VCの赤本2016:7人の若手キャピタリストと投資先からの感想

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32歳くらいまでをギリギリ若手キャピタリストと仮定して、主に独立系の若手キャピタリストを本稿でまとめて紹介します。特に20代で起業する人にとっては、年代が近くてかつ自らリスクも取っている彼らは身近に感じるでしょう。アーリーステージでは下手な金融系VCを入れるより、彼らに入ってもらって業界慣習を学んでいくのが良いかもしれません。

ファンド設立の時系列順に、彼らのポートフォリオや投資先からのコメント、業界的な評判、梅木のコメント、そのVCと相性が良いであろう起業家像を交えて紹介する。久々のVCの赤本、番外編といったところ。

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1:ANRI / 佐俣アンリ氏(2012年5月〜)

20代で独立系VCを作る先駆け的な。当時28歳で5億円規模のファンドを組成、2014年7月の記事で見かけた2号ファンドは20億円規模の組成を目指すとあった(着地の組成額はわからず)。ポートフォリオは下記。

IPO:クラウドワークス
M&A:ペロリ(MERY)
主な投資先:コイニー、ラクスル、uuum、スクー、スマートドライブ、レジュプレス、カンム

クラウドワークスはレイターでの投資であったが、ペロリにはシードで張っており、そこのリターンで1号ファンド分を全てとはいわないが半分くらいは回収できたのではないか。あくまで推測に過ぎないが、主な投資先で相対的な保有比率が高いのはコイニーとuuumと本誌では予測する。

僕の印象としては、彼はとにかく鮨が好きで、毎月1度は『すし通』に行っているに違いない。あとは投資先に対して異様にお菓子を買って行く。励まし力というか、人間力というか、あれは僕にはできない技ですが、本来的にはやったほうが良いことであり、凄いなと思います。。他にもキーマンやイケてる人のみをグリップしておく力(言い換えると政治力というのか)に長けている印象で、いろんな人とやみくもに接点を持つのではなく、要点を抑えるのが上手そう。幅広い年代のキーマンを抑えている。投資先CEOからのコメントは下記。

良い点は、人(投資家、起業家、エージェント、不動産、クライアント)を紹介してくれる 投資先同士が集まる機会があり仲間意識が生まれ、情報交換・ノウハウの共有が行われ、勉強会が充実している。いつでもなんでも相談できる信頼感があ。 採用・組織など躓くポイントを先に教えてくれる

悪い点は、合う合わないタイプが分かれるというところでしょうか。

僕の認識通り、ネットワーキング力が強いといったところでしょうか。「軍団感」を感じますよね。シャレー軍団、みたいな。実際に好き嫌いが分かれると聞きますし、合わなかったという話を耳にしたこともあります。しかしながら、これだけ様々な良さげなディールに入り込める力は凄いと思います。僕がVCという仕事に就くことに関心がなくなったのは、実は彼の活動を横目で見ていた点も大きいです。あ、なんか覚悟が決まってるな。中途半端にやると、勝てないな。と思ったからというのもあります。

彼に限らず相性というのはあると思うが、向くタイプとしては「うぇ〜い」というのが嫌いじゃない起業家。人と人との結びつきの優先順位を高めに置いている起業家かな。

2:Skyland Ventures / 木下氏(2014.1〜)

時期は1号ファンドが5億円集まったと記事で発表されていた日付とした。2号ファンドは12億円目標に組成中?なのかな。ファンドの方針として、1,500万円前後の投資で15%のシェア取得を狙う記事にはある。

主なポートフォリオ:トラベルブック、カウモ、トランスリミット、ナナメウエ、八面六臂

とにかく行動量が凄まじい木下氏。だが、何を言っているのかよくわからないことも度々あるので、賛否両論が分かれるが、その行動力でサポーターを地道に増やしていっている印象。一見、ちょっと怪しい人に見えますが。マックスってなんやねんと。いや、一見じゃなくても十分怪しいな……

ノーハンズオンを自称しているが、その潔さはむしろ好感を持たれるだろう。事業のディティールにまでベンチャーユナイテッドが口出ししてきてウザいという意見も見にしたことがあ、事業には口を出さないから、盛り上げたり人を紹介したりすることに特化するというのは、それはそれで一つのスタイルだと思う。投資先CEOから木下氏についてコメントをもらった。

