なぜ資金調達には時間がかかるのか?:初心者向け資金調達10のチェックリスト

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本誌をご覧の起業家の皆さんは資金調達を試みたり既に実施した経験のある方も多いでしょう。「いやー、資金調達、長引きました」とコメントする方も少なくありません。

なぜ資金調達に時間がかかってしまうのでしょうか?

多くの起業家が資金調達に馴れていないから。という単純な理由ではないかと僕は思います。特にアーリーステージやシリーズAではじめての資金調達という方も多いと思いますので、初回はどうしても時間がかかる。逆にシリアルアントレプレナーはそのトラックレコードを元に、名前だけで調達できてしまうこともあると思います。

はじめて資金調達をする方が何かを見てノウハウを得れば、起業家が資金調達に費やす時間を削減でき、プロダクトの拡充に時間をより投下できるかと思います。この需要に対して磯崎さんの起業のファイナンスという本の供給がマッチしており、界隈では人気を博したのは明白です。

資金調達において「どんな事業計画を書けばいいか」というネタをサロンでも話題にし、様々な起業家からの有意義なコメントをいただきました。そういったコメントや、私の見解を元に、本稿で初心者向けの資金調達の仕方(主に事業計画こう書いたらどうですか)という話をします。過去に一応私も数百件は事業計画を見てきています。

対象:資金調達をこれからしたい起業家
内容:わりとイージー

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1:どんな課題を解決したいか。どんな世界を創りたいのか

一番重要で、一番難しいことでもあると思います。

個人的には「課題解決型」と「ビジョナリー型」があって、後者は例えばFacebookだったら「社交がオンラインでできないなんてマジ不便じゃないか!」という課題は当初なかったと思いますし、あってもかなり潜在的なものだったんじゃないかと。ましてやtwitterなんて「つぶやけないという課題があってだな」という顕在需要はなかったと思います。

ビジョナリーな方が奇跡的なスケールが起きる可能性はありますが、当初は理解できない人も多い。現実的には、課題解決型の方が多いのでは。

起業家の皆さんはざっくりと「こんな課題を解決したい」「こんな世界を創りたい」というのがあってビジネスプランを考えるのですが、それってそんなに多くの人が解決したいと思う問題なんですか?とか、あまり使われなさそう。あったらいいね!的な、ただのアイディアベースなんだろうなというサービスの方が多い気もします。

誰かに「うおお!これは!!!使いたいぜ!!!!」と思うくらい深く刺さっているサービスだといいんじゃないかと思うのですが、浅くしか刺さらないサービスは結局継続率が悪いし、スケールもしないと思います。

一番重要なのに、何となくファジーになっている案件が散見されるのがこの点です。ゆえに微妙なサービスが世の中にはたくさん出て、そのうち撤退することになる。そして、ここに対して「こんなのニーズないよ。とっとと撤退したら?」と助言する投資家はほとんどいません。投資家も嫌われたくないし、批判して後から成功したらどうしようというリスクを取りたくないからです。

ちなみに僕はダメだと思ったサービスはボロクソに言って終了します。

2:ざっくりではなく、具体的な市場規模

そのビジネスを展開する上で、どれくらいの売上が見込めるか。その根拠の一つとしてマクロ要因から市場規模を考えます。この際によくありがちなのが「広告市場は6兆円でして」などという大きすぎる市場規模を言ってしまうことです。極力大きく見せたいのは理解できますが、実際にその大きい市場のどの部分を取りに行くのか、明確に示すべきでしょう。

RTB事業社がプレゼンすると仮定して、広告を例に取ると、国内インターネット広告市場は9,000億円で、その内Googleなどのリスティングが○億円、Yahoo!などの純広が○億円。RTB広告市場は2017年に国内で1,000億突破するという調査資料がある。この市場で当社は市場シェア10%の売上を目指し、2017年までに100億売上を作る。海外のRTBもこういう上昇トレンドなので、国内でもRTB化率は高まるだろう。

これでもざっくりですが、この程度の粒度感が欲しいです。

市場に対する捉え方は投資家によってかなり異なるようですが、僕の場合は数百億円から数千億円の市場のこの部分を狙う。とかの方が現実感があって納得しやすいです。

3:市場のトレンドと参入タイミングが適切か否か

いくら解決したい課題が明確で、市場規模もそれなりにあるからといって、これから確実にダウントレンドの成熟市場に参入します!といわれると魅力的に思えません。例に挙げると、これからSEO市場に参入して「被リンク売りまくりまっせ!」という起業家はいないでしょう。いたらアホです。

一方で国内でヘッドマウントディスプレイ市場に2012年の時点で参入するとか考えるとすると、時代を先取り過ぎていて、タイミングが不適切なように思えます。デバイスがそれなりに普及してくるところでその分野のトッププレイヤーとなれていれば美しいのですが、参入タイミングは早すぎると誰にも理解されず仮に資金調達はできても資金だけ食ってしまうことになりかねません。

この辺の話は昔取材したスポットライトの柴田さんの話がわかりやすいので必読です。

市場への参入タイミングが生命線(月刊:事業構想)

今後数年のトレンドを読んで、そこに張るというのは定石ですが、「早すぎてもダメ」ということです。

4:「どうやって」課題解決をする。競合との比較は?

