アーリーステージでの優先株の是非

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サロンで話題にしても珍しく誰からもコメントが入らなかったネタ。非常にセンシティブな話なのでしょうが、重要な話題なので突っ込みます。

一見ややこしく見え、アレルギー反応を起こす起業家もいるらしい優先株ですが、優先株が普及すること自体は悪いことではないと思います。優先株については磯崎さんの改訂版の起業のファイナンスの8章がわかりやすいので、起業家及び起業家予備軍は必読かと思います。

優先株には普通株にはない権利がいくつか付与されます。優先株の細かい説明は省き、今回は優先分配権のみを論点とします(厳密にいうと優先分配権付き優先株式の話)。優先分配権の詳しい話は、君は投資契約で、ドラッグを飲んだかい?という記事で触れていますのでこちらをご覧いただくこともお勧めします。

優先分配権が意味をなすのは、優先株での第三者割当時の企業価値以下ないしは割当時からさほど企業価値が上がらない場合でのEXIT(主にM&A時)となります。起業のファイナンスの例と全く同じ例を記載します。

前提:Post20億の企業価値に対して投資家が4億円を出資し20%保有

①普通株で出資:投資時点から企業価値が変動しない場合

EXIT時時価総額:20億円
創業者回収分  :16億円
投資家回収分  :4億円

②普通株で出資:投資時点から企業価値が半減した場合

EXIT時時価総額:10億円
創業者回収分  :8億円
投資家回収分  :2億円(2億円のロス)

③優先株で出資:投資時点から企業価値が半減した場合

EXIT時時価総額:10億円
創業者回収分  :6億円
投資家回収分  :4億円(投資簿価は回収)

④優先株で出資:投資時点から企業価値が1/4となった場合

EXIT時時価総額:5億円
創業者回収分  :1億円
投資家回収分  :4億円(投資簿価は回収)

⑤1倍参加型優先株で出資:投資時点から企業価値が変動しない場合

EXIT時時価総額:20億円
創業者回収分  :12.8億円
投資家回収分  :7.2億円(投資簿価4億+残り16億の20%を回収)

ざっくりいうと優先株はさほど高くない企業価値でEXITする際に投資家創業者共に損をしない設計を作ることができると言えます。④のような投資時からよほどのダウンラウンドにならないと、創業者が損をすることはありません(厳密にいうと④の場合では資本金が100万円程度であれば起業家は4.99億のリターンを得るといえます)。

昨今の国内の投資環境では優先株を利用するケースも増えてきていると耳にします。とはいえ優先株は基本的に投資家を保護する考えのもので、起業家に有利なことはほとんどありません。優先株を受け容れる代わりに、実力値以上の投資後時価総額を投資家が受け容れるなど、複数のパラメーターの上に資金調達の条件が設定されます。(時価総額が多少上がっても、投資家は優先株でリスクヘッジしていればM&Aなどの売却で簿価ないしは利益を確保できるため)

優先株

なのでシリーズA以降の大型資金調達で優先株で資金調達することは国内でも普通になってきている気がします。前置きが長くなりましたが、本稿での最大の論点は「アーリーステージでの優先株の是非」です。アーリーステージとは1億円に満たない5,000万円前後の資金調達ラウンドを指すと今回は定義します。上記の20億の時価総額で4億調達と同じケーススタディーをアーリーステージに当てはめてみましょう。

前提:Post2.5億の企業価値に対し投資家が0.5億円を出資し20%保有

①普通株で出資:投資時点から企業価値が変動しない場合

EXIT時時価総額:2.5億円
創業者回収分  :2億円
投資家回収分  :0.5億円

②普通株で出資:投資時点から企業価値が半減した場合

EXIT時時価総額:1.25億円
創業者回収分  :1億円
投資家回収分  :0.25億円(0.25億円のロス)

③優先株で出資:投資時点から企業価値が半減した場合

EXIT時時価総額:1.25億円
創業者回収分  :0.75億円
投資家回収分  :0.5億円(投資簿価は回収)

④優先株で出資:投資時点から企業価値が1/4となった場合

EXIT時時価総額:0.625億円
創業者回収分  :0,125億円
投資家回収分  :0.5億円(投資簿価は回収)

⑤1倍参加型優先株で出資:投資時点から企業価値が変動しない場合

EXIT時時価総額:2.5億円
創業者回収分  :1.6億円
投資家回収分  :0.9億円(投資簿価0.5億+残り2億の20%を回収)

最初の時価総額20億の時のケースと同様ですが、②以外では投資家は損しないですね。優先株を使えばM&Aがあればほぼ損しない。

シリーズA以降とアーリーステージではどう意味合いが違ってくるのか。一つ想定されるのは、アーリーステージで優先株が入っているとシリーズA以降の投資家も優先株を主張してきてそれを受け容れた際に、ダウンラウンドでEXITとなった時に創業者にほとんど手元に残らない可能性が高まる。それは切ないんじゃないかなと。

5,000万円程度のアーリーステージの時価総額の2015年1月時点の国内相場は本誌の感覚値では1.5億〜5億円くらいです。投資後時価総額5億円で5,000万円出資の優先株で10%取得。これであれば投資家側もそれなりにリスクを負ったといえるでしょう。

しかし、投資後時価総額2.5億円で5,000万円出資の優先株で20%。これはだいぶ創業者側が切ない契約条件に思えます。

アーリーステージの起業家が優先株を受け容れても良い条件はこの辺りかと本誌では推定します。

①:普通株での出資より高めの時価総額を受け容れてもらうこと
②:投資家に相当力がありハンズオンないしはEXIT支援が手厚いこと

本誌が把握している限りでは、優先株を用いてくるところはトップティアVCに多いです。トップティアVCは②の条件を満たすため、①の条件を満たさなくても(普通株と同程度の時価総額だとしても)起業家が受け容れる場合が多そうです。

こういった投資条件は交渉の世界です。投資家がいくら優先株は普通のことなんだよとか優先株の方が創業者と投資家の分け前がフェアじゃん的な主張をしてきますが、明らかに投資家有利の契約であることに違いはありません。投資家かて人の資金を預かって運用しているので、交渉ごと一つでリスクヘッジできるのであればなりふり構わずリスクヘッジするでしょう。

優先株を許容してもそれだけの価値があるVCと見るのか、他に資金調達の宛がないから優先株を甘んじて受け容れるのか、それとも普通株で投資してくれるVCを探すのか。この辺の株式の種類交渉は投資委員会が通った後に具体的な交渉に入ることもあるでしょう。その際には投資委員会が通ったから、まあいっかと受け容れがちです。その気持ちもわかります。長かった資金調達・・・優先株を受け容れれば終わり。まあいっか、と。

本誌としてはアーリーステージでの優先株出資は、創業者が納得いく時価総額となっているか、ないしは相当ハンズオンの力が強い投資家からでないとお勧めしません。ハンズオン力の弱そうなVCから優先株で資金調達する起業家がいたら止めたいです。

相対的に魅力的なVCは優先株でも通るし、魅力的な投資案件であれば普通株でも入れたがるVCは多い。結局はどちらの交渉力が強いかという問題かとは思いますが、アーリーステージでの優先株、読者の皆さんはどうお考えになるでしょうか。ご意見、お待ちしております。未上場市場相場観をお届け致しました。

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