最近、国内でも定期購入サービスが乱立の様相を見せてきており、市場の盛り上がりが伺える。著名キュレーターのユリコカイ氏もこの市場に関して下記のようなコメントを発信されている。
今回は「モノの定期購入」と定義して、この市場を考察する。海外の定期購入サイトの一覧は既にこちらにまとめられており、便利である。とりあえずこの市場を考察する前に、国内で「サブスクリプション・コマース」とドヤ顔で海外風に語られる方が多い風潮があることが少し嘆かわしいということを主張しておきたい。やれやれ。
定期購入が注目されるのは事業者側にメリットがあるから
ユリコカイ氏の解説にもあるが、定期購入市場が注目される理由は、ユーザーサイドではなく、サービス事業者サイドのメリットにあるように思える。私自身、最近はメンズアパレルの定期購入の立ち上げについて個人的に考案していたので、この辺の気持ちはよく理解できる。
通常のコマースと比較した定期購入の事業者側のメリットは下記となる。(実務的に私はコマースサイトの運営に半年くらい携わっていましたので、一通りの実業経験を踏まえた上での観点です)
1:売上の安定
理由:通常のコマースのワンショットでの買い物ではなく、「定期的に」購入頂ける可能性があるため
2:在庫リスクの低減によるキャッシュフローの安定
理由:商品購入から配送までのリードタイムが通常のコマースよりも長い場合が多く、在庫リスクを低減できるため
3:オペレーションコストの削減
理由:商品を選ぶのは事業者である場合が多く(何パターンからユーザーに選択してもらう、価格帯のプランだけあって中身はブラックボックスというパターンに二分される)通常のコマースでは1品1品写真を撮って商品説明を明記する必要があり、そのオペレーションコストを削減できる
通常のコマースはネットビジネスの中では利益率がかなり低いですが、上記のロジックにより、リスクとコストを低減し、売上が安定する、という魔法のソリューションが定期購入である。と考えがちなのではないかと思います。ユーザーサイドの観点は後述しますが、サービス事業者の観点では「軌道に上手く乗れば」従来のコマースよりは高い利益率を確保できるため、 魅力を感じる人は多いのでしょう。
モノ以上の付加価値をユーザーはどう感じているのか
続いてはユーザーサイドの観点です。モノ=財の種類は「消耗品」「嗜好品」に分類される。消耗品でいうと生協みたいなモデルにより、近所の人と一緒にオーダーすることで一定率のボリュームディスカウントが効くという利点がある。しかし、現状の定期購入では、そのサービスで買うと安いというわけではなく、そのサービスから受け取る、モノ以上の付加価値を含めた価格設定となっていることが多く、ここに価値を感じることができるかが、ユーザーの大きな購買意思決定要因となるはずである。
ユーザーサイドから見ると、3タイプの定期購入パターンがある。
1:人によるキュレーション型(提供者に全面的信頼を置く形態)
2:モノによるキュレーション型(モノが選ばれていることに価値ある)
3:消耗品の代替型(米、化粧品など)
私がアパレルの定期購入で考えた際には、モノの上代価格に加えて「コーディネート(セレクト)料」として何%かを上乗せするというものであった。サービス事業者側のセレクトセンスに価値を感じるのであればユーザーはその対価を支払うではないでしょうか。これは「人」と「モノ」の中間型といえるでしょう。
「付加価値」として私が着目しているのが「パーソナライズ」と「コミュニティ」の機能です。洋服のような極めてパーソナライズ性の高いものであれば、一律で同じモノを送るよりも、パーソナルスタイリスト並のきめ細かいサービスの方がユーザーはメリットを感じるでしょう。嗜好品でも比較的コモディティ化が効くものはFacebookグループなどでの定期的な情報交換やオフ会で嗜好品の趣味が合う人を繋いだり、嗜好品に対する学習が深まる機能があると尚良しであると思います。
モノが定期的に届く以上の価値、むしろモノはおまけですよくらいの強力なインセンティブがあるとユーザーのロイヤリティは高まるでしょうが、事業としてのスケーラビリティには疑問符ですね。個人で副業的にやる分には良いかもしれませんが。
日米の市場環境の違いは定期購入の浸透に影響するか?
