ざっくりいうと…
1:Amebaスマホ広告収益の伸びが今後最大の焦点
2:Cyber Zを中心としたスマホ広告代理事業の拡大に注視
3:マイクロアドの利益貢献のアップサイドは限定的
4:CAが新規参入する分野はマスマーケットに拡がる可能性が上がり、スタートアップにとっては市場拡大のチャンス。CAによるM&Aの可能性にも言及
今後、The Startupでは新カテゴリー「上場企業」を新設し、上場企業のカバレッジもお届けします。機関投資家と対話する機会も増えておりますので、証券会社のアナリストとは一味違うレポートを提供します。最大の違いは投資判断や適当な仮定に基づく利益額予想をしなくてもいいというところでしょうか。出禁にならないよう、気をつけます。
第一弾はスタートアップの主要分野へ続々と参入しているサイバーエージェント(以下CA)。スマホネイティブで大ヒットタイトルを目指すとありますが、ゲームの当たり外れの予想は競馬の予想とさほど変わらないでしょうし、私はゲームに詳しくないのでゲームのことは中の人であるサイプロさんに任せて触れないでおきましょう。
むしろAmebaスマホのゲームおよびSAP以外の収益の柱が今後2-3年で育ち得るのかが焦点と私は見ています。スマホ広告とアドテクを中心としたインターネット広告事業およびAmeba媒体のスマホ広告の収益のアップサイドが鍵と見ています。本稿ではウルトラCとしてM&Aの可能性も言及しました。
投資育成事業を除く3つのセグメントおよび新規事業と写真アプリに関する詳細を各項目でご紹介します。本体が様々な事業に参入していることと、投資育成事業でかなりのスタートアップに投資していることから、CAを徹底解剖すると日本のインターネット業界を俯瞰することができるといっても過言ではありません。
各資料やデータなどの出典:2013/3QのCA決算資料
Cyber Zが中心に牽引していると思われるスマホ広告事業
スマホ広告で年間300億くらいの売上になりそうですね。スマホ広告市場に関しては本誌でもこれから本格的な調査を開始しますが、下記がトピック。
■スマホ広告の中心商材
・アドネットワーク
・リワード
・純広:Yahoo!やLINEが強い程度で市場の中心ではない■スマホ広告の中心クライアント
・ソシャゲ:数億円単位で出稿していると思われる
■スマホ広告代理店で強い会社
・Cyber Z
・アドウェイズ■営業利益率
競合代理店がまだあまり多くないため、PC分野でのダンピングは起こりにくいと考えられ、PC分野の5%前後よりはマシな10%前後以上と思われる。
参考:2013/3Q(連結累積)インターネット広告事業
売上 :582億
営業利益 :57億
営業利益率:約10%(PC<スマホと考え、スマホで15-20%と推測)
よってスマホ広告比率が上がると、営業利益率も改善傾向になる■総括
①:スマホ広告市場の急速な拡大はソシャゲ市場の急拡大により支えられていると思われる。ソシャゲ市場のシャワー効果的な市場。ゆえにソシャゲバブルが弾けた際に成長が鈍化するリスクがある。
②:スマホ広告の出稿主のナショクラ比率の伸びに注視。ナショクラの出稿額が急速に伸びていけば、ソシャゲバブルが弾けた際のリスクは限定的に。
③:アドネットワーク中心の市場で、効果的な出稿先の供給が不足している。Yahoo!並に強い純広枠が新規でどれだけできるかに注視。
スマホ広告市場の分析はもっと詳細にやろうと思っていますが、しばらくはソシャゲを中心とした出稿需要は急には下がらないと思われますし、Cyber Zを中心としたスマホ広告売上の伸びは堅い、と見ています。
DSP事業を手掛けるマイクロアドの利益貢献は如何に
尚、ゴールドマンサックスがbuyの根拠とした「スマホ広告とアドテク」の「アドテク」に関しては子会社のマイクロアドがBLADEというDSPを手掛ける。DSP分野はYJキャピタルから5億円の出資を受けたフリークアウトなどのIPO予備軍が控える有望市場。マイクロアドの事業数値に関しては、機関投資家・アナリスト向け説明会質疑応答Q18に記載があり下記に抜粋する。
■マイクロアド2013/3Q事業数値
売上 :16.5億
営業利益:2億
営業利益率:約12%■マイクロアド2012/3Q事業数値
売上 :12.3億
営業利益:1.5億
営業利益率:約12%■マイクロアド2013通期事業数値予測
売上 :64億
営業利益:8億
根拠:(3Qを4倍しただけ)尚、2013/3Q累積連結は上記スマホ広告の項で「インターネット広告事業:営業利益57億」とあり、マイクロアドの利益貢献は10%程度と推測される。
■参考:フリークアウト
ポスト時価総額:103億
YJキャピタルの出資:5億
出典:FreakOut、YJキャピタルからシリーズBラウンドで5億円調達
■RTB市場規模のアップサイド
出典:2016年のRTB市場規模は2011年の16倍超へ――マイクロアド調べ
これを元にマイクロアドの将来の事業数値の予測を立てる
■マイクロアド2013通期
売上 :64億
市場シェア:約14%
算出根拠 :上記の通り、2013/3Qの4倍■マイクロアド2016通期
売上 :約144億
営業利益 :約17億
営業利益率:約12%算出根拠
①:市場シェアがそのままと仮定
②:営業利益率がそのままと仮定■DSP市場のトピックス
・主要プレイヤー:マイクロアド / フリークアウト / クリティア
・BLADEの伸びは鈍化傾向(市場関係者へのヒアリング)■総括
・マイクロアドの3年後の通期営業利益が上記の想定通り約17億となり、現状からのアップサイドレンジは10-20億円程度。これではbuyの根拠とするには薄い。CA全体に対する利益貢献のインパクトは5-8%程度で軽微であると判断する。
