ぼちぼちと取材記事を増やしていきたいと思います。インターネット上場企業でも大手数社のような時価総額1,000億円企業ではなく、今後1,000億を狙えそうな成長余力がある企業を紹介していきます。本誌では2015年1月に時価総額300億予想を出したエニグモ。2015年7月17日時点での時価総額は307億となり、前回紹介時の209億時点での「buy」判断が的中している。
決算説明資料からだけでは読み解けない同社の成長余力について、同社代表取締役須田将啓氏に伺った。
好調なTVCM:9ヶ月のマスプロモーションを実施予定
「世界を買える」のクリエイティブが非常にわかりやすいTVCMを2015年6月16日から開始。定量的な効果に関するコメントは差し控えられたが、反応は上々のようだ。エニグモではほぼ毎年オンラインプロモーション予算を2億円持っているが、そこに今期は10億円のマスプロモーションを加え12億の広告宣伝費を投下する先行投資期間と位置付けている。
先行投資により会員を獲得しアクティブ率やARPUを維持できれば十分回収できる見込みはある。博打でもなんでもない手堅い戦略といえよう。
プレIPO段階のスタートアップでもTVCMを打つことは昨今では普通になってきた。2014年初頭のグノシーやgumiが皮切りだったように思える。だが、必ずしもすべてがうまくいっている訳ではないようだ。CPIがオンライン広告の5倍だったという企業もある。
・10億円以上調達のスタートアップの打ち手となる、TVCMのいろは
・VASILY金山氏「TVCMのCPAはオンラインの5倍だった」(´・ω・`)
TVCMはスポットで打っても真の効果は得られない。定常的に打って一定量の露出をすることにより、初めてCPIなりCPAが低減してくる。数百万人中盤のユーザー数だった頃のGREEは「打てば打つほどCPAが低下した」時代があったという話を聞いた記憶がある。TVCMの門外漢である筆者が考えてもわかることであるが、なぜか実験と称してか局所的にTVCMをやるスタートアップもある。
「BUYMAのマスプロモーションは9ヶ月に渡り展開していく」と須田氏から伺い、それだけの期間腹を括って一気に先行投資する方が効果は出やすそうだと感じた。スタートアップで10億をマスプロモーションに突っ込む判断ができる経営者はそう多くないが、2-3億程度のTVCMを実施するのがひょっとすると最も効果が悪いかもしれないことは覚えておきたい。
女性比率85%だが中長期的には男性比率30%を狙いたい
決算資料ではメインターゲットは女性であり、国内で1,000万人のターゲットポテンシャルがあると記載があった。ただし、他のアパレルコマースと比較すると男女比率が偏りすぎであり、男性の比率の方が上がるポテンシャルはあると踏んだ。中長期的には男性比率を30%程度にまで引き上げたいとの須田氏の思いはあるようだが、BUYMAならではの構造的な問題があった。
パーソナルショッパーと呼ばれる海外で仕入れをするユーザーのほとんどが女性であるがゆえに、MDがレディース中心になり購買者も女性中心となる。パーソナルショッパーは現地在住者や駐在員の妻が多い。一方で男性は本業もあり、副業でBUYMAで頑張って稼ぎたいというインセンティブが女性と比べると働きにくい。駐在員であればそれなりの手当てもついて稼いでいるであろう。男性のバイヤーの獲得が急務であろう。やってみようかな。
高級なイメージがあるが、低価格アイテムを増やす
BUYMAは高級志向なイメージがあり、年間APRUは4万円である。100万円以上するバックも売れるし、実際に高額商品が動いている場ではあるが、APRU向上施策として低価格商品のMDの充実を挙げている。
高額商材しか扱わない入りにくい一見さんお断りの店ではなく、BUYMAはセレクトショップであると須田氏はいう。低価格商品というのは質の悪いものを扱うわけではなく、BUYMAの世界観に合った買いやすい価格帯のアイテムを増やしていくという認識が正しいようだ。具体的には、1万円のバッグではなく5,000円の水着を増やすとかそういう意味であろう。
