金融のモダン化とエンタメ化、そして合従連衡がFinTechのキーワードか

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B Dash Camp2018Spring福岡の「フィンテックにいま参入その理由と勝機の可能性」のセッションから。

この記事はセッションの中から気になった点のみにフォーカスし、パネラーの発言を一部引用して、整理してお届けします。セッションの冒頭から流れに沿って紹介する議事録形式ではございません。

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スピーカー:敬称略
青柳直樹(メルペイ)
藤田雄一郎(クラウドポート)
甲斐真一郎(FOLIO)
光本勇介(BANK)
佐藤裕介(ヘイ)

モデレーター:
原隆(日経FinTech)

資産運用は、モダン化だけではなくエンタメ化が差別化

佐藤氏の発言がセッションの端的な要約になっていたので、冒頭に紹介しておくと、ざっくりこんなことを言っていた。

FinTechは既存のクソ使いづらい金融がスマホ最適なUI/UXでモダン化されていくのと、CASHのような既存金融プレイヤーからは金融と思われないであろうプレイヤーによるエンタメ化が進んでいくという話がありました。

実際、CASHは少額融資に対応した金融サービスといえる。光本氏が自ら話していたが、金融の素人による金融の素人のためのサービスが共感を生み、利用されたといえる。

クラウドポートのようなソーシャルレンディングや、FOLIOのような資産運用は既存金融のモダン化とに当てはまる。

既存金融をエンタメ的UI/UXでモダン化しようとしているFOLIOの甲斐氏のお考えは興味深かったので一部抜粋して紹介します。FOLIOはロボアドバイザーですが、先行者といえるであろうウェルスナビやTHEOより断然ウメキワークスで高く評価しています。

ウェルスナビなどの先行者はUI/UXが多少モダンになっただけですが、FOLIOはさらにエンタメ化させてきているということで、この設計思想の違いが、後々大きな差になってくるかと思います。

サービス設計において、金融用語を使わないことを徹底している。金融出身者にしかわからない用語はできるだけ使わないようにしている。社内には5人のデザイナーと5人のコンプライアンス担当がいて、デザイナーとコンプライアンスが用語表記をどうするかの議論をよくしている。

金融商品はわかりにくいので、経済用語がわからなくても資産運用できるサービスを作りたい。現状は100万口座獲得した(オンライン証券とかが)時価総額1,000億円ついている。

広告審査が厳しく、ネットワーク効果が効きにくいこともあり、口座獲得数が伸びていないが、エンタメ×資産運用なら(国内で)1,000万口座獲得できると思っている。

資産運用が生活に根付いていないので、根付くようなサービスにしたい。(甲斐氏の発言を補足して紹介)

コインチェックの口座数が170万口座あったことが明るみに出ているが、マーケティング次第では既存のオンライン証券口座より口座数を獲得できるし、実際に証券口座を持たない層がコインチェックの口座を持っていたりする。

FOLIOはLINEからの出資を受けているが、エンドユーザーとの接点を増やしていくことに貪欲なようで、セッション中にはメルペイの青柳氏に「メルカリともぜひ」と話をしていた。

ただのモダン化であるウェルスナビとTHEOに対して、エンタメ化も進めるFOLIO。これはおそらく、メルカリ vs フリル戦争における「オールジャンル vs 女性特化」という、最初はそこまで気にはならな方ものの、後々大きな差がついてしまった理由の一つに挙げられる(と本誌では考えている)重要なポジショニングの差だと感じる。

私もFOLIOで京都ファンドを試しに保有しているが、他の株式や仮想通貨などの資産運用をしている感覚ではなく、なんか応援したいとか、好きなファンドをカジュアルに買って寝かせているという感覚である。

こうした既存の資産運用ユーザーをスマホでリプレイスするだけではなく、全くの新規ユーザーを既存の資産運用ではない感覚のUXを提供できるので、ロボアドならFOLIOが一歩抜けそうだと断言する。

信用スコアリングはスタートアップではなくメルカリが優位

個人的に一番興味深い話は、信用スコアリングの話だった。日本ではこの分野のサービスは出ていないが、アリペイの芝麻信用がグローバルでは一番有名であろう。なぜか検索したら、NRIのHPでも紹介されている。

おそらくメルペイがこの領域に参入してくると思われるが、信用スコアリングに関してメルペイ青柳氏はこう話していた。

与信コストを下げて、少額決済を実現するかが大切で、(与信コストを下げる)一つの解がスコアリングだと考えている。

スコアリングはお金を貸すところではないところでどんどん使われていくと思っていて、お金を借りるために色んな情報を入れるのではなく、他のベネフィット(例えば、スコアリングを通してサービス利用で優遇されるなど)があるので、情報提供に賛同する。

日々の行動(のログ)を通して、お金を借りるとかシェアリングサービスを利用する際の敷居を事実上感じなくなるのではないか。

単にお金を貸すためだけのスコアリングだと、誰も使わないのではないか。(青柳氏)

中国訪問してリサーチしているわけではないので、芝麻信用がいかに進んでいるシステムであるかは現物のアプリは見ていないのだが、アリペイのみならず、Amazonも信用スコアリング的な領域には今後参入して行くのではないだろうか。

日本でも楽天あたりがやっても良さそうなことで、青柳氏が言う通りに「お金を貸すためだけのスコアリング」ではなく、ECやシェアリングサービスなどの利用履歴をからスコアリングして、融資につなげて行くというのは、UX設計として至極真っ当な話だと感じました。

このロジックから鑑みるに、スコアリングは取引履歴のビッグデータを吸い上げられるプレイヤーと相性がよく、ぽっと出のスタートアップが取り組むには辛い領域に見え、メルカリなどに勝機があると感じる。

FinTechは巨額投資が必要で、合併が避けられない?

本セッションを盛り上げる話のように思えて、現実的な話として、中国の例を出して、メルペイ青柳氏がこう語っている。

ペイ、ウォレット、信用スコアリングに大きく投資していきたいと(メルカリでは)考えている。(メルカリでは)経済圏的な言葉を使わないようにしていて、エコシステムを大きくしたいと思っている。

中国でもアリババとテンセントが切磋琢磨していたら、大きな市場になっていった。(FinTechに従事して100日ほどの青柳氏)

FinTech企業の人材構成の話でも、青柳氏はアリババのアントフィナンシャルには数多くの金融バックグラウンドの人材がいると例を挙げ、メルペイでは金融や法務のプロフェッショナルを招く必要がある。FinTechは金融企業のネット化ではなく、ネット企業に金融系の人を巻き込んだ方がワークするだろうとも語った。

また、青柳氏はコイニーとSTORES.jpのブラケットを合併してヘイが誕生した例や、中国でのアリババとテンセントを熾烈な争いを挙げ、国内でも(ユーザーに利便性など大きなインパクトを出すために)合併が必要かもしれないと述べた。

たしかに各社巨額の資金調達をして、札束で殴り合うよりは、合併してその分1つのサービスのグロースに資金を投下した方が、ユーザーに利便性を提供できるまでのタイムラグも縮めることができ、有用かもしれない。

どこが音頭を取って、日本のFinTechのM&Aを主導していくのか。上場後のメルカリがその立ち位置を取り得るのだろうか。

ちなみにFinTech業界ではすでにマネーフォワードが2017年9月に上場し、ややバリュエーション(時価総額1,000億円強)が加熱している。

今後FinTech業界の合従連衡があるかにも、注視していきたい。



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