最近、個人的な興味があり、ファイナンスネタを従来よりも多く扱ってきました。様々な立場の人に意見を聞いていくつかの仮説を立てられたり、意見を持ったので、今回は久々のオピニオン記事です。
1-3億の調達では10億前後のValuationという相場観
SeriesAないしはBでの1億単位の調達事例は、先日の記事でお伝えしました。10億のValuationで1億を調達しているところは実際にはあまりないでしょうが、一つの基準となっている感は否めません。現実的にはこのラインをベースに、Valuation、シェア、投資金額のそれぞれで妥協点を見い出し妥結しているケースが大多数でしょう。Valuationは5-20億、シェアは10-30%の間の放出が一番多い感触です。1億の調達であれば現実的なValuationは3-7億の間が多いかと思います。
私個人の感想としては、相場観に基づいた投資はあまりよろしくなく、GCP今野氏のおっしゃる通り、「必要資金量に基づいた、適切なタイミングでの投資」が望ましいと思います。ただし、狭い業界であるため「業界平均を脱したディール」をやることは日本ではあまり好ましくなく思われず、特にVCサイドはSeriesAで1億くらいの調達ではValuation10億のラインは避けたがる傾向が見受けられます。勿論、そうでないVCも一部存在しますが。
1億以上は類似事例の有無かマネタイズの現実味が投資基準
実際に1億以上調達しているスタートアップの傾向、および「自分が投資家の立場だったら」と考えると投資基準はこの二点です。
▷類似事例の有無:類似事例を過信しすぎる失敗も?
まずは「類似事例の有無」。 VCは実務として「この案件はExitの現実性があるか?」を検証する際に、類似会社の事例を調べます。最近大型調達が続いた写真アプリは言うまでもなく、Facebookによるinstagram買収の要素が大きいと思われます。VCは極力リスクを排除するために、「類似事例」をとても好む傾向にあります。マネタイズの現実味がなくても類似事例でExitの現実味があれば投資判断を下すVCは多いと思います。
逆を言うと、類似事例を過信しすぎる傾向もあるでしょう。海外で類似事例があれば日本でローカライズできるだろうとの思い込みです。ローカライズの際のボトルネックは何か、海外の事例はどう立ち上がったのか。単純に「海外の成功事例がある」だけでは判断材料として不十分で、この辺をしっかりリサーチする必要がありますが、ネットで拾えない情報も多く、難易度が高いため、VCはデューデリを怠りがちなのではないでしょうか。私自身、海外事例を過信して痛い目に遭った経験があります。(もちろん、しっかりDDされるVCもいるでしょう)
▷マネタイズの現実味:ユーザー数伸ばす戦略でも収益モデルを明示せよ
2点目の「マネタイズの現実味」ですが、売上が既に上がっているスタートアップとそうでないスタートアップだと、前者だとValuationを上げやすいと認めているVCもいます。次項でも触れますが、売上が上がっていて収益構造が既に見えており、安心できるという心理は私も全く同感です。
ユーザー数をとりあえず伸ばせばいい戦略のスタートアップも、将来的にどれくらいの収益がどういうモデルで実現できるのかというところは示してほしいです。スタートアップは収益モデルの研究により力を入れ、将来的な収益モデルを明確に胸を張って言えるようじゃないと、厳しいと思います。始める前に考えるものだとも思いますが、「ユーザー数伸ばしたらどっかに売却できるだろ」という安易な発想の方が多いように見受けられます。
1億以上を調達しているスタートアップはこのどちらかに当てはまるケースが多いはずです。なんでこの案件で調達できているのだ?と疑問なディールも僅かではあるがあります。その際はVCの顔ぶれをみると納得できます。。
SeriesAで1億以上の投資は勝ちパターン見えた場合に有効
前項の「マネタイズの現実味が投資基準となる」で触れていますが、SeriesAなどの早い段階で1億以上突っ込んで有効なのは、シードステージでのサービスの検証で「勝ちパターン」、より厳密には「KPIを伸ばす有効な施策」が見つかり、そこに資金を投下すればサービスが伸びる可能性が高いと判断できる材料がある場合だと思います。
クーポンビジネスはこの代表例で、「掲載クーポン数を伸ばす」というKPIは「営業マンを増やして人海戦術」というドライバーで達成できるという明確な解がある市場であり、資本力の勝負になり、資本力のあるところが勝利。
こうした勝ちパターンがまだ見えていないフェーズにおいては、1億以上出資する側は「類似事例」がない限りは消極的にならざるを得ないでしょう。1億入れて勝ちパターンを模索するというのは、PDCAのスピード的には良いかもしれませんが、VCからするとリスクが高い。それよりは3,000万くらいで少数精鋭で勝ちパターンを見つけ、それから1億以上入れてアクセルを踏む。というのが正攻法だと思います。この点、本間氏のご意見に同意です。
売却狙いのスタートアップは売却先を明確にイメージせよ
IPO市場が狭まっており、売却をゴールに見据えてのスタートアップも多いでしょう。売却を見据えることは問題ありませんが、「こんなサービス、どこが買うのだろう…」というところも少なくないですし、1億くらい調達するのであれば最低限10億以上で売却できる売却先がないと厳しいでしょう。
GoogleやFacebookへの売却を夢見るスタートアップもいるでしょうが、日本のスタートアップがそれらに売却された事例はあるでしょうか?しかも、GoogleやFacebookとイメージで語るだけの起業家が多いと思います。それよりも国内の大手企業が買収したいと思えるようなサービスであるのか、売約先を明確にイメージし、具体的企業名を言えることは重要だと思います。
本稿はあくまで私の「意見」であり、市場の考え方ではございません。私はかなりコンサバでリアリストです。成功している企業も、最初から利益モデルが見えていたりしたわけではないでしょうし、「経営者に張る」というVCは多いでしょうし、それはそれで良いと思います。
私が投資家だったらかなりのチキン投資家だと自分で思いますね。私の投資基準では、良い経営者である条件の中に、本稿で指摘した点を押さえられているか否かが含まれます。逆に言えば、本稿で指摘した材料を押さえた上でVCの交渉に臨むと、コンサバな相手でも交渉が円滑にいくかもしれませんので、ご参考までに。
「仕事としてVCをやらないんですか?」と聞かれますが、これらのファイナンスネタは完全なる趣味です。私自身、気が長くないのでVCは向かないでしょう。バイサイドのファンドマネージャーの方がまだ向くと思いますし、自分で実業をやりたい志向です。そして情報不足かもしれませんが、投資したいと思える案件があまりない。。。でも、儲かるようになったら100万円程度でエンジェル投資はしたいですね。
スタートアップが収益モデルを考える際に、我ながらこの記事は参考になるのではないかと思っています。
スタートアップ・ファイナンスのマーケット調査を終え、上場企業を中心としたビジネスモデル検証の記事を今後は徐々に展開していきます。