6作目になるVCの赤本、今回はリード・キャピタル・マネージメントの(以下リード・キャピタル)鈴木智也氏をお迎えする。リード・キャピタルはロコンドへの大型投資や、Sumallyへの億単位の投資など、億単位ディールを得意としている。鈴木氏は両ディールを担当し、取締役に名を連ねる。
親会社であったアント・キャピタル・パートナーズからMBOで2012年11月1日にスピンアウトした。スタートアップのエコシステムが築かれつつある青山一丁目に移転し、今後も精力的に活動していきたいという。
経験を活かせると感じ、事業開発畑からVCへ転身
鈴木氏は新卒でNTT東日本に入社後、1年足らずで退職。その後、友人と起業しているという。その傍ら、大企業17社による新規事業創出コンソーシアムにも参画していた。友人と3年半ほど事業を運営した後に、事業開発会社であるエムアウトへ移籍し、「完全成功報酬型のコンサルティング事業」「超小商圏エリアに向けたフードデリバリー事業」「忙しい人のためのECデリカテッセン事業」の3件の新規事業の立ち上げと運営に関った。
勝敗は、鈴木氏曰く1勝2敗だったようだ。その後、縁あって、アント・キャピタル・パートナーズ、そしてリード・キャピタルへ移籍した。
起業や事業開発など、ビジネスディベロップメント(以下ビジデブ)畑でキャリアを積んできた鈴木氏がVCへ転身した理由は「事業での一定の成果や失敗体験など、自らの事業経験が役に立つ仕事ではないか」と考えたからであるという。自ら事業を興すよりは、人の想いを実現することに役立ちたいモチベーションが大きいという。
ロコンドやSumallyを中心に広義のEC関連に強い
鈴木氏が現在担当しているのは冒頭のロコンド、Sumally以外ではwajaという海外ファッションのEC(エニグモと異なるのはCtoCではなくCtoBtoCである点であるという)、PC不要でustreamなどのインターネット配信ができる「Live Shell」などのガジェットなどを手掛けるCerevoにも取締役として名を連ねる。
その他にも電子マネーのソリューションやARなどを手掛けるrepica、主にGREEにゲームを提供するSAPであるオルトプラスなども担当している。
エムアウト時代に自ら手掛けていたこともあるため、ECが得意分野であると言う。 ECの運営会社のみならず、広義でECに関連する分野の知見が広い。EC関連の事業で見るポイントを5つ挙げている。商品、集客、サイト、ロジスティクス、分析。この何れかに強い案件に魅力を感じるという。例えばECに関連するアドテクや、レコメンドエンジンの提供会社などもカバレッジ範囲に入ってくるという。
特にECにおいては「運用」が肝であり、データドリブンでの運用がEC事業の成否には欠かせないであろうというコメントが、印象に残った。
リード・キャピタルの平均投資金額は1案件で約2億円
冒頭で触れた通り、2012年11月にスピンアウトしたばかりの同社だが、社名の通りリードインベスターとして取り組む案件が主要案件であり、これまでの1社あたりの平均投資金額は約2億円だという。今後はその金額を更に上げていくことを目指しているという。投資した後はバリューアップのために汗を流し、鈴木氏曰く「多い時は週3で投資先に通い、現場に入り込むこともあった」という。
鈴木氏の担当案件以外でも、写真アプリのmiilや写真ストレージサービスのリプレックスなどに今年は投資をしている。来年に向け新規のファンドを組成中で、引き続き積極的に投資していく予定のようだ。投資分野はアプリケーションやミドルウェアなどのサービスレイヤーを好み、インターネットセクター以外でもエレクトロニクスの技術を活かした分野や環境分野にも投資していきたいという。
『ストーリー性』に魅せられ、投資先のビジデブも担う
鈴木氏の個人的な投資スタイルを伺うと、「案件のストーリー性」と「自らが投資することでバリューアップできるか」が交わる案件に投資をするようである。リード・キャピタルの方針にもあるように、リードインベスターとして取締役を務めることも多く「自分が代わりに社長を務めることになってもコミットできる」くらいの強い当事者意識をお持ちのようだ。
「案件のストーリー性」を構成する要素は下記の4つであるようだ。
1:市場(どの市場に何をどうやって提供するのか)
2:競合優位性
3:ビジネスモデル(どういうモデルで収益化を図るのか)
4:経営チーム(なぜこのチームがこの事業を立ち上げるのか)
この中では特に「経営チーム」を重視しており、チームのバランスが良いことが最重要なポイントであるという。プラン通りにビジネスは進まないので、チームとしての底力や情熱があるかも重視するようだ。1〜4を元に構成されたストーリーは「正しい想い」と「正しい理由」があれば「真のストーリー」になり、真のストーリーを見極め、魅了されることが多いという。
一方で鈴木氏の提供バリューは、ビジネスモデルの組み立てやその実行の戦術を描くビジネスプロデュースの部分にあるという。「VCは投資先からレポーティングを受けるだけでなく、投資先のビジデブの一翼を担う必要性があると思っている」とのコメントに、投資スタイルが表れているといえるだろう。
日本発の「モノ」で「グローバルニッチ」を狙いたい
注目分野を尋ねた際に「グローバルニッチ」という単語が出てきた。これは「webサービス」というよりはガジェットのような「モノ」での話で、1地域で1~3万台程度売れるようなニッチなモノを、世界の各地域で展開することによって、スケールさせていくビジネスモデルに興味があり、それを「グローバルニッチ」と呼んでいるという。投資先のCerevoなどはまさにそれを体現しようとしている企業といえるであろう。
一般的に分野にはあまりこだわりがなく、上述の「真のストーリー」の整合性がある案件を好むという。
敢えてどちらに転ぶかわからない案件に投資したい
本シリーズお決まりの「攻略法」だが、「敢えてどちらに転ぶかわからない案件」に投資したいという。リスクの高い話に聞こえるが、頷ける理由を鈴木氏は提示してくれた。
上述の「真のストーリーがある案件」に魅せられるという前提条件はありつつも、誰しもが投資したがるような案件は、想像できる範囲での成長にしかならないケースが多く、かつ人気であるがゆえにValuationも高くなりがちで、投資パフォーマンス自体必ずしもすごく良いとは限らない。
一方で成功確度は現時点では判断しにくいが、その事業が実現しようとしているビジョンが実現できたとき、社会や消費行動、あるいは、産業構造を変えてしまうようなポテンシャルを秘めた案件に投資したいという。結局はそういう案件の方が高いリターンを叩き出す確率が高いようだ。
投資したい起業家に関しては「打てば響く」という表現を鈴木氏は用いたが、素直で柔軟性があり、相手の気持ちを考えた上で先回りしたコミュニケーションもできるような人を好むようだ。とはいえ、「こんな人がいい」とは決めつけず、できるだけ先入観を持たないようにすることが目下の課題であり、右脳を働かせて感性磨くようにしているという。
尚、鈴木氏へのアプローチは誰かを介した紹介で臨むことをお勧めする。
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