【書評+α】「フォースクエア位置情報の威力」から応用するO2Oプロモーション施策

Pocket

夏休み中ということもあり書評です。フォースクエアを本誌で取り扱うのはおそらくはじめてかと思います。私が熱心なユーザーではなかったということがその大きな要因であったのですが…苦笑。2012年4月16日の「フォースクエアの日」にはユーザー数が2,000万人を突破したというリリースも出ていますね。

私自身、フォースクエアに対しては「チェックインした情報をシェアして何が面白いのだ」とUXの初期段階で離脱した懐疑的なユーザーの一人でした。(この初期段階で離脱してる日本人は少なくないと思うのですが)今更ではありますがこの本を読んでやった理解できました。O2Oにおける画期的なサービスなのですね。

フォースクエアは国内では「ゲーミフィケーション」の先駆的な事例として紹介されることがあり、「バッジ」や「メイヤー」など、フォースクエアの上辺の機能をなぞって自社サービスにくっつけようとするプロデューサーは少なくないかと思います。これらの機能はあくまで「店舗からのインセンティブや店舗とのエンゲージメント」 というオフラインまでいってこそ完結するストーリーとなります。オフラインでのユーザー体験が、これほどまでにフォースクエアが爆発した大きな要因であり、こうした設計を踏まえない上でバッジとかやっても効果は限定的でしょう。

フォースクエアは特にリアル店舗がオンラインから見込み客を誘導したり、メイヤーとなるようなヘビーユーザーとエンゲージメントを深めるために有効な施策となります。本書ではユーザー目線というよりかは、事業者目線で約50のフォースクエアを利用したプロモーションのケーススタディを収録しています。400ページ近くあり長いので人によっては全てを読まなくても良いでしょうが、特にオフライン店舗と関係のあるネットビジネスを運営している方は読んでおいて損はないでしょう。自身のサービスに応用できるプロモーションアイディアが浮かぶかもしれません。

本稿では本書を読んで、私が参考になったと思うプロモーション事例やその事例に対する私の所感、最後にはフォースクエアの今後の可能性について言及していきます。

フォースクエアは「シティガイド」の役割を果たす

最初は「プロモーション」ではなく「全体概要」のお話。

お恥ずかしながらフォースクエア初心者の私は最初に利用した時にこれに気づきませんでした… 「ベニュー」という場所に対してユーザーは「tips」という口コミを投稿でき、その場所がどういう場所であるのか、位置情報を元にしてスマホアプリで知ることができます。地球の歩き方などとは一味違ったシティガイドを実現しており、特に情報が密集しやすい大都市だと多くの情報を得られるでしょう。

私のようなフォースクエア初心者は「ただのチェックインアプリ」と思っていそうですが、ユーザー側としてはバッジなどのゲーム性とは別で「シティガイド」としての楽しみ方もできます。 

営業クラウドソーシングとしてのエバンジェリストの存在

私の知る限りではフォースクエアほどエバンジェリストマーケティングの上手いスタートアップはないと思います。厳密にいうとフォースクエアは「アンバサダー」制度を設けています。

本書のP23に明記がありますが、ユーザーがフォースクエアのサイトから「アンバサダー」申請をし、承認されるとフォースクエアから公認アンバサダー名刺が来るそうです。このカードを使ってアンバサダーは自分が利用する店舗に「フォースクエアやろうよ!」とか「メイヤーの俺に特典を!」とかのコミュニケーションを取るわけです。フォースクエア社内に営業チームはないらしく、アンバサダーやエバンジェリストなどの熱狂的なファンがベニューを開拓してくれているとのこと。

国内のO2OサービスではCoffeeMeetingがエバンジェリスト制度を採択し、私も公認エバンジェリストとして頑張っているわけですがw (いつかお茶したい数ランキングも23位と奮闘中です)エバンジェリストマーケティングは費用がほとんどかからずにレバレッジも効くため、もっと有効に活用していくべきでしょう。エバンジェリスト間で競わせる、エバンジェリスト総選挙など、この辺のアイディアを膨らませるのが大事です。この辺りはAKB48のスキームの転用と相性が良いと私は考えています。Rettyあたりはエバンジェリストマーケに力を入れると良いかと思います。

横並びではない発想のバズるディスカウント施策

フォースクエアでの一般的なインセンティブ施策は、初回チェックインや5回チェックインしたら、何かが20%オフになる。メイヤーになったら特別メニューをオーダーできるようになる。というのが一般的でしょう。フォースクエア発祥の地のNYでは、一般的なインセンティブ施策ではもはや大した差別化にならないかと思います。

そこで事例として驚いたのがピザ屋の事例です。通常、ピザ屋だとチェックインすると「ワンドリンク無料」や「ピザ10%オフ」というディスカウントが多いらしいのですが、P287によると、あるピザチェーン店は「チェックインしてワンドリンクオーダーしたらピザ1枚無料」というインパクトのあるディスカウント施策を取りました。

このピザチェーン店ではクーポン利用率を、フォースクエア、Facebook、メールという施策で比較した時、 フォースクエアがこの3つの合計で54%と一番高い数字となったようだ。こうした派手なディスカウントは一見するとGrouponのような焼き畑プロモーションになる懸念もあるが、チェックインを繰り返すことにより、Grouponよりもユーザーが店舗とエンゲージメントしやすいというメリットはありそうだ。一見奇策に見えても、エンゲージメントが深まりLTVが高まると判断できれば、いっこうに値する施策であろう。