SAPその他メディア:制作ラインの効率化で収益性向上
ゲームに関しては本誌では多くをコメントしないが、引き続きCygamesの神撃のバハムートなどが主力タイトル。決算資料以上のトピックはない。
■SAPその他メディア
2013/3Q連結累積
売上 :456億
営業利益 :61億
営業利益率:約13%
ガールフレンド(仮)が牽引するAmebaは広告化が焦点
*誌面の都合上図が小さくなりましたが、クリックすると拡大できるはず。
Amebaに関しては広告24億:課金46億=34%:66%=1:2という比率となっており、機関投資家質疑応答によると2014年9月期決算でも同様の比率を想定しているとのこと。
■2013/3Q課金事業
ガールフレンド(仮)一本で約30-40%を占める?▷スマホコイン有償化率から売上想定
スマホコイン消費額:57億
有償化率:50%(内製のみ)
スマホ売上高:約32億と想定(内製51億×50%+外製6億)▷ガールフレンド
月間スペンド額:10億
2013/3Q売上高:約15億(10億×3×有償化率50%)
ガールフレンド課金占有率:約33%(15億÷四半期課金売上46億)注:ボラティリティを見積もり、占有率30-40%のラインと推測
▷Amebaソーシャルゲームタイトル数:68作
■総括
・68作中ガールフレンド(仮)1作のシェアで30-40%と非常にアンバランスな状況にある。
・ソシャゲ業界全体にいえることだが、ヒットが読みにくいため課金事業は将来的な安定性を欠く構造にある。
・ゆえにAmeba課金事業の成長性を根拠とした投資判断は妥当ではないが、ガンホーなどよりは他の事業でポートフォリオが取れているため、安定性は極めて高い。
続いてコミュニティサービス。
■月間PV(2013年6月)
・Amebaスマホ全体:122億
・コミュニティサービス:15億■PV / 売上(月間)
・122億 / 約8億
・CPM:0.06円
・コミュニティサービスPV15億 / 1億程度の価値?■コミュニティサービスで注視するポイント
・コミュニティサービスからゲームへの回遊率:非開示
・コミュニティサービスの総PVのアップサイドは如何に▷コミュニティサービスタイトル数:41作
コミュニティサービスに対しては2通りの見方がある。
①:ソシャゲへの集客エンジン(客寄せパンダ)
②:広告媒体としての収益化の期待
①だけで考えているのであれば、上記の「回遊率」が高くないであろうという想定から、コミュニティサービスへの投資を回収できないと予測する。②も見据えた場合に、PVが月間50-100億レンジまで伸びるのかと、伸びた場合に広告媒体として約5-8億(月間)⇒年間60-100億の売上が立つシナリオがあり、その妥当性がどれほどあるのか。
コミュニティサービスを中心とした媒体の積極的な広告販売による収益化のシナリオの有無とその妥当性が、CA全体への利益インパクトが最も大きいと本誌では判断する。現状ではとにかくPVを伸ばし、収益化は気にしない方針に見える。コミュニティの新規タイトルは、機関投資家向け質疑応答Q11によると「四半期に2-3本」とのことで、既存タイトルのPVを伸ばしにいく戦略と考えられる。
そう考えた際に、既存タイトル中心では月間PV50-100億の2-3年以内の実現可能性は低いと想定され、広告販売による収益化のアップサイドは限定的になると見込まれる。
スタートアップ業界とバッティングする、3つの事業領域
決算発表とは別の視点で、CAの新規事業領域を紹介する。
この動きに関しては3つの観点を解説する。当面はCA全体へのPLインパクトは薄いが、敢えてほとんどのアナリストが言及しないであろうM&Aの可能性を言及する。
■1:CAの参入=ティッピングポイント間近との見方
CAはアメブロを保有しているがゆえ、ネット業界では「マスメディア」という捉え方ができます。エッジの効いたスタートアップが開拓してきた新市場に、ネットマスメディアという力を利用してフォロワーで参入する。これは各分野がマスに拡がるティッピングポイント前後であるため、参入したと考えられ、この市場が拡大する可能性が極めて高いというサインになると見ています。スタートアップ側としてはCAの参入で市場拡大のチャンス。ちなみに「フォロワー戦略」はCAの常套手段といえます。
■2:いずれもトランザクション型の市場
フリマ/オークション、クラウドファンディング、クラウドソーシング。どれもスタートアップに主要プレイヤーがいる盛り上がっている市場ですが、いずれもトランザクション型のビジネスとなるため、スケールしないと儲かりません。各分野のいずれかにアクセルを踏むのであれば、立ち上げただけではほんとおまけ程度にしかならないでしょうね。本気でやっているスタートアップには勝てない気がする。
■3:本体投資の加速によるM&Aの可能性
CAは企業文化を重視する社風からM&Aを積極的にやらない方針を取ってきました。しかし今年に入ってからはレアジョブやスマートエデュケーションなど、CA本体による投資も増えてきています。上記3つのいずれかの市場で勝ちにいくには、スタートアップのM&Aも視野に入れて良いかと思います。FX売却で得たキャピタルゲインやAmebaの広告費に投じるよりも、場合によっては合理的なお金の使い方になるといえるかもしれません。ただ、スタートアップはValuationがちょっと上がりすぎる傾向にあるため、買収価格が折り合わずに実現可能性は低いでしょう。10-20億程度での買収ならあり得るんじゃないですかね。
写真系アプリの振り返り:約半数のサービスがPVに貢献?
