国内未上場巨額調達SaaS企業4社の資金調達の感想

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B Dash Camp2019 fallのレポートです。こちらも興味深いセッション。ちなみにウメキワークスでは下記の記事を書いています。国内、海外でSaaSのバリュエーションロジックを調査しました。未読の方はご参考までに。

・米国上場SaaS銘柄32社の比較からみるバリュエーションロジックリンク
・国内上場SaaS企業10社比較にみるSaaSのバリュエーションロジック:リンク

基本的にPSRロジックが多いと思いますが、原価率や広告費、ピュアSaaS比率、40%ルールなどを見て、PSRの高低に多少反映される。と見て、上記の記事を書きました。

セッション名:
SaaS企業の巨額資金調達ロジックと成長戦略

スピーカー:(敬称略)
宮田昇始 SmartHR
矢矧利太郎 フロムスクラッチ
稲田武夫 オクト
中尾豊 カケハシ

モデレーター:
倉林陽 DNX Ventures

冒頭で倉林さんから市況感の話がありました。全てをカバーできませんが、気になった点をいくつか。

・売上成長率が高いと売上マルチプル(PSR)が上がりやすい
→SaaS初心者でも分かる話ではありますが、一応大前提で確認

・米国だとARR100億円以上で売上成長率が25%以上ないと上場できない?という風潮(聞き間違えだとじゃないと良いのですが)もあるようですね。

・NRR(ネットリテンションレート)100%切るとアップセル効いてないのできつい
→Hubspotとか100%切るのできつい。このNRRのデータはウメキワークスでも拾えなかったので貴重(スライド撮影しそびれた)

・創業者の持分比率は低くなりやすい
→大規模調達が必要で希薄化しやすい事業モデル

ちなみにSaaSって事業者や投資家じゃないと、NRRってなんですかレベルな人も多い気がします。初心者でもわかるSaaS的な記事は需要ありそう。

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SaaS企業4社の調達ラウンドの感想

下記のバリュエーションは過去に謄本から調査してウメキワークスで紹介したものと同じです。各社のデータの下のテキストは、各経営者のコメントで気になった点を紹介。

☆オクト
シリーズA調達:4億円
シリーズB調達:約20億円
ポストバリュエーション:78.4億円

シリーズBは当初10億くらいの調達予定だったが、TAMを広げたいので大きめに調達した。

☆SmartHR
シリーズA調達:5億円
シリーズB調達:15億円
シリーズC調達:61.5億円
ポストバリュエーション:307億円

シリーズCは3月後半から動いて7月に着金。事業会社から調達しようとしたが、事業シナジーを求められるのが、あまり合わないと感じた。海外投資家と会ったらリアクションが良くて、話が早そうだった。もともと海外投資家から調達しようと思っていなかったが、結果的にそうなった。

海外投資家は黒字化を求められず、グロースを強く求める印象。

☆カケハシ
シリーズA調達:10.6億円
シリーズB調達:26億円(本日リリース)
ポストバリュエーション:34.2億円(シリーズA時点)

共同創業者が次のグロースのストーリーを描いてくれていたので、自分は事業成長にリソースを割けたのが良かった。調達額は半分は既存、半分は新規事業にトライしたい。採用に振りたい。

今日発表ですが、電通や伊藤忠から26億円調達しています。

☆フロムスクラッチ
シリーズA調達:3億円
シリーズB調達:10億円
シリーズC調達:32億円(謄本上では24億円)
シリーズD調達:100億円
ポストバリュエーション:311億円(シリーズD時点)

シリーズCがやせ我慢だった時期。シリーズDはCよりトラクションが出ていたので、楽だった。Dでは60億円くらい調達できれば良いなと思ったが、既存株主からGSやKKRを紹介いただいた。早期のIPOでキャッシュを生むより、世界で変革を起こすという高い志を持つ投資家を迎えられてとても良かった。

SaaS企業経営者が考える、良かった投資家

倉林さんから、投資家に対する感想の質問がありました。

・バーティカルSaaSだと特に金融機関からはニッチだと言われがちですが、自分以上にデジタルシフトに関心を強く持っている投資家のほうがコミュニケーションしやすかった(オクト稲田)

・日本と米国の違いは、海外投資家はチャーン(解約)のこだわりが強い。解約顧客リストの提出まで求められることもある。NRRの高さのウケが良く、(海外投資家が)うおお!となる。ペイバックが18ヶ月だが、NRRを加味するともっとペイバックを短縮できる。もっと投資を踏まないのか?と逆に説教された。グロースへのこだわりが半端なかった(SmartHR宮田)

・今回ラウンドに入らなかった海外投資家で、かなりの調査費用を払ってじっくりと日本市場をリサーチしていた投資家もいた(SmartHR宮田)

・技術位優位性やマーケットの広がりを、事業者目線で買っていただける投資家がいた点が良かった。CFOがいない中で投資家と壁打ちをするが、議論の中でエクイティストーリーを作り上げてくれる投資家もいたのも良かった(フロムスクラッチ矢矧)

・フロムスクラッチに関しては、競合が多い中でARRを伸ばしてきたという点が投資家から評価された印象もある(DNX倉林)

・海外投資家は英語のレポートが必要なのかなと思ったが、(入ってくれた投資家は)ロングなので四半期決算のレポートを求められず、むしろ楽だった(SmartHR宮田)

・既存投資家に対する満足度が非常に高いので、良い投資家を入れたほうが上手く成長できると思うので、投資家入れるのおすすめです(カケハシ中尾)

バリュエーションロジックのセッションでしたが、冒頭の倉林さんのオーバービューを丁寧に追うと把握できるかと思いますが、各社の詳細なバリュエーションロジックの把握はできなかった印象です。

SaaSのバリュエーションロジックに対して、個人的雑感としては未上場ではPSR10倍が一つの基準だったのが、夏くらいから下がってきて、今はPSR7-8倍という目線がマジョリティになってきているかもしれないと感じます。

あくまで実務経験を通してではなく、外側からみた感覚なので、VCからみると少し違うのかもしれませんが、一時期の過熱感からバリュエーションの面では少しトーンダウンしてきた印象です。しかし、資金調達傾向を見ているとSaaS案件が一番増えているので、日本のスタートアップでも花形ではあります。

B2B SaaSは伸びない!と主張するVRおじさんもいますが、私は全然SaaSの方が良いと思います。ちなみに、SmartHRもカケハシも、過去のB Dash Campのピッチアリーナの優勝企業ですね。なぜB DashはSaaSにあまり投資しないのでしょうかw

SaaS経営者の皆さんは、会場でお会いしたら「PSR何倍ですか」と聞いて回って肌感覚をつかみたいと思いますので、宜しくお願い致しますw



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