CAVがシード投資に特化した約3億円の投資枠でシードジェネレーターファンドというのをやっているらしいです。シードなのでおそらく多くて1,000万円から2,000万円の投資ではないかと思います。
リーマンショック後の2009年の壊滅的な状況からベンチャー投資は2010年から徐々に回復し始め、本誌が誕生した2011年頃からは「スタートアップ」という言葉が一般化してきました。「スタートアップ」の言葉の定義は曖昧ですが、シード期やアーリー期は確実にスタートアップといえます。しかし、国内においてシード投資はシリーズA以降と比べて芳しい成果を挙げてきているのでしょうか。
10社投資して1社あたれば良いビジネスモデルですが、2015年現在シードラウンドの投資家の層が厚いとは必ずしもいえません。そもそもスタートアップを立ち上げるのに数千万円じゃ全然足りんよねということで、シード期から1億以上張っていこうぜという気運のインキュベイトファンド3号があったり、レベルの低いDemoDayをやっていたMovidaは業界から淘汰されているといっても過言ではありません(注:その次のMovidaのDemoDayから1社投資先を発掘して短期間でEXITを実現させたりもしましたので全てが悪い案件ではないかと)
サムライインキュベートも国内で引き続き投資をしているようですが、Ken Sakakibaraがイスラエルへ渡っているため、以前ほどのプレゼンスはないと思います。
そんな中のCAVの取り組みは興味深く「注目事業分野」をHPで開示しているのが面白いですね。その「注目事業分野」について本稿で分析します。19分野ありますが統合したり割愛して16にしました。各分野の横にその市場が魅力的か否か(シード期で参入すべきか否かという観点が多分に入る)TheStartup予測を付けておきます。
6,000文字程度と長くなりましたが、各分野のスタートアッププレイヤーにも触れているので、そこそこ読み応えはあるかと思います。読者の皆さんには「自分だったらこの分野はこう思う」と考えながら読んでいただけると。頭の体操になるかと思います。
1:ウェルネス・ヘルスケア ⇒ ○
キーワード:フィットネス、DNA、食事、トレーニング
スマートフォンやウェアラブルデバイスの普及によって、人間の日常的な行動から収集することが出来るデータの量は飛躍的に増加している。しかし、収集したデータを正しく取り扱い、具体的な行動へと昇華させられているサービスはまだ殆ど登場していない。
インターネット上におけるEC周辺の法整備などマーケットルールも変化しつつあり、資本やリソースの少ないスタートアップでも、世の中の大きな流れを捉えることができる領域になりつつあると感じている。(HPより引用)
この市場は特にAppleWatchなどのウェアラブルデバイスと相性が良さそうで、日本国内では明確な勝ちプレイヤーがまだいないし、2015年は参入タイミングとしてはベスト。国内ではスマホ家庭教師のFINCがあります。個人的には月額300円くらいでウェアラブルから収集したデータを元に健康管理するというカジュアルアプリを上手くやればスケールするんじゃないかと思う。遺伝子系が少し話題になったりもしましたが、2015年はタイミングではなくもっと後だと思う。
世界的には日本のScrm Venturesも投資するダイエットコーチのNoomというヘルスケアアプリが伸びているようですね。
2:MakersとIOT ⇒ ×
キーワードはこんなところ。
Makers:オープンイノベーション、3Dプリンター、CAD、グラフィックス
IOT:デバイス、通信、セキュリティ
HPでは別で紹介されていましたが、本誌では一緒にしました。
3Dプリンターの登場により、全人類が図面さえあればクリエイターとしてモノを創りだすことが出来る世界になった。ドローンは世界各国で一気に技術革新が進み、より高画質で、より安定した映像を空中から撮影出来るようになっている。想像を膨らませ、紙に書いたアイデアがすぐに具現化することが出来るような世界は、すぐそこまで来ている。(HPより引用)
本誌ではMakersやIOT系をほとんど扱ったことがない。ドローンにしたって資金力があるところがやった方が成功確度が高いだろうし、1,000万で始めましょうというビジネスではなく、最初からある程度の金を突っ込むべきビジネスだと思う。わざわざシード期でやる分野ではないと判断。
スマートロックとか、WILがソニーとやればいい分野です。シードで1,000万出してプロトタイプを作って大型調達!というシナリオなんでしょうが、商品を一定程度流通させるところまでに資金量を最初に調達した方が、経営としてスムーズだと思う。ゆえにシードの投資家はむしろ邪魔な気がする。
3:ゲーム ⇒ ×
ゲームはわざわざ突っ込まなくてもいい気がしますが、開発費が高騰してプロモーション勝負な中、体力がないと勝ちにくいゲーム市場はこれからスタートアップが立ち向かうべき市場なのでしょうか。
一時期のSAP戦争からネイティブ戦争へ移行し、あらかた勝負は決まっている感があります。CAVの投資先ではバンクオブイノベーションの上場が噂されており、アーリーの投資先ではオリフラムが有望らしいという話も聞きますが、当たるとでかいとはいえ、2015年にシードで取り組む分野ではないと思います。