最後におまけを。実は本誌では2012年7月2日にCAスマホアプリ vs スタートアップ :群雄割拠の写真アプリ編という記事をリリースしている。1年経った今、当時の予測がどれほど当たっているのかを振り返りたい。
■調子が良さそうな写真アプリ
5位:パシャっとmyペット
8位:ペコリ
10位:Monographer出典:決算資料のPV上位
上記以外は撤退か撤退ライン上にあると推測される。上記記事で写真アプリとカウントしたパシャオクと毎日フリマも入れると、1年で半分くらいが生き残っている感じ。上記の記事で当たり外れをあまり明言しなかった中で、パシャっとmyペットのみは「スマッシュヒット」という予言は当たっているといえよう。
■スタートアップ写真アプリプレイヤーのここ1年の動き
DECOPIC:Yahoo!に約10億円で売却
Snapeee:シリーズBで調達
しかしいずれも単独でのマネタイズのスケールは難しそうに見える。(松本さん、違ってたらすいません…)市場環境をみても写真アプリがCAの収益の柱に成長することは難しく、Amebaへのトラフィック装置としての役割を期待されていくことに変わりはないだろう。写真アプリのM&Aはないと思われる。
結論:アップサイドへの期待が上回るため、buy
ポートフォリオが取れた事業構成により、ダウンサイドリスクがGREE/DeNAやガンホー/コロプラと比較して限定的。下記のアップサイドとダウンサイドを天秤に架けた際に、アップサイドに振れる可能性が高いため、手堅い成長が見込まれる。
5時間くらいこうして分析してみて、各アナリストが「buy」と判断した気持ちは分かった気がするが、その根拠や今後のシナリオの想定に関しては、他のアナリストにもないレポートとなったであろう。
■アップサイド要因
インターネット広告事業:スマホ広告>マイクロアド
Ameba:スマホ広告化■ダウンサイド要因
・ゲームでヒットタイトルが出ない
・ソシャゲバブル崩壊によるスマホ広告の伸びの鈍化
*結局投資判断を公表してしまいましたが、投資顧問業の免許は持っておりませんので、悪しからず。これだけ事業が多いと分析しがいがありました。機関投資家の皆様のご参考になれば幸いです。
追記:CA女子に対する投資判断、全体的に割高傾向にある
おまけとして、CA女子に対する投資判断に関しても触れておきたい。まず、女性のValuationの算定式に関してはこの記事を参考にしてもらいつつ、下記に厳密な方程式を置く。
・Valuation=女性の魅力(ファンダメンタル要因)×競合者数(テクニカル要因)
・女性の魅力=①ルックス×②性格×③知性×④センス×⑤快適さ
CA女子という母集団はファンダメンタルのバランスが非常に良い個別銘柄が多く、日本屈指のファンダメンタルの強さを誇ると断言しても差し支えないだろう。他のセクターを見ると、例えば外資金融などは気が強すぎて⑤のポイントが下がるし、①や②が良くても③に欠けるセクターは数多くある。こうしたファンダメンタルの良さをベースに、本誌の度重なるCA女子関連記事も多少影響してかマーケット・プレミアムも上乗せされ、社内恋愛市場も強力であることから、極めて高いValuationで推移していると思われる。
特に競合者数の多い個別銘柄に関しては、そのValuationの高さゆえに投資回収できず不良債権化するリスクがある。Valuationが高いというのは対象に対する褒め言葉ではあるが、投資対象として本当に魅力的かは懐疑的だ。マーケット・プレミアムに関しては本誌も責任を感じている。賢明な投資家は下手に手を出さない方が良いだろう。
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