リクルート上場承認時の事業セグメント分析で、美容領域のチャンスが大きいということが一番の気づきだった。ホットペッパービューティーの寡占に近しい市場構造となっており、外食や不動産にはあるCGMという切り口がまだまだ弱い。この市場にCGMで斬り込むネイルブックを運営するスピカの國府田勲代表取締役に話を伺った。
有料プロモーションは行わず、90万ダウンロード
ネイルブックはネイル写真を投稿するサービスでスマホアプリ、WEB両方を展開している。アプリのダウンロード数は直近では90万を突破。
2011年4月から運営を開始し、決して急激な成長を遂げてきたわけではない。成長曲線としては「一次曲線的な感じ」と言えるだろう。こうした自然な成長はリワードなどでブーストをしていないことの裏返しともいえる。ASOで毎月約3万ずつ伸び、最近Android版も出したことから、伸びが少し加速すると予想され、年内の100万ダウンロード突破を射程圏内に捉える。
ネイル写真アプリ自体は多数存在するが、100万ダウンロード規模のアプリは日本国内にはほぼ存在しない。
MAUや写真投稿枚数は以下の通り。
ネイルサロン訪問頻度:3週間に1回度程度
ネイルブック利用方法:7分程度滞在し、ネイル写真を探す
ネイル写真を投稿するシーン:新しいネイルを気に入った場合に投稿
最近はネイルをインスタグラムに投稿する女性ユーザーも多い。インスタグラムはほぼ知り合い同士の繋がりが多く、ネイルブックのような知り合い同士が繋がっているわけではないサービス上でも、自分の自信のあるネイル写真を投稿して、リアクションを得たいという心理はあるようだ。
営業一切なしで集めたネイリスト5,000人からの投稿
ユーザーサイドはノンプロモーションで集めた。ネイルブックの核はネイル写真ある。ネイル写真の投稿はどうやって集めたのだろうか。
上記にあるように一般ユーザーは3週間に1度程度しかネイルを変えないため、ヘビーユーザーでも月に2枚(手と足をカウントしても4枚)程度しか投稿できない。現に全体の投稿数約60万枚に対して、ネイリストの投稿が約6割を占める。ネイリストからの投稿が成長ドライバーとなる。ネイリストからの投稿が増えたユーザーサイクルは下記のような感じ。
■ネイルブックのネイリスト獲得サイクル
1:ユーザーが満足したネイル写真を「このネイルサロンでやった」と投稿
2:ユーザーがサロンを登録してくれる(Google上で検索されるDBが築かれる)
3:サロン側がネイルブックで写真投稿されていることにGoogle検索で気づく
4:サロンやネイリストが「ここはプロモーションの場として良いかも」と思い、使い始める
5:そのサイクルが回って「ネイル」というビッグワード検索で、ネイルブックは現在1位
筆者としては「DBをCのユーザーが勝手に作り」「勝手にBのユーザーが検索流入してサービスにコンバージョンする」という流れが凄く美しいと感じた。市場の数値とネイルブックの現在の事業数値は下記。
■ネイル関連市場規模
約2,100億円
■国内ネイルサロン市場規模と主要数値
店舗売上:約1,600億円
販促費 :約100-200億円(市場の5-10%)
ホットペッパービューティーネイル売上:推定約数十億円店舗数:約2万(協会に届け出のある公式数。非公式にはその2-3倍)
■ネイルブック事業数値
登録ネイリスト数:約5,000
登録ネイルサロン店舗数:約7,500
公式登録ネイルサロン店舗数:約1,000
上述の獲得サイクルが機能し続ける限り、広告費なしでまだここはスケールする余地があるだろう。
「中小ロングテール」がリクルートにできないこと?
國府田氏に伺ったところ、ネイル関連サービスをやりたかったわけではなく、O2O関連サービスをやりたいと考えた際に、様々な市場を分析した上で、エントリーしやすかったのがネイル市場だったという背景がある。
スマホ時代においてはスマホで手軽に情報発信をした結果、広告費をかけずとも集客できる事象が起こりうる。ネイルに関しては美容領域では髪型より気軽に投稿でき、投稿頻度も若干は高い。ヘアサロン方がネイルサロンの約10倍の市場規模があるが、導入しやすいのはネイルサロンだった。ネイルブックはそのうちヘアサロンなどに領域を横展開する可能性もあるだろう。
このロジックはリクルートメディアに対抗するヒントになると筆者は感じ取った。リクルートメディアはより広告費を払ってくれる大きい広告主を大切にし、リクルートメディアに月間数万円の広告費を払えない中小店舗は集客に苦しんでいる現状があるだろう。そういった中小店舗でも手軽に安く集客できるプラットフォームサービスがあれば良い。
リクルートメディアほどの売上規模にはならないかもしれないが、確実に出稿ニーズはある。中小のロングテールを攻めることは規模の大きなリクルートにはできず、スタートアップが勝てる戦略の定石の一つと言えるかもしれない。その一つの市場として中小店舗が多いネイルサロンは機能しやすいのではないか。
ユーザーはサロンを探したいのかネイリストを探したいのか
ネイルブックは現在収益化していないし、しばらくはその予定もないという。メディアとして力を付けた後は、この手のCGMでは店舗課金か予約送客課金、検索上位表示課金が主要なパターンとなるだろう。
ユーザーとネイリストが出会う場を作りたい(國府田氏)
ホットペッパービューティーのような情報掲載型サービスと、ネイルブックのようなCGMサービスの大きな構造上の違いは「Bによる情報発信」と「Cによる情報発信」。CGMの場合はネイリストが個人でアカウントを持ってネイル写真を投稿し、その写真を気に入ったユーザーがネイリストをフォローし、そのネイリストにネイルをしてもらうためにそのサロンを予約する。
個人に客が付きやすいというのは情報掲載型よりCGM型。ユーザーが「サロンを探す」なら情報掲載型でもいいが、ユーザーが「ネイリストを探す」ならCGM型の方が適している。ユーザーにとっては自分が気に入るネイルができる方が満足度が高いため、ネイリスト単位で探せたほうが良い。ユーザー体験的に良いのはCGM型だと思うんですよね。
下記はネイリスト単位ではなく、ネイルブック内での一般的なユーザー行動の例ですが、絵的な参考までに貼っておきます。
ということで総括すると
・美容ネット領域はホットペッパービューティーがずば抜けて勝っている市場ではあるが、その牙城を崩せる余地はまだまだある。
・ユーザーにとってはサロン単位よりネイリスト単位でのマッチングの方がユーザー体験の質が高く、そういったサービス提供をするメディアにユーザーの利用が傾いていくはず(と僕は仮説を立てる)。
・ネイルサロン市場だけでは小さいが、おそらくヘアサロン市場にも横展開し、同じ仕組みが機能すると思われ、それなりの売上規模が見込める。
こういったロジックで、ネイルブックって有望なサービスなのでは。と思った次第でありました。僕がよく本誌で批判する単なる写真共有サービスではなく「O2Oの手段としての写真」という設計思想がお話を聞いてよく理解できました。
個人的にはリクルートメディアはユーザーへの提供価値以上に儲けすぎだと思っているので、リクルートメディアの牙城を崩すサービスは全力で応援していきたいと思っております。
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