4:アドテク ⇒ △
アドテクはRTB戦線はフリークアウトの上場やらジーニーやマイクロアドに上場観測やらKauliはVoyageに買収されるやらで一段落した感があります。次の動画広告でアップベイダーがいますが、動画広告はまだ何か成り立ちそうな市場です。他には最近燃えているネイティブアド市場とか。
とはいえ広告の門外漢の方ではなく、ある程度知見のある方が最初から億調達で取り組んだ方が成功確度が高そうな分野であり、市場自体のポテンシャルはあるものの、シードで取り組むテーマではない気がしています。
5:教育 ⇒ △
キーワード:MOOCS、アダプティブラーニング、研修
本誌ではたびたび、EdTech儲からねえよという記事を出しています。CAVはこの分野でレイターステージで投資したレアジョブが上場していますが、直近の時価総額は51億です。ベネッセが傾いてきているので、チャンスはありますが、レアジョブをコンプスにされるとアップサイドが限定的に見えてしまいます。人材派遣などと組み合わせたアップセルが必要な市場だと思います。そういった意味で「研修」というキーワードは重要ではないかと。何気にCAVの投資先が多い市場ではあります。
6:住宅不動産 ⇒ ○
キーワード:価格、マッチング、エージェント、業務効率化
ここは市場が大きく、まだ強いスタートアップがさほどいない分野で、シードステージからでもやりようがあるなと。価格でいえば「マンションマーケット」、マッチングでいえば売買という観点で「カウカモ」、エージェントでは「ietty」などがいます。業務効率化はまだ聞いたことがありません。
住宅不動産分野は情報の不透明性がまだ高く(ゆえにCGMのマンションマーケットなどに期待)非効率な面もまだ多いので、チャンスはある。
7:金融 ⇒ △
キーワード:P2P、クラウドファンディング、Bitcoin、決済、送金
シードでやるべき分野ではない気がするのですが(シードで投資してもその後の資金量がかかりそうで、貢献度が低そう)金融自体は市場が大きいのでありかと。CAVでいうとビットコインはCoinPass、決済はEXIT済みのwebpayそしてコイニーにアーリーステージで投資していますね。金融サービスが定着するのには長い年月がかかり、インターネットサービスの中では相当足が長いほうかと思います。個人的にはビットコインがどうなるかすごく興味深い(解はまだ自分の中にはありませんが)。
グループのサービスにMakuakeがあるのにクラウドファンディングに投資したいなんて、グループ間競争大好きなCAらしいですね。ところでCampfireに(ry
8:旅行 ⇒ ◎
キーワード:インバウンド、旅程管理、オフライン対応、ディスカバリー
ここは市場が大きい割にがら空きだなーと感じているところです。ピュアなC向けサービスであればシードでプロダクト磨きながらやるという相性の良さはありそうだなと。CAVの投資先では僕も愛用しているreluxがある。予約メディア的な位置付けです。
インバウンドユーザーが明らかに増えるという需要に対して、英語でそういうユーザーを取り込む動きをしているメディアはほとんど見かけない。英語で日本を紹介するメディアで圧倒的なモノを作ればかなりスケールするのではないかと。旅行分野はインキュベイトファンドなどでもいくつかトライしていますが、大きく跳ねそうなところは現時点では僕は知らない。
9:人材 ⇒ △
キーワード:クラウドソーシング、ダイレクトリクルーティング、進捗・成果管理、健康管理
人材市場自体は大きいものの、シードでこれから取り組むにはあまり魅力的には見えない市場です。クラウドソーシングは総合型でIPOしてもあのくらいの時価総額です。「ダイレクトリクルーティング」とはwantedlyを暗喩しているのかもしれませんが、いわゆるリクナビ的なものを破壊する動きはもっとあってよいと思います。
進捗成果管理ってそんなに大きくなる分野には見えないなあ。社内SNSのトークノートにCAVは投資していますが、トークノートがスケールしていればそこに組み込むくらいで良いかと。社内管理ツールが複数あっても使われないですからね。
10:EC ⇒ ×
キーワード:越境、バーティカル、キュレーション、C2C、オークション
今更感があるキーワード群だなと。市場はたしかに大きいのですが、C2Cはメルカリの勝ちでしょうし、キュレーション的なのはFabが転けたこともありCAV投資先であるMONOCOはキツいのではないかという観測も。一定量(3-5億程度)は立ち上げの資金量が必要で、シードラウンドの投資家がスタートアップに価値を提供できる市場ではないと判断します。
そもそもEC自体が食傷気味です。唯一未だチャンスがありそうなのは越境ECかなと思います。キュレーション、バイラル、Q&A、コンテンツマーケティング
11:メディア ⇒ △
キーワード:キュレーション、バイラル、Q&A、コンテンツマーケティング
これも今更感がありますね。キュレーションメディアの買収はまだ続きそうですが、2015年に入ってから立ち上げるのは遅いのではないかと。Q&Aってnanapiのアンサー的なものでしょうか。コンテンツマーケティングも最近は死語と化している気がしますが、せめて「オウンドメディア」とかをキーワード群に入れた方が良かった気がします。バイラルメディアといえば投資先のCuRAZYの行く末が気になります。