定期購入サービスを語る上で、米国のモデルがそのまま日本に展開できるわけではないと指摘する識者もいる。
その一つにあるのは日米の人口集積率の違いである。日本では総人口の1/4が首都圏に集中、関西圏も含めると1/3以上が首都圏と関西圏に集中しており、店頭に買い物に行くのに不便な市場環境とは決して言えない。一方で米国では総人口3億のうち、NY圏でも1,000万人、LA圏でも500万人前後程度と、米国全土に幅広く人口が分布しており、店頭に容易に買い物に行けない人がむしろ大多数である。そのためeコマースが発達した。
このロジックを適用すると日本で楽天が普及しなかったことになってしまうので、このロジックを安易に適用すべきではないだろう。だが「本当に定期購入って必要なのか?店頭で買えるじゃないか。定期的に本当に必要なものなの?」という突っ込みどころは必ずあるはずだ。
ShoeDazzleにみる定期購入からの進化
本誌の読者であれば説明は不要と思われる、米国発の女性靴定期購入サイトのShoeDazzleは最近、靴の定期購入からアクセサリーなどにも商品ラインを拡大し、2012年8月には会員数が1,300万人を突破したと発表している。国内でのShoeDazzleに関する記事はこちらがわかりやすい。
ShoeDazzleに関しては、私は2012年5月に調査し、どのソースを辿ったのかログを残しそびれたのだが、下記のようなデータを算出している。
■ShoeDazzleサイト概要(2011年6月時点)
会員数:300万人
リピート会員数:12.5万人(リピート率5%)
客単価:$39(約3,200円と仮定。最新情報では最低$29〜に低下)
月商:約4億
ShoeDazzleのリピート率が低い要因として、「スキップ」機能(購入をその月は拒否できる機能)や自分で数種類の中から商品を選んで買うという形態であることが挙げられる。売り手のロジックで考えると、自動的に毎月売り上げられる形式が望ましい。しかし、ShoeDazzleは最善のユーザー体験を選択した。(ようにみせかけてユーザーの母数を増やしたいという狙いもあったであろう)
最新のリピート率はわからないが、会員数は1,300万人にまで伸びている。上記の記事では2012年3月に月額定期購入機能を必須ではなくしているようだ。通常のECのように単品購入も可能になった。クローズド⇒オープン化への流れともいえるが、推測だが最初からアパレルコマースの巨人となることを狙って、定期購入をプロモーション上のフックにしてサイトを伸ばすという戦略だったのではないだろうか。
逆にいうとアパレルの定期購入のみでのスケールは難しかったのではないだろうか。2011年6月時点のデータを見ても、年商100億強規模までが成長のアップサイドだったのではないだろうか。ShoeDazzleの教訓による示唆は興味深い。
結論:ユーザーは本当に定期購入を望んでいるのだろうか
定期購入サービスに関して、ユーザーは本当に盛り上がっているだろうか?私の肌感覚では(従来のコマースとの相対的な比較の上での)その秀逸な事業モデルから事業者側の方が盛り上がっているだけの場合が多いように見受けられる。もちろん本当に良いユーザー体験を提供している事業者もいるであろう。だが、モノが買われない今の時代に、ユーザーは「定期的にモノが届く」ことを本当に望んでいるのだろうか?
この記事を書いているとタイムリーにFancyが定期購入機能をローンチしたというニュースが入ってきた。定期購入は趣味であったり、サイトのサブ的な機能の一つであれば良いだろうが、投資家を入れてスケールさせたいのであれば、定期購入機能がメインでは厳しいだろう。ShoeDazzleのように将来的にはその分野でのスケールを狙うために、通常のコマースがメインのサイトにピボットしていくのではないだろうか。
狙うマーケットのスケーラビリティに乏しければ投資家に魅力的なセクターには見えないであろう。海外の定期購入モデルがどのような変遷を辿るか、今後に注目したい。
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