村田マリが僕に会いにはるばるシンガポールからやってきたことを君は信じたくないかもしれない。あるいは嫉妬するかもしれない。でもそれは紛れもない事実なのだ。4月のある晴れた朝にリッツカールトンのタワーズグリルに、村田マリはとある男を連れて僕に資金調達の報告とiemoというサービスの説明にやってきた。
梅木さんがiemoのことについて少し触れてくれた記事を見たの。でもちょっと惜しいなと思って。直接会って説明したくなっちゃって。
村田マリはにこやかに話し始めた。彼女は昨年gumiに自身が運営していたコントロールプラス社を事業売却をしているシリアルアントレプレナーだ。その前に新卒1期生のCA女子でもある。僕はそのことについて触れないわけにはいかなかった。
私、サイバーエージェントの新卒1期生で。入社当時、同期の女の子同士で話し合っていたのよ。私たち、顔採用なのかしらって。しかもみんな背が小さいのよ。
村田マリのキラキラ感は現役のCA女子をも凌駕するものだった。ところで今回は資金調達したらしい。あの、ワタナベさんから。
資金調達してiemoをスケールさせることを決めた時に、頭に浮かんだのはワタナベさんだったの。だって、彼、いまとても脂が乗っている投資家よ。ワタナベさんとしか資金調達の話はしてないわ。
ワタナベさんはVC業界には一人しかいないはずだ。B Dash Venturesのワタナベさんだ。投資先をガンガンEXITさせていることで有名なあのワタナベさんだ。シリアルアントレプレナーである村田マリと事業売却にめっぽう強いワタナベさん。これはガチガチに事業売却を狙いにいく案件なのか。
梅木さん、そんなことはどうでもいいことのなのよ。iemoの話を少しだけ聞いてくれるかしら。
ワタナベさんからの資金調達額は非公開のようだ。ワタナベさんの案件はたいてい非公開だ。しかしファンドの残高と村田マリの魅力からすると、1億前後の投資でValuationは5億から8億くらいと予想しておく。
iemoは住のプラットフォームメディアを目指しているの。いまはインテリアとかが中心に見えるかもしれないけれど、もっと生活全般にコンテンツを拡げてくわ。コンテンツもおもしろくて、いますぐ恋愛体質になるベッドルームの作り方♡8つのポイントという記事なんか、どうかしら。
どうかしら。僕は彼女の夫である投資家の本間さんを思い出してしまった。
ユーザー層は地方在住の子持ちの30代主婦が多いの。わたしはシンガポールに住んでいるけど、わたしのようなユーザーが多いと思うわ。育児や家事の合間にスマホでiemoを見て、生活のちょっとした工夫のヒントにする感じよ。リピーターも多いわ。
オシャレnanapi。僕はこの話を聞いたとき、そう思った。テキスト中心のnanapiとは異なり、写真中心のiemo。生活のハウツーという領域では近しいかもしれない。
編集部機能が社内にあって、コンテンツは内製しているの。今後は量ではなく質にこだわって記事を作るわ。法人アカウント機能もリリースして、フリーミアムモデルも考えているけど、メインのビジネスモデルはこれから発表するつもりよ。
iemoのようなまとめ系メディアは昨今、キュレーションメディアとも言われている。meryやU-Noteあたりが同じ文脈で語られるだろう。既にFacebookページには4万人以上のファンがいる。投稿に対するいいね!数を見る限り、インドネシアで買ってきたファン数ではなさそうだ。
サービスのリリースからまだ3ヶ月と少し。サイトのUUやPVは非公開だが順調なスタートといえるかもしれない。「キュレーションメディア」について聞くと、村田マリは突然鋭い眼差しになった。
今後のキュレーションメディアはソーシャルゲーム業界と同じことが起こると思うの。わたしは前の会社はSAPだったのよ。GREEやmobageのようなプラットフォームが出てきて、そこにコンテンツを提供するSAP。
この構図がキュレーションメディアではグノシーやスマートニュースのようなプラットフォームに対して、iemoのような一次メディアがコンテンツを提供していく。似た構図になるはずよ。
なるほどと僕は思った。ところで隣にいる若い男は誰だろう。
わたし。男の人をこんなに真剣に口説いたの、生まれてはじめてよ。
村田マリは頬を赤らめて言った。隣にいた熊谷という男がはにかんだ。
熊谷という男はフォリフというベンチャー企業を経営していた28歳だった。会社を一旦閉じて、休養しているときに村田マリからiemoにジョインしないかと誘われたという。そして熊谷は共同代表としてiemoに加わった。
スタートアップ業界では起業家はみんな採用に必死だ。業務時間の8割を採用に割いているという起業家も珍しくない。特に共同代表や取締役、役員クラスにもなると、その必死さは時に恋愛以上かもしれない。
とにかく会う度に口説いたわ。出会ったきっかけは実は夫なの。熊谷くんの前の会社に夫が投資していて、次の事業を立ち上げる際にも夫はまた投資したいと言っていたわ。シンガポールに熊谷くんが遊びにきてくれて、夫と次にやる事業を考えていたの。
でも夫はマイペースな人で、せっかくシンガポールに来てくれた熊谷くんを放置するのよ。だからわたしは熊谷くんを誘ってマーライオンを見に行ったりしたの。そのうちに彼に惹かれていったわ。
そんなきっかけもあり、熊谷という男はiemoの開発を手伝う機会があった。その際の彼のクオリティに村田マリは一目惚れし、会う度に口説いていたという。口説かれ慣れていた熊谷という男は、最初は流していたそうだが、村田マリの熱烈ぶりに心を決めたという。
マリさんは実は短所も結構あって。その短所は比較的僕が得意な領域が多くて、一緒にやるとシナジーがありそうだなとイメージできたんです。
熊谷という男は村田マリの夫の本間さんに電話し、iemoに参画することを伝えた。本間さんはいい投資案件を逃したに違いない。僕はシンガポールにいるはずの本間さんのことを思った。
その後の話の中で、村田マリは意外にも僕より毒舌らしいということがわかり、妙な親近感を得た。僕たちは国光さんについてなど、牧歌的な話題を繰り広げた。キュレーションメディアやバーティカルメディアに関するビジネス的な考察はまた別の機会にしよう。
【編集後記】
4月のある晴れた朝に会った村田マリは、キラキラ感とギラギラ感を兼ね備えた100%の村田マリだった。この記事タイトルと中身の相関性はあまりなくて、村田マリに会う前の日に閃いただけだ。記事内に村田マリという単語は20回登場したほど、フォトジェニックならぬ小説によく似合う名前だったということだけは読者のみなさんと村田マリには許してほしい。
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