オペレーション面。課題があるのはわかった。じゃあそれをどうやって解決するのか。具体的にオペレーションプランに落とし込みます。そのオペレーションは現実的に実行可能なのか。無理のあることを言っていないか。

課題があり市場も明確にある。だったら他に参入しているプレイヤーはいないのか?競合がいないオリジナルな事業だったら利益を寡占しやすいですが、世の中そう甘くはありません。直接的にしろ間接的にしろ何かしら競合はいるはずです。

競合状況を調査した上で、自社の優位性は何か。海外で類似サービスがある場合はそのサービスの調子はどうなのか。その市場を狙うプレイヤーについて理解を深め、その上で自社が勝つための戦略を提示する必要があります。案外ここが抜け落ちている(実際に競合がいないケースもあるのですが)ことが少なくありません。

5:サービスの実績数値は正直に語ろう

既にサービスを出している場合は実績値を出しましょう。スタートダッシュに失敗している場合は、相当悲惨な数字で出したくないかもしれません。実際に出さない起業家もいるでしょう。

しかし、自分たちに都合のいい数字ばかり並べていると不信感を持たれます。例としては、UUは開示しているのになぜPVは開示しないのか。など。

投資検討先が事業数値を欺いていたら許せませんね。都合の悪い数字を出したくないのはわかりますが、例えば結婚した後に奥さんが「実は3,000万の借金があって…」とか言われたら殺気を覚えますよね。事前に言ってくれれば、それも許容した上で結婚した可能性もあったでしょうが、借金まみれの女はゴメンだと言って結婚しなかった可能性もあるでしょう。

正直さが表れるのが、実績数値の開示具合だと僕は思っています。

6:今後3年の現実的な予測PLとマネタイズプラン

よく3年目でいきなり黒字になる恒例のアレです。3年目の浮気ならぬ、3年目の黒字ですね。

投資家によってはいらないという人もいるでしょうが、僕はここはいつも重視してしまいます。事業計画の肝である点であり、なめてはいけません。実際に起業家側が提出した事業計画とこちらのデューデリ結果に乖離があり、見送るというケースは少なくないでしょう。

たしかにアーリーステージではマネタイズは無視されることもあるでしょうが、シリーズA以降はそうもいかないでしょう。実際に売上が上がっている企業の方が評価されやすいのは事実かと思います。いくら良さげな事業をやっていても、ほぼ売上が上がっていない企業は後半のラウンドに進めば進むほど評価されにくくなっていく気がします。

たまにマネタイズについて聞いたら「なんで今そんなこと答えなきゃいけないんですか」逆ギレされることもありますが、意味が分かりません。ビジネスですから、利益を追求するのは当然でしょう。利益が出ないものに普通は投資しない。無料アプリサービスで、LINEとかが買収してくれるだろうというよほどの資本政策的算段が見込めない限りは、独自で利益を上げるのが普通だと思います。

7:希望調達金額と時価総額算定、株式の種類

資金調達活動ですので、最終段階ではこの辺の条件を詰める必要があります。未上場企業においては時価総額(バリェーション)算定が非常に難しく、もはやノリの世界です。

時価総額算定の仕方として上場企業がたまに使うであろうDCF法が適用されることはほぼなく(将来見込む利益のボラティリティが設立当初のスタートアップでは高すぎるため信憑性が低い)、類似会社比較方式(マルチプル)で競合のバリュエーションを参考にしたり、ユーザーベースでの「1ユーザー300円」的な積み上げ型でカウントしたり、売上や営業利益から妥当なPERを算出したりと、色々方法はあります。

しかし昨今の国内ではマルチプルが根強く、強力なプレイヤーがいる市場のバリュエーションは高騰しやすい環境にあるといえます。例えば、メルカリのバリュエーションが100億なので、フリルも100億。そういったノリです。仮にメルカリのバリュエーションが10億程度でも、フリルのバリュエーションに100億付いたかは怪しいと思います。サイヤ人たちが当該市場のバリュエーションの相場を結果的に上げているという見方もできます。

