。

投資先に対しては「何でもやる」という林口氏だが、具体的な支援内容を伺うと、下記の内容が主であるようだ。特に2はCAVならではのバリューと言えそうだ。

1:コンセプトメイキング
2:CAグループのリソースを活かしたUI/UXフィードバックやユーザーヒアリング
3:大企業幹部クラスなどトップルートでのアライアンス支援
4:次のラウンドでの調達の支援

VCとしてやり甲斐を感じるのは「自分が関わっていることは知らずに、知人が投資先のサービスを使っていた」「電車の中で投資先のサービスを使っている人を見た」など、投資先のサービスがキャズム越えに差し掛かっている場を目の当たりすると喜びを感じるという。

CAVの投資方針:シードステージで2,000-5,000万を投資

林口氏の案件に限らず、次のラウンドへ進める筋の良い投資案件が多いという実績から、著者の独断と偏見では今後ますます国内のシードラウンドの引受先として人気が高まると予想されるCAV。CAVの理念は「市場や産業を創り出すスタートアップを輩出する(まずは)アジアNo.1のVC」であるようだ。

CAVが投資したい起業家には下記の2パターンがあるようだ。

1:ビジネス上のトラックレコードのある方(事業立ち上げや事業責任者経験のある方)
2:若手だが「何か」光る才能を感じる方

実際に最近の投資案件を見ると、1に該当するであろう30代の起業家が多く、実際に次のラウンドにスムーズに進んでいるケースが多いと感じる。 投資金額はシードステージで、1年程度は無収入でも運営できるであろう金額として2,000-5,000万円のレンジで投資することが今後は多くなるであろうという。

社内の投資委員会では明確な社内統一基準があるようだ。定量的にはそのサービスが狙うマーケット規模、定性的にはサービスが拡大するシナリオの実現可能性など。そのサービスが、市場のニーズ(課題や欲求)をピンポイントで満たせるシナリオであると、投資しやすいという話もあった。

林口氏をレバレッジして、「壁打ち」で事業DDを突破せよ

上記を踏まえて攻略法を提示すると、「人を巻き込める力」と「事業の勘所を押さえ、厳しいデューデリに対応できる力」といえるであろう。特にデューデリに関しては著者もかなり厳しい印象を持っている。事業デューデリに関して言えば、シードラウンドでは林口氏のデューデリを突破できれば他でもある程度通用するといえるのではないかという印象を、著者は持った。

ロジックで跳ね返されてもめげずに反論を考え続けることで、事業コンセプトがブラッシュアップされ、事業の成功確度は上がっていくであろう。林口氏は「良き壁打ち相手」となり、事業コンセプトのブラッシュアップに付き合ってくれるはずだが、とは言え、ある程度事業コンセプトを練った上で議論に臨むことをお勧めする

注:「VCの赤本」では伝説のキャピタリストではなく、「現役のキャピタリスト」を応援しております。取材依頼の自薦他薦がございましたらFacebookでYuhei Umekiまでご連絡下さい。 



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