良い点は、毎回ミーティングで「〇〇は絶対成功する」など、アツイ言葉を自然にくれるので元気が出る。若くて、熱意のある就職希望者をびっくりする頻度で送ってくれる(多い時では1週間に1人以上送り込んでくれた)。会いたいと思った人とのアポイントメントを高確率で取ってきてくれる。いい意味で、質問やお願いに対するハードルがむちゃくちゃ低い。

悪い点は、ビジネス・組織づくりに関してのアドバイスがない、ザクッとしている。

彼と相性の良い起業家は、あまり口を出されたくなく、かつ業界の人脈が欲しい起業家かな。

3:ソラシード / 柴田氏(2013年7月〜)

2013年7月にインキュベイトファンドをLPに3億円規模のファンドを組成した柴田氏。ソラシードの1件目の投資先であるサムライトが朝日新聞に十数億円規模で買収されたのは先日報道したばかり。

M&A:サムライト
主な投資先:ネイルブック、マンションマーケット、キッズカラー、LIVE3、スマートキャンプ、vivit

彼の最大の特徴は、楽天やリクルートでの事業経験が豊富であり、若手キャピタリストの中では最も事業面でのハンズオンが期待できるだろう。投資先1号のサムライトも自らが2年間CEOを務め、M&Aまで持っていった。

彼は人に興味がないのか、アンリ氏や木下氏と比べると業界内で幅広く顔を出すということはなく、事業を淡々と進めていく印象です。ゆえに、好き嫌いが分かれるというところまで認知が至っていないというのが現状であり、知る人ぞ知る存在になっている印象です。彼を苦手とか合わないという人の話は聞いたことがなく、無害でアクがないタイプともいえる。投資先のCEOからのコメントは下記。

良い点としては、大前提として、「起業家」を信じてくれています。理想的なお兄ちゃんのような感じです。その上で、足りない部分を埋めるアプローチをしてくれます。なので、そのアドバイスが事業上必要であれば、素直に取り入れられますし、考えた上で取り入れない場合でも理解してくれます。口では表面的に言っているのと、本気でそう思っているのでは、起業家側もアホではないので、その違いを感じます。

実務的には、リクルート式のグロースノウハウ(SEOやマーケティング手法、KGI/KPI設計など)がありますし、サムライトでの人事的ノウハウもあります。

悪い点としては、優しすぎる点(気を遣いすぎ?)でしょうか。

彼と相性の良い起業家のタイプとしては、素直に言うことを聞いてゴリゴリオペレーションを回せるタイプ。スマートキャンプの古橋氏とか、まさにそういう感じでしょう。木下氏とは真逆のスタイルといえるので、口を出すな系は相性が悪いかもしれません。

ちなみに今回紹介するキャピタリストの中では私が唯一仲良しと勝手に思い込んでいるので、考え方がTheStartup派な人は柴田氏との相性が良いかもしれない。

4:プライマル / 佐々木氏(2015年1月〜)

2号ファンドが公開されたのが2015年1月であり、規模は3.1億。ソラシードと同様にインキュベイトがLPとなるFunds of Funds。

主な投資先:Crevo、ママリ、シナプス、ストロボライト、LiP

佐々木氏に関しては本誌の読者であれば気づいているだろうが、明らかに彼のことと思われる、はてなブログの匿名記事が上がっていた。(その記事は削除されてしまったようだが)だが私の認識もこの内容と大差なく、たしかに横柄な対応をされたことが私自身もあると記憶している。詳しくは魚拓があるようなので、そちらをご覧いただきたい。一部を抜粋しておこう。

私は恐らく、年齢ももういい年であるし、当然若手であるS氏よりは目上の人間であるためか、以前接する機会があったときには丁寧な元気のいい若者であるという印象であったが、あまりにも上記訴えが多いため、なるほど相手によって異なる態度をとっているのかということが判明した。この界隈のサロン・メディア運営で有名なU氏も本件には言及していたようである。

サロン・メディア運営で有名なU氏……じわじわきますね。

ちなみに私がサロンで言及したことが耳に入ったのか、佐々木氏からはFacebookではブロックされている。この記事を出したことによって、「お前を業界で生きていけなくしてやる!」とか言われそうだなと思う。彼を知る人であれば容易に想像できる絵であろう。それが彼の評判を貶めていることに気づくべきだが。一方で、メディアを通してこういう現状を伝えて欲しい。他の起業家には嫌な思いをしてほしくないと訴える読者も少なからずいたことを付け加えておく。