質の高いユーザー体験(オフラインストーリー)の発信

「チェックイン」というオンラインアクションを通して、オフラインで「何かが起きる」ことがフォースクエアでのユーザー体験の完結。際立った事例として、P68の「NYの独人女性3名のグループがBARにチェックインしたら、フォースクエアを見て12名の男性がそのBARに現れた」、P302の「同じジムに通っていた男女がジムのtipsを読んでフレンド申請をして、その後付き合って恋人になった」という「ドラマの世界の話だろ!」という実話が収録されています。

意図的ではなく偶然のユーザー体験でしょうが、こうしたユーザー体験が偶発的に起きるサービス設計であることは確かでしょう。

フォースクエア側がこうしたユーザー体験に関して、公式に発信しているか否かは確認できていませんが、こうした貴重なユーザー体験をサービスとしてオフィシャルに発信することは、他のユーザーがサービスを利用する想像力を膨らませる助けとなり、アクティブ率が向上する効果が見込めるため積極的に取り組むべきでしょう。

国内サービスでもこうしたユーザー体験の「オフラインストーリー」を発信しているところが増えてきていますが、各サービスのスタンスの違いからか、記事の質のボラティリティが高いなと見ていて感じます。私はこうしたストーリーテリングは重要と考えていますが、そうでない経営者にとっては「いかにコストを抑えて記事を乱発するか」に主眼を置いてしまうため、コンテンツ数は増えてもゴミが多く、結局はミスブランディングに繋がるという例もあるかと思います。

質の高いユーザー体験という「ファクト」を掘り出し、「適切な形(質)で伝える」という点がこの施策においては重要です。私もこの辺を実務で手掛けておりますので、今一度見直したいところです。

フォースクエア、今後日本においてどうなる?

最近、心なしか私の周辺ではフォースクエアユーザーは減ってきている気がします。一方でFacebookでのチェックインは増えている気がします。NYと同様の人口集積率を誇るため、東京はフォースクエアに向く都市であると言われていますが、一方で「フォースクエアを利用しても店舗からのインセンティブに乏しい」という声もあり、後者がフォースクエアのアクティブ率の低下を招く懸念は大きいでしょう。

私は初心者ですし、周りでも「メイヤーになったことで感動するような特典が店舗からあった」という話を聞いたことがありません。この手の体験をされたり、話を聞いたことがある方がいらっしゃったらぜひ共有して頂きたいとです。日本で普及するか否かの鍵は「店舗側からのインセンティブ設計」と「インセンティブを付与する店舗数の増加」にあるでしょう。

その意味で、本書を元にプロモーション施策としてフォースクエアを取り入れる店舗がどれだけ出てくるかに注目です。twitterマーケティングでも著名な「豚組」を経営される中村さんが本書の監修をされているのは代表的なソーシャルリテラシーが高い飲食経営者である点は大きいでしょう。

こうした新しい施策の導入に消極的な店舗は少なくないでしょうが「チラシ」などの配布と比べると「ユーザーからのフィードバックがある」という点が最大の利点になる、という営業文句が常套句となるようです。

GetGlueとの違いはオフライン・インセンティブの有無

エンタメチェックインのGetGlueにも以前から注目していますが、最近余りトピックスを見かけず、伸び悩んでいるのかもしれません。GetGlueはTV番組やアーティストにチェックインし、その感想をシェアするという使われ方が一般的で、リアルタイム性が加わると、日本では盛り上がっているTVをtwitterのハッシュタグで追いながら見るという楽しみ方が一番面白いのかもしれません。

エンタメチェックインのGetGlue、ロケーションチェックインのフォースクエア。ここまで差が開いたのは「オフラインでのインセンティブ」にあったのではないかと思います。 GetGlueでは基本的にオンライン上でテイストグラフを形成して、自分の好きなTV番組やアーティストについてコミュニケーションをします。

一方でフォースクエアでもオンライン上でそのロケーション(ベニュー)に関するtipsを閲覧して楽しむこともありますが、最大の魅力はオフラインでのインセンティブではないかと。ディスカウントを受けられる、メイヤーになってドヤ顔ができるなど。「馴染みの店」を持てることに誰しもが多少の憧れはあるのではないでしょうか。このオフライン・インセンティブの有無が同じチェックインサービスでもここまでの差を生み出したのではないかと考察します。

本書を通して日本でもフォースクエアをプロモーションツールとして利用する店舗が増え、楽しめるユーザー体験ができる機会が増えると良いなあと思います。

今回は事例を探るのに手元においておきたいため、私の現物をジモティで販売することはしませんが、umekidayo書店では下記の通り販売しますので、ぜひお買い上げ下さい。位置情報に関するサービス事業者は必見、それ以外の方でもプロモーションにおけるアイディアを膨らませるためのケーススタディが満載の良書といえるでしょう。



Pocket

コメントを投稿する

「【書評+α】「フォースクエア位置情報の威力」から応用するO2Oプロモーション施策」に対してのコメントをどうぞ!