12:ファッション ⇒ △
キーワード:コーディネート、クローゼットシェア、レンタル
ファッション領域のスタートアップではコーディネートCGMのiQonが筆頭的な存在。レンタルではairClosetの寺田倉庫による資金調達もあったりしました。強引にファッション領域に入れるとCAVの投資先では写真共有のSnapeeeがありますが台湾などでユーザーを伸ばしているという話を聞きます。越境EC+ファッションという組み合わせはありそう。
とはいえここはスタートアップ市場では首位と思われるiQonでも「儲かってるのか?(儲かるのか?)」という声もあり、マネタイズの観点で魅力がありそうには思えません。
13:コミュニケーション ⇒ ○
*この前にあった「モバイル」というのが幅広すぎてもはや分野ではないと思ったので割愛
キーワード:ポストSNS メッセンジャー
この領域は少数精鋭でグロースするものが作りうるのでシードラウンドで投資してもワークする分野な気がします。ざっくりいうとインスタグラムやスナップチャットのようなものを作ればいいわけです。次の項の動画のプレイヤーになりますが、CAVはセルフィー動画を送るundaに投資してますね。どんなものが出てくるか検討付かないですが、当たるとでかいですし、シードラウンドで張りやすい分野。
14:動画 ⇒ △
キーワード:メディア、プラットフォーム、Youtuber、動画広告、クラウドソーシング
別で動画特集でも組もうと思っているくらい2015年に入ってから活況化している分野。ですが比較的最初のラウンドで億調達も多く、動画制作とかお金もかかりますから、シードで取り組むテーマとしては適切なのか懐疑的です。動画自体はこれからガーッとくるんだろうと思います。シリーズAでは今最も張っておくべき分野でしょう。
15:移動輸送 ⇒ △
キーワード:Uberification、オンデマンド配送
「Uberification」なる言葉ははじめて聞きました。一般的なのか造語なのか。「なんとか業界のUber」みたいなのは最近増えていますね。移動や輸送のイノベーションの主な切り口の一つは次の項目である「シェア」になります。そういえばScrum Venturesがバス会社に投資したという記事を見て、たしかにバスもあるよなーと思いました。
正直この分野は僕はあまり見えていないのですが、シードでやる適性をあまり感じません。最初からある程度の資金量があったほうが良いのでは。IVPが投資しているオープンロジ的なものはこの分野に入るのでしょう。
16:シェアリングエコノミー ⇒ ○
キーワード:自動車、住宅、衣服、ペット
ここは既にペットを預けあうDoghuggyに投資しています。立ち上げに時間がかかりそうなジャンルですが、シードラウンドで張りやすい分野かと思います。シードジェネレーターファンドではないですが、自動車C2CのAncarというサービスにCAVから最近投資しています。
シェアリングエコノミーの最大の欠点は利益率が低そうな点です。Airbnbまでスケールすれば別ですが、The Startupでは様々なシェアリングエコノミー銘柄を分析した上で、儲からないという仮説を打ち出しています。
シードラウンドの投資と投資を受け入れる起業家の傾向
16分野を検証した結果、シードラウンドで取り組むべきテーマとしては「ヘルスケア」「住宅不動産」「旅行」「コミュニケーション」「シェアリングエコノミー」あたりが良いのではないかと思いました。僕がこのファンドの担当者であれば、この辺のソーシングを頑張るでしょう。特に「住宅不動産」「旅行」あたりは相対的にM&AでのEXITを作りやすそうな分野に思えます。
3億のファンドがペイするには、シードで10%のシェアを取った案件が30億で1社M&AなりIPOすれば回収できます。1,000万円を30社に張って確率10%でそういうディールが出るとして、3倍程度のリターンになればokという感じでしょうか。国内においては非ゲームで30億のM&Aはあまりないので、15-20億円を狙えるM&Aを5件くらいは作りにいきたいところですね。
シードラウンドで1,000万円の投資を受け入れる起業家は2015年時点でどれだけいるのでしょうか。2011年頃とは資金調達環境が全然異なります。30歳程度である程度事業経験のある方は1,000万円くらい自分で用意できるし、シードの投資家をあまり必要としない場合が多い気がします。最初から1億円をPost Valuation5億でお願いしますとか全然ありそうです。
そうなるとシードラウンドに集まる起業家層の中心は社会人歴が浅い20代ないしは学生のプレイヤーが中心となるでしょう。そうした中でEXITを4-5件作れれば凄いですが、案外難易度高そうだなーと思います。
ということで、シードなんだけど結構腕に自信があって最初から5,000万円以上は調達したいという起業家の方は、ぜひインキュベイトキャンプ8thにご参加ください。
注:本稿はインキュベイトファンドによるネイティブアドではございません