LINEが攻めている。メッセージング・プラットフォームを武器に様々な領域への進出を始めている。そこにはスタートアップと競合するものもあれば、出資や買収により協業を模索しているものもある。
スタートアップにとって、LINEは組むべき相手なのか闘うべき相手なのか?それを見計らっているプレイヤーも少なくないだろう。LINEが裾野を拡げていくであろう分野は「O2O」と「コンテンツ」の2つだ。LINEから各ファミリーアプリ(LINEに付随するアプリを同社はこう呼ぶ)に送客して回遊させ、滞在時間やアプリ群全体でのAPRUを上げるという狙いだろう。
LINEがメッセージング以外で参入している分野で目に付いたものを及び今後参入可能性があると本誌が独自で考えた領域を本稿でまとめて紹介する。かなり長文記事となったが、LINEの事業展開力(特にそのスピード)は国内の大手ネット企業の中でも頭一つ抜けているかもしれないと感じた。
*記事タイトルは全分野徹底分析としたが、スタートアップが関係しそうな分野に絞っており、オフライン事業などには触れていない。
5つのO2O領域:激戦のC2C市場や決済会社webpay買収
まずは戦いとなっているであろう分野を。
■1:C2C LINE MALL vs メルカリ
メルカリ的なC2CをLINE MALLという形で出しています。しかし、ここは先行者のメルカリが圧倒的な強さを見せており、直近の数字はプレスリリースからはLINE MALLがどれくらい好調かは窺い知れません(2014年7月に200万突破は確認)アップアニーのランキング推移を見ると、「カタログ」カテゴリーで安定的に上位をキープ。それなりに利用されているかも。未だに決済手数料や売上手数料はゼロ円で、売上上がった時に口座振込に210円手数料取られるだけ。メルカリに対していつまで低価格戦略を続けるか。
■2:タクシー配車 LINE TAXI vs UBER
世界的な王者UBERがいるタクシー配車にも年明け早々に参入。UBERの方がプロモーションなどから強そうに見えますが、後述するLINE PAYを使える点と、日本交通株式会社の約3,340万台のタクシーが配車対象になるという点は、既に国内でのUBER配車可能台数を圧倒しているのでは?LINE TAXIとUBERを使う層は少し異なりそうですが、どうなることやら。
■3:フードデリバリー LINE WOW vs bento.jp
厳密にいえば「高級店の弁当配達」であるLINE WOWと「1,000円以下の弁当配達」のbento.jpと扱い商材は異なるが、スタートアップのbento.jpにとってLINEのような巨人との戦いはしんどそうに見える。高級店の弁当配達という点にしぼると、ごちクルなども競合となる。だが、2014年11月の参入後は目立った話は聞かない。
■4:決済 WebPay買収でLINE PAYを強化
スクエアやコイニーなど店舗での少額決済のフロントを担うプレイヤーはいるが、WebPayのようなクレカ決済を簡略化できるシステムを持つスタートアップの買収を発表した。LINE PAYとのシナジーも期待できる。
決済分野では、LINEがLINE @などで飲食店などの小売店のカバー率が上がれば、コイニーを買収してアップセルをかけるシナリオも想定できるが、リクルートが強い市場であるため、中小小売店市場でLINEは苦戦すると予測し、ゆえにLINEがコイニーを買収することもないと本誌では予測する。それ以前にコイニーは既にバリュエーションが高すぎる。
■5:予約 ポケットコンシェルジュへの出資で飲食店予約の導線確保
LINEを利用しているユーザーに対してリアル店舗を予約するというソリューションもあると、便利だ。だが、ポケットコンシェルジュは高級店に特化しており、LINEのメインのユーザー層(私はブルーカラー層と想定する)とシナジーがあるのかは少し懐疑的だ。
この店舗予約領域はリクルートのホットペッパービューティーが強く、飲食以外でもヘアネイルサロンの集客予約サービスとの連携が想定される。たとえば、ネイルCGMであるネイルブックへの出資及び買収の可能性がある。
◆参考記事:ネイルブックが有望なサービスだと思う理由
3つのCGMコンテンツ領域:ブログやLINE @など
■1:ブログ LINE BLOG vs アメブロ
最近かなり力を入れているように見えるのがLINE BLOGだ。元々ブログ分野はライブドアブログとアメブロが凌ぎを削っていたが、アメブロからLINE BLOGに乗り換える芸能人も出てきているように思える。プラットフォームの観点でみると、ユーザーの接触頻度が高いLINEの方にブログの導線があるほうが、読まれやすい。用事もなくアメブロのトップページを訪問するユーザーは少ないはずで、中長期で見るとLINEに優位性がある。
■2:個人ビジネス(メルマガ・サロン) LINE@ vs シナプスサロン?