ちなみに私は佐々木氏のネガティヴキャンペーンで潰れるほどヤワではない。もっと修羅場を潜ってきたつもりだ。

そんな佐々木氏の投資先CEOからコメントをもらった。

良い面は、まず偉い人に遠慮せずにコミュニケーションできる点。コミュニケーションのハブとして機能しています。次いで、投資先へのコミットが高いことも含めて、きちんと対等風に議論ができること。起業家を尊重しすぎて大したこと言わないサラリーマンVCや、逆にレジェンド過ぎてお話拝聴モードになってしまう方々と違って、喧々諤々の議論をするには良い相手だと思います。

悪い面は、態度が尊大なところ。不機嫌そうな姿勢で強く主張するタイプなので、受け手のメンタルが強くないときつい。ただこれは最近かなり改善されつつあり、より建設的な議論ができるようになってきています。

投資先からも態度が尊大であるという指摘があり、その点は私の認識と大差ありませんでした。相当な喧嘩腰なんですよね。僕が業界内でそこまで喧嘩腰になることは、TechCrunchに対してくらいしかなかったと思いますが、彼と似た点はあると認識しているので、気をつけようと思いました。

投資先CEOのコメントで盲点だったのは「レジェンドVCだとお話し拝聴モードになってしまう」という話。起業家によってはレジェンドVCだと気を遣って意見をぶつけられないということがありそうだ。その点、同年代のVC相手であれば、気兼ねなく議論できるという長所はあるかもしれない。

この起業家曰く、佐々木氏は彼よりもやや年下でウェットよりもドライなパートナーを求めている起業家にとっては相性が良いのではないかとのこと。

私としては上記3名のような複数の若手キャピタリストがいる中で、明確な欠点がありつつ、飛び抜けた強みが感じられないので、相対的にはお勧めはできない。インキュベイトファンドからどう思われようが、本誌としては「推奨できない」という見解を主張する。

その他:組成したばかりのキャピタリストたち

その他組成1年以内のファンドを運用する方々も補足がてらご紹介。

5:TLM / 木暮圭佑氏(ぱそてるま)24歳(2015年7月〜)

East Venturesを経て独立というルートはANRI氏と同様。童貞キャラとして異常なツイート数を叩き出しており、twitterで見てるだけだとヤバいやつですが、会って話してみると本当に24歳かと思うくらい、インターネットのことをよく知っている人材。ファンド規模は1億前後で、投資先に「ヒカカク」など(その他は非公開案件)がある。

若手といっても彼のように新卒に近いくらい若いキャピタリストが投資先に価値を出せるのか?30代のキャピタリストではリーチできない学生起業家にリーチして、その中から跳ねる案件をソーシングすることが差別化になると思う。

6:IF Angel/ 笠井レオ氏22歳(2015年10月〜)

またもインキュベイトをLPとしたFoF。インキュベイトはFoFを通じて、若いキャピタリストを育成しようという気概が見られて素晴らしいですね。笠井氏はBookLapというサービスを運営していた元学生起業家。あまり話したことがないので(一度くらい会ったことあったかな)、なんとも言えないが、元起業家のVCというのは起業家の気持ちを理解しやすいので良いと思います。彼の書く記事は評判良いですよね。

7:F Ventures / 両角将太氏28歳 (2016年3月〜)

元サムライインキュベートで榊原氏の事実上の右腕として活躍した両角氏。彼の故郷福岡のスタートアップ支援に特化したファンドを設立。ファンド規模5億円を目指すとのこと。

両角氏はかつて半年に一度あった「サムライベンチャーサミット」でご一緒していたので、どういう人物かはだいたい把握している。おとぼけキャラのようにも見えるが、とにかく謎のアライアンス力があり、シナプスサロンに堀江さんを引き込むなど、時折スーパープレイを見せることがある。サムライでは主にSSIでイベントを回したりスポンサーを獲得してきており、アライアンスに長けていると明確にいえそうだ。

なお、500startupsのジェイムス氏と澤山陽平氏も該当するのではないか?とサロンでツッコミがあったが、「独立系ファンド」に絞りたかったため、海外VCの冠を付ける同社は紹介を割愛した。TechCrunchやTheBridgeで十分露出しているので、うちはもういいんじゃないか…苦笑。

以上、7人の若手キャピタリストのご紹介でした。

大前提として、皆さん、独立系ファンド運営という長期間のプレッシャーのある仕事を若くして選んで実行しているという覚悟があり、凄いなと思います。その点は全員に対して敬意を払います。チキンな私にはできなかったことです。



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