スマートテレビによるテレビという媒体の変化はスタートアップに好影響を及ぼす

Pocket

「スマートテレビ」というワードを耳にしたことのある方はネット業界でも多いのではないでしょうか。しかし、その実態はよくわからない。という方は少なくないかと思います。私もよくわかりませんでした。本書を読んで少しだけ理解を深めたので、スマートテレビとは何なのかご紹介。

スマートテレビの論点はいくつかあるのですが、PCやスマホ、タブレットというデバイスでの視聴も可能ですが、「スマートテレビ対応したTV」というデバイスが最もインパクトを与えそうで、その普及は、最近地デジで買い替えが進んだばかりということもあり、次の買い替え需要の5-10年後の2020年頃になるという予測をされています。

本書を読んで、個人的には「リアルタイム型視聴からオンデマンド型視聴へというシフト」「ソーシャル化によるリッチな視聴体験」この2つがスマートテレビを考える上での鍵となると感じました。

スマートテレビの定義

本書P16によると、スマートテレビの定義は「①インターネット常時接続機能、②テレビ放送受信以外の処理能力、③秩序と無秩序の融合」とありました。うーん…わかりにくいw

登場するプレイヤーは、既存のTV局や広告主、広告代理店に加え、スマートテレビのOSを担い得るTVメーカー(サムスンがスマートテレビというワードの発祥である、という話もありました)、GoogleやAppleといったスマホOSを握るプレイヤー。「スマートテレビ」で使われる「スマート」とは「スマートフォン」 の「スマート」と同義であるらしい。

少し具体的に言い換えると「あらゆるデバイス」で「時間と場所に縛られずにいつでもどこでも番組を視聴」でき、かつ「TV番組の中にコンテンツ(広告含む)が入り込む余地」があり、ゆえに「コンテンツプロバイダー(TV局など)と広告主と視聴者の関係に大きな変化が起きる(様々なスキームが模索でき、実現可能となる)」ということではないかなと。

この変化のインパクトを「視聴者」「広告主」「コンテンツ提供側」の順に詳しく見ていきましょう。

オンデマンド&ソーシャル化する視聴体験

スマートフォンやタブレットの普及により、TVやPCに限らず様々なデバイスで視聴が可能に。番組自体もリアルタイムや録画しなくても、NHKオンデマンドもっとTV課金する必要はありますが視聴できます。

これに加えて昨今ではtwitterのハッシュタグに代表されるような「ソーシャル視聴=リアルタイムでその番組を視聴し、感想などを共有する」こともできるようになりました。今後のスマートテレビは特にリアルタイム放送においては、こうした「ソーシャル化」をバックチャンネル化して番組と一緒に楽しめるようになったりするのでしょう。Facebook連携で楽しめる実験的な取り組みとして、日本テレビでは「Join TV」というのがありますね。まだ試したことないのでやってみたいですね。

twitterやFacebookを中心としたソーシャルメディアによって、場所を共有していなくても「同じ番組をリアルタイムで見ている」という共有ができ、番組の楽しみ方の新たなバリュエーションとなるのは確かです。実際にサッカー日本代表の試合でtwitterのサーバーがダウンすることもあり、たしかに知り合いがtwitterでサッカーで盛り上がっているのを見て、自分も番組を見ている際は共に盛り上がったり、見ていなくても見ているかのような「エア視聴体験」ができたりもします。

このようなソーシャルメディア(特にtwitter)によって番組の視聴体験が拡張される体験をそれなりのリテラシーの人なら既にしているはずです。ソーシャルテレビラボというメディアでオリンピックとtwitterの相関に関する記事も出ていますので参考までに。こういう体験がスマートテレビの浸透により、もっと一般的になる世の中になるのでしょう。

今は主に知り合い同士かハッシュタグでの盛り上がりでしょうが、将来的には、「同じTV番組を好む人同士のコミュニティができるテイストグラフサービス」とか出てくるでしょう。それもTVの画面が起点となって。そのサービスを通して「今日サッカーの試合だぜ、スポーツバーで一緒に観戦しようぜ!」というO2Oのユーザー行動も出てくると思います。楽しみな世の中ですね。僕も自分が好きなドラマについてとか、語り合いたいものですw コンテンツ提供側にとってもコンテンツのファンを可視化できフィードバックを得やすいので、良いサービスではないかと思う。

スマートテレビの疑似体験として、Ustreamやニコニコ動画の「リアルタイムでコメントが入る番組の視聴に『参加』すること」を著者は進めていましたが、たしかにこれに近しい世界なんでしょうね。視聴という体験をよりリッチにできるテクノロジーソリューション(ブラウザベースかアプリ)に今後は強いニーズがあるでしょう。