アパレルコマースということで拡大していくとZOZOTOWNとMDが似たり寄ったりになってくるのではないかと筆者には懸念があったが、海外在住者が仕入れる商品とZOZOTOWNが自社で仕入れる商品はかなり違いがあり、将来的にもMDはさほど被らないのではないかというのが須田氏の見解であった。
小売業はリアル店舗では複数の百貨店やセレクトショップが共存しているが、インターネット上ではAmazonや楽天が強い。Winner takes allの構造にあるとは言い切れないが、リアルよりも確実に寡占が進みやすい市場には思える。そんな中でBUYMAがどこまでシェアを伸ばせるか興味深い。
ロケットベンチャーの買収シナリオとやんちゃな龍川氏
エニグモといえば2015年2月には女性向けキュレーションメディア4meee!を運営するロケットベンチャーを総額6億で買収している。
社長の龍川氏のユニークなキャラクター、買収検討時点で他社と比べてサービスがしっかりしていたこと、女性誌市場の広告費がここ数年で縮小しておりその縮小分がオンラインに流れてくることが予測できBUYMAと同様の利益率50%のビジネスが成り立つという3点の判断がロケットベンチャーの買収理由のようだ。同社も先行投資期間と位置付けているが、いつでも黒字化できる体制にあるという。
買収金額が5億円で買収後1億の増資となっているが、事業シナジー抜きで買収金額分は数年で回収できる見込みが十分あると定量的に判断したという。
M&Aに関してはBUYMAのエコシステム拡大に寄与するものであれば今後も検討していく。エニグモの直近決算の現預金は約23億であったが、現金による買収のみならず株式交換も視野に入れるようで、さすがに100億規模の買収はないだろうが、20-30億規模の買収であれば十分検討ラインに乗るといえそうだ。単なるコマースというよりは、4meee!のように集客に寄与するものや決済周りに興味がありそうだ。
中長期的には国内より海外売上比率を高くしたい
すでに韓国にはエニグモコリア、米国ロサンゼルスにImage Networkという資本関係がある会社を持ち、海外進出の足場を固める。今後は中国進出も視野に入れる。アジアと北米に確実に勝機があるとみている。
また、輸入商材であるがゆえBUYMAは為替リスクのあるサービスである。円安が進むと一時的に高級商材が売れにくくなるなどの逆風もあったが、増収増益を重ねており、企業としての強さは増している。だが、海外売上を伸ばていくことで国内と海外の売上が同程度までになれば為替リスクをヘッジできる。海外売上は成長ポテンシャルのみならず、経営基盤を安定させる役割も担う。
キュレーションメディア「STYLE HAUS」のCVRは4.5倍
STYLE HAUSというキュレーションメディアを2015年2月にローンチしている。このメディアはPVの最大化よりCVRの最大化をKPIと置いているようだ。キュレーションメディアからは案外モノが売れていない説もあり、本誌で昔から唱えてきた「メディアコマース」は机上の空論になってしまうのかと最近は感じていたが、このSTYLE HAUS経由でかなり売れており、通常のチャネルの4.5倍の売上となっているようだ。
記事によっては著名人のインスタグラム画像を引用し、より購買意欲を誘うコンテンツを出している。メディアコマースというとメディアがコマースをアドオンする方が圧倒的に多いように思えるが、STYLE HAUSはコマース起点でメディアを作ったということが明確に分かるコンテンツ。商品を売るためのコンテンツにきちんとなっている感じがして、キュレーションメディアにありがちな「記事から強引に売ってやろう感」が感じられず、非常に自然なコンテンツという印象を受けた。
このSTYLE HAUSのコンテンツの作り方は、コマースおよびコンテンツに携わる人はよく見ておいた方がいいだろう。
エニグモは2019年1月期(現時点から4年後)の営業利益50億円を目標としており、これは十分達成可能な目標であると本誌では判断する。営業利益50億円あれば時価総額1,000億円規模になっていることも想像に難くない。国内においての戦略は盤石。あとは海外展開次第であろう。今後もエニグモないしはBUYMAには注目していきたい。