2015年2月にオープン化を発表したLINE @は以前は店舗向け用の利用だったはずだ。それがあまりワークしなかったため、CGM的に使ってくれよ!となったのではないかと邪推する。発信力のある個人を中心にバズっていたが、私は個人的にLINEをあまり使っていないということと(LINEする友達がマジいない)サロンは実名ユーザーを集めたいということがあり、今のところLINE@に鞍替えする予定はない。
FacebookよりLINE上の方がコミュニケーションが最適だという発信力のある個人もいるはずだ。しかし、サロンは運用力がモノをいうため、「CGMで勝手にどうぞ」ではワークしない。いっそのことLINEはシナプスを買収してみてはどうだろうか。
■3:写真 LINE CAMERA vs インスタグラムなど
写真共有サービスは国内のスタートアップも2011年頃にかなり乱立したが、マネタイズの道はあまり見えない。利用ユーザー数もCA女子を中心とした昨今の国内でのインスタグラムのハンパないプレゼンスの高まりがあり、写真共有サービスの首位はインスタグラムという肌感覚がある。この分野でLINEはスタートアップサービスを買収しなくても全然良いとは思う。スタンプでデコるなどを考えれば、Snapeeeの買収は相性が良いかも。
6つの提供コンテンツ群:ニュース、マンガ、ゲームなど
■1:ニュース LINE NEWS vs スマートニュース&グノシー
2014年はニュースキュレーションアプリがホットな市場だったが、主力のスマートニュースとグノシー同様にLINE NEWSもニュースアプリ市場の中ではプレゼンスが高いと聞く(各調査により数字にボラティリティはあるが)グノシーはネイティブアドなどでマネタイズを図る中、LINE NEWSの中にはそれっぽいものをたまに見かける気がするが、単独でのマネタイズに力を入れるつもりはあるのだろうか。
■2:マンガ LINEマンガ&Comico vs マンガボックス
マンガ市場ではLINEはLINEマンガのみならず、ファミリーアプリとして子会社のNHN PLAY ARTが保有するComicoも有しており、かなり市場での優勢が高い。競合としてはDeNAのマンガボックスがある。マンガはニュースよりも課金ラビリティ(課金されやすさ:筆者の造語)が高い領域であり、ゲーム、スタンプに次ぐ柱になり得る課金コンテンツと予測する。
◆参考記事:“編集未経験チーム”が発掘した「comico」という金脈
■3:きせかえ LINE DECO vs CocoPPa
CocoPPaがグローバルで3,000万ダウンロードと一見市場を席巻しているようにみえるが、その売上規模は四半期で1-2億円程度とかなり残念である。同じスマホきせかえ市場にLINE DECOで参入しているが、2015年1月発表によると2,000万ダウンロードを突破。アプリ内での累計アイテムダウンロード数は7億越えと、全てが課金対象ではないだろうが、CocoPPaよりもLINEの方がMAU率が高いと思われる。
LINEに滞在したついでにホーム画面をきせかえるか、わざわざCocoPPaを開いてまできせかえるか、似たようなサービスであればどちらのMAUが上がるかは明白に思える。
■4:音楽サブスクリプション LINE MUSIC vs Sporitfy & AWA(CA)
音楽サブスクリプションにも参入を予定している。LINE(40%)SME(40%)エイベックス(20%)のジョイントベンチャーだ。ちなみにエイベックスはサイバーエージェントと「AWA」というジョイントベンチャーも設立している。日本のインターネット企業においてすごく機能したジョイントベンチャーがあまり思い浮かばないのだが、黒船Spotifyの来航に備えて、エイベックスはAmebaとLINE両方に提供しておくという抜かりない体制を整えているようだ。
ブログの項で述べたが、MAUベースでいうとAmebaよりLINEの方が勢いがあるため、LINEに優位性があるかもしれない。
コンテンツ領域では買収&出資も積極的だ。