オンデマンド化により透明化が進むテレビ広告

「いつでもどこでも」視聴が可能になって「しまう」ことにより、従来のような「時間帯枠売り」の広告商売は成り立ちにくくなる。リアルタイム視聴とオンデマンド視聴の比率が逆転する日はいつになるか見通しは立たないが、オンデマンド視聴者数が増えリアルタイム視聴者数が減ると、リアルタイム視聴型の広告商材である「時間帯枠売り広告」の価値は相対的に下がり、オンデマンドへ広告費は流れていく。

オンデマンド広告は、「時間帯」の概念がなく、「番組」内に広告を出すしかない。ゆえに番組の再生回数に応じて広告価値は決まる。厳密にいえば、オンデマンドでの広告はネット広告になるため「時間帯枠売り」ではなくインプレッションやCPCベースの従量課金体系となることが濃厚ではないでしょうか。

リアルタイム視聴型「時間帯枠売り」はゴールデンタイムなどの時間帯に連動して価格が変動するとはいえ、成果報酬ではなくある程度のインプレッション見込みの「バナー広告」みたいなもの。一方でオンデマンド視聴型はインプレッションやクリック数という結果に応じた成果報酬での広告費となる。TV局としては前者の方が「ブラックボックス化」できるため都合が良かったはずである。オンデマンド視聴化の浸透により、従来のネット広告と同じ土俵に上がらざるを得なくなる。

オンデマンド視聴型は「どの番組に広告を出稿するのか」を「時間帯枠売り」よりも詳細に決めることができる。従来は「ゴールデンタイムだから子供の視聴者が多い」という考えではなく、「この番組を見る視聴者にとって自社のサービスは相性が良いか」をより番組単位で考える必要が出てくる。スマホで視聴するユーザーに対しては位置情報ベースでの広告配信も可能になるかもしれない(ドコモのメッセージフリーのように)

このように「媒体のセグメント化」「出稿できる広告単価の低下」により広告主は従来のナショクラ相当に限らず、中小企業などにより広く間口が開かれるであろう。特にコンシューマー向けインターネットサービスはTVCMと相性が良く、GREEやDeNAはおろか、ZOZOTOWNのセール時のCMや最近ではライフネット生命など、マスへリーチする必要があり、ティッピングポイントを超えにいくタイミングではTVCMは特に有効な施策となり得る。設立したばかりのスタートアップでも容易にTVCMを打てる時代が来るのもそう遠くないかもしれない。

視聴体験の分散による配信側の支配力の低下

コンテンツ提供側(TV局や番組)について掘り下げてみましょう。TVはオワコン(終わったコンテンツ)と言われることもある昨今ですが、ソーシャルメディアとの相性の良さから、人気番組に関してはむしろソーシャルメディアを起点として視聴率が上がるという現象も起きています。友人の何気ないTV番組に関するツイートで番組を視聴する気になったという体験は誰しにもあるのではないでしょうか。

厳密にいえば「TV局という事業モデル」がオワコン化しており、それに気づいているからこそTV局の方々もスマートテレビへ高い関心を寄せている方が多いのだと思います。オンデマンド率が上昇していくという背景もあり、番組単位のコンテンツ力の重要性が増していくでしょう。本書では「局単位ではなく局またいだ番組単位でのアライアンスもあり得る」という話もありました。

オンデマンド視聴の浸透でゴールデンタイムなどの特定の時間帯での視聴者数の多さを担保しにくくなることと、視聴体験のソーシャル化が進み番組に関する良い評判も悪い評判も広まりやすくなることからも、「配信側の支配力が低下する」という構造は避けられないでしょう。

配信側の主なプレイヤーであるTV局は、アドワーズ的な広告システムの構築や、リッチな視聴体験を実現できるプレイヤーとのアライアンスや戦略的出資が今後必要不可欠となってくるでしょう。新しい収益モデルへの転換を今後は求められていきます。

ということで、少しはスマートテレビの概要が掴めてきました。「サービス提供者として視聴体験を拡張するサービスを提供する余地があること」「セグメント化され最低出稿単価が低下するテレビ広告はプロモーション施策として現実味を帯びてくること」この2点を元に「スマートテレビはスタートアップにとって追い風」というまとめで締めたいと思います。

個人的にはO2Oの効くTV番組のコミュニティサービスがあると良いのではと思いました。今回は私の本の実物をジモティで300円で販売しますので渋谷に取りに来れる方はぜひ。



Pocket

コメントを投稿する

「スマートテレビによるテレビという媒体の変化はスタートアップに好影響を及ぼす」に対してのコメントをどうぞ!