バリュエーションを決める際のもう一つの要因が株式の種類。普通株なのか優先株なのかで投資家が取るリスクは全然変わってくるので、優先株であれば高めのバリュエーションでも許容されがちな傾向にあります。

優先株を許容して高いバリュエーションを付けるのか、普通株でいいからバリュエーションを抑えるのかといった選択肢が起業家にはあります。ここ2-3年でバリュエーションの相場観が上がったこともあり、起業家の中にはバリュエーションが高い=カッコいいという意識を持つ人もいるのではないかと思います。しかし、高いバリュエーションはEXITの選択肢を狭めるリスクもあるので(優先株であれば投資家はある程度リスクを抑えられますが)、今後M&Aが増えると想定している本誌では低いバリュエーションでの調達をお勧めします(ポジショントークではないですよw)。

なんとなーくですが、プライド高い人ほど高いバリュエーションにこだわる傾向がある気がする。高いバリュエーションへのこだわりは見栄とか周りと比較した見映えとか、そういう気がするんですよね。

8:資金調達したお金の使用用途の説明

明確な場合とファジーな場合にくっきり分かれるのがここ。

投資家心理としては、自分たちの投資した金が何に使われるのかは気になるところです。例えば先日のiQonのように「100万DLは突破したが、こっからはマスの勝負だ。10億円KDDIからもらって、TVCMや!」というのはわかりやすく投資家も判断しやすいでしょう。

何に投下すればユーザーが伸びてビジネスがスケールするかというKPIの仮説や既に少し実証されている場合は良いと思います。

大抵の場合は人件費(開発費を含む)という説明が多い気がします。実際にアーリーではほぼ人件費といって差し支えないでしょうし、シリーズA以降で数億円調達しても、オンライン広告に投下できる上限は限られています。二桁億円調達するとTVCM以外そんなに金の使いどころがなかったりもする。使いたくても人件費とオンライン広告では月に1億も使えない。物理的には使えるが、やればやるだけROIが下がる。という悪循環に陥ることはありそうです。

調達したお金で人を採用します!というので構わないっちゃ構わないのですが、それ以外にどのチャネルにお金を使えばユーザーが伸びるかとか明確にわかっているとすごく投資しやすいです。

9:経営陣紹介でのドヤ感

最後に経営陣紹介です。この経営陣紹介のスライドはけっこう各社差が付きます。それはその経営陣のトラックレコードの差と言い換えても差し支えないかもしれません。投資家は実績のある経営陣が大好きなのです。

実績があまり豊富ではない経営陣でも、ここはそれなりのドヤ感を出してほしいなと僕は思ってしまいます。実績で「おっ!」と思うところが一つもないと、会ってみようという気にならなかったりする投資家もいるでしょう。人間は本当に肩書きに弱いものです…。

実績がなくても、何かしらのオーラーを感じさせるとか、そういうのはあってもいいのではと。

10:譲れるところ譲れないところを明確にしておく

これは特に条件面ともいえますが、資金調達は交渉ごとです。全てが自分の思い通りにいくとは思わない方が良いでしょう。

そこで初期提案では自分の希望をフルフルで伝えるにしても、最終的な落としどころは投資家の希望もある程度受け入れる必要があるでしょう。バリュエーションは下げても株式種類(優先株は受け入れない)とか。落としどころは予め考えておいた方が良いと思います。

長くなりましたが以上です。投資家や起業家の皆さん、「これは違うだろ!」とか「こういう論点もあるんじゃない?」などの突っ込みがあれば宜しくお願い致します。適宜追記致します。

はじめての資金調達を実施する起業家の皆様のお役に立てれば幸いです。

ちなみに私も一応投資家で、最近時間もあるので、事業計画をお送りいただければ拝見して簡易的なフィードバック差し上げます。下記に募集要項を記載しますので、お気軽にお送り下さい。

【The Startup:事業計画辛口フィードバック募集要項】

宛先:FacebookでYuhei Umeki宛
1:お名前と社名
2:事業計画書のPDF(他者への流用は致しません)
3:ご希望されるフィードバック内容

*データで送りたくない場合はテキストなど。データで送りたくないので、いきなり会ってフィードバックしてくださいというのはなしです。
*だいぶ辛口ですので、ボロクソに言われたくないというプライドの高い方はご遠慮下さい。ボロクソに言われたと吹聴して回る方は論外です。Mな方にはたまらない内容かと思います。
*案件次第では僕のクライアントを通した投資検討も可能です。

New!広告出稿をご検討の方はこちらをご確認下さい。 

New!最近暇なので新サービスの話を聞いたりしています。こんなサービスですがどうですかなど気軽にメッセ下さい。チャットかお茶で議論しましょう。

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今日も適当にツイート中。 @umekida

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