記念すべき10作目となるVCの赤本。今回はGREE Venturesパートナーの堤達生氏にお話をお伺いした。GREE Venturesは2011年11月に設立された新興VC。堤氏はその立ち上げを担うため、GREEに2011年8月に転職した。
堤氏は新卒で三和総研に入社後3年強のコンサルティング業務に従事後、グローバルブレインに参画。その後、サイバーエージェントにてFX事業及びVC事業の立ち上げ後、リクルートにてコーポレートVCの立ち上げと新規事業開発に従事。日本でこれほど各社でのVC事業の立ち上げを経験しているキャピタリストはいないという点と、サイバーエージェントとリクルート時代に事業立ち上げの経験がある点に特色がある。
実は堤氏は学生時代からVC志望であったという。学生時代にとあるベンチャーキャピタリストに出会い感銘を受け、将来の仕事にしたいと考えた。その後、大学院時代の研究テーマが「(日本の)ベンチャーキャピタルのお墨付き効果」という内容の研究をしていたほどだ。その中で、日本のベンチャーキャピタルが、スタートアップの企業価値向上に“役立っていない”ことを証明してしまい、そうであれば、自分できちんと企業価値の向上に役立てるベンチャーキャピタリストになりたいと思ったそうだ。
ただ、そのベンチャーキャピタリストからVCには学生からすぐになるものではないと聞いたため、まずコンサルティング会社へ就職したという。
Rettyなど、シリーズAで5,000万円〜2億円のレンジで投資
まずはGREE Venturesの投資方針やポートフォリオを確認しよう。GREEという事業会社のVCでありつつも、シナジーを追うCVCではなく、純投資でリターンを追うスタイルだ。ファンド規模は20億円。日本国内だけでなく、東南アジアへの投資も実行しており、半々くらいの比率で投資していく方針のようだ。日本国内での投資金額は5,000万円〜2億円を目安に、シリーズAでの投資を中心としているようだ。
「多くの企業へ投資するのではなく、ポートフォリオは厳選し、投資先の経営に関与していきたい」(堤氏)
国内のポートフォリオはファンド設立後1年強で4社。つい先日上場承認が降りたばかりのオークファンも名を連ねる。
他にもGREE Venturesの次のラウンドでYahoo!からの出資を受けたジーニー。GCPと共同出資しているごちクルを運営するスターフェスティバル、ソーシャルグルメサービスのRettyに投資している。いずれも手堅く伸びそうな案件に投資している印象を受ける。
投資方針:サービスの真の顧客は誰なのかを徹底して追及
堤氏は下記の優先順位で投資を考えているそうだ。
1:マーケット
2:経営チーム
3:ビジネスモデル
「特にマーケットに関しては、法規制の緩和などで市場環境が変化が見込めるタイミングは絶好の投資機会となるので、見逃さないように留意しています。経営チームに関しては、どういう視点で市場を切り取ろうとしているのかで将来のポテンシャルが決まると考えています。特にサービスの本当の顧客は誰か。必ず聞く質問ですが、サービスの最初の顧客について徹底的に考えることを重視しています」(堤氏)
「エクゼキューション力も非常に重要です。アイディアだけでは価値にならないので、チームにエクゼキューション力が強い人がいると魅力的です。デューデリでは投資検討先が業務フローをしっかり描けて、事業を回せていけるかを見ています。スケールするビジネスは業務フローを着実に回せる仕組みができていると考えており、重要なチェック項目の一つにしています。あと経営者が数字に強い点も大切です。稼ぐことに対して貪欲でいてほしいです」(堤氏)
O2Oや人材関連分野に注目:データの重要性を説く
注目分野に関していくつか伺った。
「一番注目しているのはO2Oです。特に情報の非対称性を解消するビジネスには惹かれます。あとは人材関連。リクルート時代に米国に駐在していた際に、米国には人材関連のテクノロジースタートアップがたくさんあることを知りました。日本のホワイトカラーの生産性が低いという問題意識を以前から持っており、その生産性を上げるためのサービスやテクノロジーに強い関心を持っています」(堤氏)
ホワイトカラーの生産性に言及されているケースは10人目のVCの取材にして初耳であった。たしかに人材領域は未だにローテクであるケースがほとんどで、生産性向上の余地は多分に残されている。また、データの重要性も次のように説いている。
「インターネットサービスはデータビジネスだと考えており、そのサービスがどういうデータを持とうとしているのかを理解している経営者が好きです。データの重要性を認識していることは大切ですね」(堤氏)
リクルートなどでの事業経験の知見を投資先へ提供
「私の提供価値は、サイバーエージェントFXの前身であったCAキャピタルの立ち上げやリクルートでの事業経験から、その知見を投資先に提供できることです。自分で事業をゼロから立ち上げ黒字化させるために何をすればいいか。人をモチベートするにはどうすればいいのか。絵に描いた戦略ではなく、実際に勝つための戦略策定やその実行を自ら手掛けてきた経験が私の強みであると認識しています」(堤氏)
たしかに幅広い事業経験があるVCは実はさほど多くはない。スタートアップにとって、リクルートなどでの事業運営のナレッジを提供されることは大きいだろう。
「頭で考えたことと、自分で実際に実行してみて得たものは大きな差があると思います。複数の事業経験と、ベンチャーキャピタリストとして数多くのケースを見ることによる掛け算で、起業家により実践的な助言を提供できると考えています」(堤氏)
投資先のコメント:ラーメンではなく、カップヌードルを
最後に、堤氏が担当する投資先の中から、Rettyについてお伺いした。
「Rettyへの投資を決めたのは、主に2つあります。1つはビジネスモデルの明確な仮説を私が持てたことです。食べログ以降、プラットフォームとなる新しいグルメサービスが生まれていない中で、ソーシャルという文脈で新たなグルメサービスが覇権を取れる可能性はあると考えています。もう1つは代表の武田さんが努力家で傾聴力が高いこと。助言を咀嚼して、取り入れられそうなものはすぐ取り入れる。その柔軟性が良いと思いました」(堤氏)
一方で、Retty代表取締役の武田氏からも、堤氏に対する印象を伺った。
「ニッチなマーケットではなく、大きいマーケットしか狙うつもりはない。というスタンスに好感を持ちました。良い喩えをされていて、『その辺のラーメン屋を作るな。カップヌードルを作れ』と語られていたことを覚えています。業界のキーマンなど人のご紹介や、組織のマネジメントやサービスに関しての助言もいただける点に価値を感じております」(武田氏)
事業経験豊富な堤氏のようなキャピタリストを迎えられれば、事業の成長スピードを上げられる可能性はかなり高まるであろう。
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