最近力を入れているVCの赤本。7作目はIncubate Fundの和田圭祐氏をお迎えした。和田氏は最近GREEヘ138億円で売却したソーシャルゲーム会社のポケラボの創業者としても知られる、今注目のキャピタリストである。和田氏の独自の投資スタイルに本稿で迫る。
グロービス堀氏の「吾人の任務」に感銘を受けVCに
新卒でフューチャーベンチャーキャピタル入社し、約2年後にサイバーエージェントの投資部門に参画。フューチャーベンチャーキャピタルでは唯一の新卒社員としてリビングデッド案件からM&Aの助言、ファンド管理業務などに幅広く従事した。その経験を活かしてサイバーエージェントでは中国向けファンドのファンドレイジングを主導した。
25歳だった2007年に独立を決意し、セレネベンチャーパートナーズを設立。独立時に「たしかにまだ若いな」とは思ったそうだが、ファンド管理業務から投資実行までの一連の流れを経験していたことから、やれないことはないだろうと考えたそうだ。ちなみに新卒からVCというキャリアを選択した背景には、グロービスの堀氏の「吾人の任務」という本を読んで感銘を受けたことがきっかけだそうだ。
「大学生時代に起業家との出会いも多く、ゼロから事業を立ち上げる起業家という人種の魅力を感じていたが、その志を応援する仕事として最もやりがいのある仕事だと思った」と和田氏は語る。
Incubate Fundは「4回のチャンスがある」ファンド
和田氏が所属するIncubate Fundはキャピタリストが4名いるが、予算を4人にそれぞれ配分した上で運営しており、個々のキャピタリストが個別にジャッジできる力が強い点が他のファンドとの大きく異なる投資スタイルであると言えそうだ。通常のファンドは投資委員会の力が強いが、Incubate Fundでは1人のキャピタリストに断られても他のキャピタリストからokが出れば投資することもある。
投資金額のステージは、Incubate camp経由で300万円程度の案件を各campから3〜5社出しているが、1stラウンドでの3,000万くらいの出資をメインにしていきたいという。300万円の出資からスタートした案件は、早く約3,000万円のラウンドへ進めるための資金だと考えている。この辺の1stラウンドで約3,000万円でリードインベスターを担うというのは、同じファンドであり、以前取材したVCの赤本②の本間氏と同様である。
それ以外の特徴としてはマネタイズを考える傾向が強いファンドでもあるという。マネタイズもサービスがスケールした際のマネタイズから、生き延びるためのマネタイズまで両面で準備するパターンも多い。Incubate campやDEMO DAYでもプロモーションやマネタイズのプランを詰めることを相当重視しているという。また、アイデアやモックのみで出資は決定せず、朝の勉強会などを通してスタートアップの成功失敗事例をVCの視点から徹底的に語り、それに喰らいついてこれる、ハードワーク志向のある起業家に出資をしているという。
既存の市場を活性化できる新しい軸を持つサービスに投資
Incubate Fundの中でも代表的なディールとなったポケラボは、Incubate Fundが投資する前から、和田氏が共同創業スタイルで立ち上げた。他にもゲーム系はイストピカを手掛けた。昨年から今年にかけては、国内でのFacebook人口の拡大を見越した上で、Facebook連携を前提としたサービスに対して、Incubate campをきっかけに300万円での投資でスタートした案件が多いようだ。
まだ正式リリースはされていないが、週末に日帰りや1泊2日のような遠出企画をするライトなtrippieceのような印象を受けるCollaboや、名刺に載らないようなストーリーを語り続けるらしいStorys.jpなどは私も注目しているサービスである。和田氏の担当ポートフォリオは下記。
Facebookの流れによって、「バカと暇人のもの」と言われていたwebが、実名による性善説を前提としたサービス設計が可能になった点が 日本のインターネットサービスにとって魅力的なチャンスであるという。スタートアップの勝ち方として、既存のサービスに対して別の新しい軸を持って勝負出来るかが鍵であると考え、Facebook連携を前提としたサービスはその新しい軸の一つになり得るという。
またどのような「事業資産」をそのサービスで積めるかという点も意識しているそうだ。事業資産はオセロのようなもので、事業資産を一定規模積み上げるとドミノ倒し的に「何かが起こる」こともあるという。事業資産がある日突然思いもよらぬマネタイズに結びつくこともあるそうだ。
共同出資もしくは共同創業という独特のスタイルを好む
VCの赤本でも過去の事例がない和田氏独特の投資スタイルとして「コ・インベスト(共同出資)スタイル」が多いという点が挙げられる。数千万円前半を出資する他のVCと同ラウンドを共同出資した経験はかなり多いそうだ。共同出資を好む理由としては2点。
1点目は、仮に3,000万円がシードラウンド1件あたりに投資できる予算だとすると、2社で手掛けておくと追加投資の枠を設けておきやすいということ。例えば最初に1,500万円ずつ投資して、足りなくなれば追加で1,500万円入れるというイメージ。2点目は自分だけではなく、同じように事業をサポートできるVCがいることで、ネットワーク効果が倍増したりセカンドオピニオンを得られるなど、起業家にとってメリットが多いということ。シェアにあまり拘りはなく、共同出資の場合は均等に入れることが多いという。
もう一つの特徴として、和田氏の主導でドメインを定めてから経営陣をリクルーティングして共同創業するというスタイルがある。本稿では詳細を省くが、GREEに売却したポケラボはまさに共同創業案件だった。現在も共同創業案件を仕込んでいる。今回は和田氏の意向もあり、記事で紹介はできないが、グローバルに通用するNext Big Thingとなり得る高いポテンシャルを持ったサービスだと私は感じた。
「○○の日本版に興味はないし、デラウェアで登記することが世界への道だとは思わない。 事業モデルにもよるが、ローカルバリアーの高い事業でなければ、プロモーションを現地に最適化すればグローバル展開は可能であり、そのサービスがグローバルにユーザーに刺さるかどうかが重要。pixivやcygamesも日本 に拠点をおきながらオリジナルのサービスでグローバルに通用している」と和田氏は語る。「世界から『ありがとう』と感謝されるようなサービスを生み出したいですね」とグローバル展開に意欲を見せながらも、ユーザーに本当に役立つサービスを作りたいという思想が見受けられた。
和田氏攻略法:新規案件はクラウド系以外受け付けない
人気キャピタリストであるが故か、セレネベンチャーズも含めて担当しているのは現在16社。その内10社ほどに対して現在も細かいメンタリングを継続しているという。ポケラボのような共同創業案件を現在手掛けているということもあり、Incubate Camp経由以外の新規案件にはしばらくは積極的ではないようだ。
ただし、現在興味があって事業プランを検討中の分野は「クラウド系」とのことで、クラウド系で事業を起こすことに興味がある人はぜひ連絡して欲しいという。和田氏のコーヒーミーティングなどから面会を申請してみると良いであろう。
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VCの赤本③:motion beat丸山氏
VCの赤本④:CAV林口氏
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VCの赤本⑥:リード・キャピタル鈴木氏
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