LINE MUSICとは別軸でラジオ会社を買収。いくらくらいか気になりますね。radikoなど存在感あるラジオアプリもあり、スマホはラジオと相性が良いと思うので、上手く展開できればLINEプラットフォームの滞在時間向上に寄与するだろう。
■6:ゲーム gumiと戦略的提携、BrainWarsへ出資
既に2014年12月に上場済みだが、その半年前にファイナルラウンドでgumiへ出資。ロックアップがあるため上場時に売却はできていないが、「戦略的提携」っぽかったので、GREEからの出資の時のようなLINEプラットフォーム上でのゲーム提供は考えられる。
スタートアップへの出資案件としては、脳トレ「BrainWars」でグローバルで1,000万ダウンロードを突破しているトランスリミットに3億出資のラウンドで出資している(リードインベスターと思われる)。BrainWarsに関してはダウンロード数がとにかく目立つが、性質上ユーザーのリテンションはさほど強くなくMAUは低いと私は予測する。LINE POPのようなカジュアルゲームであり、LINE上に載っけておけばそれなりのMAUも期待できるため、LINE側の視点では出資ではなく安いうちに買収すべき案件だったと思う。
■7:動画 女性モデル特化型MCNの3ミニッツに出資
LINEとLINE VENTURESによるファンドであるLINE Life Global Gatewayの1号案件として発表された3ミニッツ。昨今注目が集まるMCNであるuuumの女性特化版として、アーリーステージでは投資家からの人気が集まったディールだと耳にしている。LINE上での動画コンテンツはまだ見かけないが、3ミニッツのYouTuberの露出先としてLINEもあり得るというのは双方にとって好ましい循環だろう。
インテと組んで求人も参入。今後は教育への参入を予測
O2Oとコンテンツの中に括らなかったが、インテリジェンスとのジョイントベンチャーで「AUBE」を立ち上げ、「LINEバイト」で求人領域にも参入した。言葉が少し悪いかもしれないが、LINEの最大の強みはレイトマジョリティーである日本の地方にもかなり普及している点であり、ブルーワーカーのユーザーを多く確保している点であると私は見ている。ブルーワーカーたちに対して、LINEでバイト探しできるという点は魅力的であり、From Aを運営するリクルートの脅威になる可能性がある。
今後LINEが参入しうる分野としては想定されるキーワードは「レイトマジョリティ」だ。ゆえにアーリーアダプターが好むであろう「ビットコイン」などには参入してこなそう(参入してもワークしなそう)。
セキュリティの観点がクリアーできればPairsのようなオンラインデーティングもありだし(Facebook認証か電話番号認証かという違い)、10代の浸透率が高いであろう背景から、教育アプリへの出資買収はワークすると思う。現に某英単語学習アプリへ出資したのではないかという噂もある(事実未確認のため、噂ベース)。
LINEというメッセージングアプリの爆発的普及に留まらず、それを軸にこれだけ幅広い分野に張るLINE恐るべし。一方で、噂されていた2014年の上場が延期になった真の理由はMAUの伸びが想定より芳しくない(鈍化している)ないしはMAU自体が減少していたためという説もあり、LINEを軸にプラットフォーム群を築いてMAUを向上させ、ARPUとの掛け算で上場後に明確に成長が見込めるという体制にして、2015年満を持して上場。というシナリオという業界関係者の話もある。
本誌でもお馴染みの田端将軍など、豊富なタレントを揃えるLINE。新規事業の多くを早速クローズしたり事業譲渡に忙しいGREEはともかく、サイバーエージェント、DeNA、Yahoo!、楽天などの大手インターネット企業を俯瞰しても、LINEのこの事業開発力は一歩抜きん出ているように筆者には思えた。
スタートアップにとって、LINEは味方になるのか敵になるのか。ジャンルによってそれは大きく異なる。スタートアップはサイバーエージェントをある程度なめる分には構わないと思うが、LINEをなめるとヤバそうだ。
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