DGインキュベーション石丸文彦氏:事業資産が蓄積されるプラットフォーム事業へ積極投資:【VCの赤本⑨】

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久々のVCの赤本。9作目はDGインキュベーション(以下DGI)の石丸文彦氏に話を伺った。石丸氏はジャフコ、カカクコム、サイバーエージェント・ベンチャーズ・チャイナなどを経て2012年1月からDGIにて投資活動を開始した、ベテランキャピタリストだ。

普段メディアにはあまり登場されないようだが、今回は特別にご登場いただき、投資方針などをお聞きした。

オーセンス、クラウドワークスなど注目案件への投資実行

まずは直近の代表的なポートフォリオから見ていこう。DGI単独での1億円投資となった弁護士ドットコムを運営するオーセンスや、先日の本誌の2012年Deal of the Yearを獲得したクラウドワークス、料理写真アプリSnapDishを開発するヴァズといった注目案件に投資を実行している。

このほかにもオークション比較サイトで順調な成長が噂されるオークファン、ソーシャルチケッティングのPeaTIX女性向け特化CtoCフリマアプリのFrilを開発するFablicなどの注目銘柄が控える。FrilやgifteeはOpen Network Labとの連携の延長線上の投資といえよう。ここに挙げた8社は代表例で、それ以外も含めると石丸氏の担当は多数に上る。

カカクコムなどのDGグループのリソースを活かした投資

DGIが行う投資事業は、デジタルガレージグループ(以下DGグループ)のビジネスモデルの中核を担ってきた。国内のみならず、海外、特にシリコンバレーの投資家ネットワークにも強みがある。デジタルガレージの共同創業者 取締役であるMITメディアラボ所長の伊藤穰一氏の繋がりから、DGIは海外ではTwitterやPathへの投資も実行している。Y combinatorのデモデーへ毎回参加している他、著名投資家であるRon Conway氏が関わるSV Angelや、500startupsにLPとして出資している。

国内の動きとしては古くは米国のinfoseekの日本展開や、価格.comや食べログを運営するカカクコムを子会社化している。(カカクコムはDGグループによる子会社化後の2003年10月にマザーズ上場)最近では上記にも挙げた 、世界を目指す起業家の支援を目的としたOpen Network Labを展開することでも知られる。

「DGIとしてはカカクコムなどのDGグループと何かしらのシナジーを生み出せそうな事業に投資する方針です。我々はベンチャー・キャピタルではなく、あくまでインキュベーション。事業を共に創造することにこだわります。」(石丸氏)

投資ラウンドをシードやシリーズAなどに絞り込むことは特にせず、あくまで事業シナジー重視だという。特定のラウンドに絞らないVCは2013年現在の日本では珍しいかもしれない。DGグループは価格.comや食べログに代表されるメディア事業のみならず、マーケティングや決済関連の事業も有する。スタートアップにとっては何かしらのシナジーは構築しやすい環境にあるといえるだろう。

事業資産を積み上げるプラットフォームサービスに注力

注目分野に関してはこのようなコメントを残された。「バズワードに踊らされないように意識しています。バズワードになる前のコンセプト段階での投資実行が理想的ですね。」(石丸氏)

投資判断の際に、そのサービスや会社に事業資産が蓄積するモデルであるかを見極める。ユーザー数なのか、投稿数なのか。資産が蓄積されていくモデルであれば、やがて大きなプラットフォームになり得る。中長期的な観点では、事業資産の蓄積の有無が勝敗を大きく分けるという。一方でプラットフォームに乗る側のサービスや、規制リスクがある分野はコントロールが難しいため、投資判断として合理的ではないと見ている。

例えば、SnapDishでは写真アプリということもあるが、デイリーの料理の写真の投稿数は同種のサービスでは国内随一であるという。このような投稿は資産となり、やがて広告などへと上手く収益化していけるのではないか。SnapDishは国内に限らず、アジアを中心とした世界展開を視野に入れており、事業資産を蓄積したモデルでの世界展開への目論みに石丸氏は自信をのぞかせた。

シナジーの仮説を持ち、強みが明確なチームに惹かれる

どのようなチームへ投資をしたいと思うか。石丸氏に攻略法を伺った。

「お話しした通り、DGIはシナジーを重視した投資方針です。DGグループの資産をどのように活かしてシナジーを出すのかという仮説を持っているチームは話が早いです。あとは明確な強みを持ち、ブレないビジョンがあるチームに惹かれます。サービス自体がピボットすることは、ビジョンに沿っていれば構いません。当初のビジョンと全然異なるサービスへピボットするスタートアップも少なくない中、ブレないビジョンを持つチームは強いと思います。」 (石丸氏)

たしかによくわからない方向へピボットするスタートアップは少なくないと筆者も感じる。チームの強みの延長線上にサービスがあること。これは案外見逃されがちな点かもしれない。

投資先のコメント:事業経験豊富な希有なキャピタリスト

石丸氏が投資担当を務める、オーセンスグループ株式会社の元榮太一郎代表取締役に、石丸氏の印象をお伺いした。

「カカクコムの上場を経験するなど、自らネットビジネスやIPOに携わった経験にもとづく的確な経営課題の指摘とソリューション提案は、当社に貴重な価値をもたらしてくれています。また、収益力強化や課題解決につながる外部アドバイザーや社員を多数紹介してもらい、人材強化にも大いに貢献していただいています。」(元榮氏)

「エンジニアやデザイナー以外の、ビジネスサイドの業務はほぼ経験したことがあります。マルチプレイヤーといえるかもしれません」(石丸氏)

ジャフコやCAVというベンチャー・キャピタル業以外でも、時には買収サイドに回り、買収した会社の事業支援のために現場に入った経験もある。カカクコム時代には経営企画やIR、広報まで担当した。営業および新規事業立上げの経験もある。ビジネスサイドにおける現場での広範な事業経験を有するキャピタリストは日本でも指折りであろう。経営のみならず、現場に対しても的確なアドバイスができる、頼もしい存在だ。

投資活動の加速が予測されるDGI。DGグループとのシナジーと石丸氏という頼もしいキャピタリスト。2013年はDGI案件が急増していくだろう。

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