3月はIPOが多い季節。3月IPO承認の発表が増えゆく今日この頃でしたが、なんとネット系の2018年初IPOは、大穴も大穴の、アジャイルメディア・ネットワークでした。(以下、アジャイルと表記)
発表は2月21日水曜でしたが、今記事を書いているのは2月24日0時を回ったあたりで、これほどまでにインターネット業界で話題にならないIPOがあるのか!じわじわと感じています。すららネットの方が、まだ多少話題を見かけたなレベルです。
ネット系のIPOはそれなりの案件であれば、昨今はウメキワークスの月額マガジンで紹介していますが、その価値はないというのと、「このIPOに価値はあるのか」という論点を世に提示したく、IPOネタですが久々にTheStartupに投下してみました。
ブロガーネットワーク事業に2018年現在で将来性感じる?
事業内容ですが、えっと…「アンバサダープラットフォーム」という、ブロガーをネットワークして、広告記事を書かせる事業です。
今は2018年なのですが、私が記載を間違えたわけではありません。
ブロガーをネットワークして、広告記事を書かせる事業です。
インスタグラマーをネットワークしているわけでは、ありません。
内容的には2006年くらいの内容で、2006年にはドリコムがブログで上場しましたし、ソーシャルマーケティングとやらで2013年にはアライドアーキテクツが上場しています。
アジャイルのこのタイミングでの上場というのは、2016年のはてなの上場に?並の、いや、それ以上の?さです。悪い意味で、業界関係者は度肝を抜かれた人が多いでしょう。
事業領域として、2週くらい周回遅れの事業です。まだ、インスタグラマーのネットワークなら、かろうじて理解できますよ?
でも今は、2006年ではなく2018年です。干支を間違ったのではないだろうか。。あ、でもアジャイルの創業は2007年だそうです。
これからブログの時代が来るのでしょうか。国内最大手と思われるアメブロも下火でしょうし、ライブドアブログが来る!とかの時代なのでしょうか。
参考までに、はてな株の推移は下記の通りです。
ブロガーネットワーク事業、儲かるんですかね
1の部から拝借しました。まず昨年のPLでは営業利益0.66億です。過去データは今回貼りませんでしたが、2015年売上4.98億、2016年売上5.54億と、辛うじて伸びてはいます。
すごい雑な推計ですが、売上をアンバサダー企業プログラム導入数で割ってみるとこんな感じです。
企業数は増えていて、単価は下がっています。アンバサダープログラムに、企業は年間1,100万円もかけてるんですね。企業HPみると、カプコンとかコーセーとかが載ってます。
本誌をご覧の皆様なら誰しもが気づく通り、2018年ですから、ブロガーではなく、インスタグラマーやYouTuberに金が流れていく時代です。
いや待てよ。アンバサダーということで、インスタグラマーやYouTuberも含まれるかもしれない…!と思いましたが、1の部を検索しても、インスタグラムへの言及はありませんでした。下記のような内容も1の部には記載があります。
厳しい環境の中で様々な課題に対処していくことが必要であると認識。
いや、ブログでアンバサダーに特価という戦略がそもそも時代遅れで、課題を認識していなくないですか?ズレていませんか?と感じたのは、私だけでしょうか。
ググってもブログ市場規模は、かなり昔のデータしか出てきませんでしたが、はてなの決算を見ると、UB(ユニークブラウザ)は伸びているということで、ひょっとするとまだ成長産業なのかもしれません。レイトマジョリティに行き渡る頃合い、なのでしょうか。
ひょっとすると、私には見えていない世界があるのかもしれない。
しかし、インターネット業界に8年くらい身を置いている私の感覚では、ピークアウトした市場に思えてなりません。しかし、アジャイルの売上と利益は一応伸びているのですね。
ちなみに最近、twitterでインフルエンサーマーケティングの実数値(フォロワー数これくらいで、クリックこれくらいだった)が効果低いと話題になっていた画像?か何かを見かけました。
ブロガーマーケティングのみならず、インフルエンサーマーケティング自体、かなりの水物であり、効果があるのか疑わしい側面があるかと思います。
想定公募時時価総額17.3億、適用PER18倍
<想定価格・業績>
公開日発行済株式総数:654,000株
想定公募価格:2,640円
想定公募時時価総額:17.3億円
公募株式数:70,000株
発行体調達額:1.85億円
2018年通期会社予想当期利益:0.97億円
2018年通期会社予想適用PER:18倍
主幹事証券会社:みずほ
監査法人:トーマツ
今期予測も出した上での、数字周りです。想定価格は変動する可能性もあるので、なんとも言えませんが、想定公募時時価総額17.3億は、2013年以降ウメキワークスでカバーしたネット銘柄の中では、ホープの18.8億を下回る、最低の規模です。
今期予測でもPER18倍というのは、個人的にはみずほ証券は適切な仕事をしたと思います。アドテクでもなんでもないただのブロガーの人力ネットワークなので、高いPERを正当化する理由は一つもありません。
誰のための上場後か?VCのEXIT目的に他ならない
本誌をご覧の皆さんであれば、この規模でこんな成長性がなさそうな市場の事業で、なぜIPOするのか疑問に思うでしょう。株主構成を見れば、納得いくはずです。
モバイルインターネットキャピタルが3つのファンドで合計40%近く持っています。
土日は謄本取得できないので、過去情報から拾いますが、2012年にNTTから1.2億の増資をしていて、9.75%の持分となっています。ざっくりこの時のポストバリュエーションは13億くらいでしょうか。
2009年にはアントキャピタル(現リードキャピタル)から2億の調達。リードキャピタルから、MICが譲渡しているのが、1の部に記載されています。ざっくりまとめておきましょう。
2016/3/31
リード→MIC:ざっくり0.8億
2017/1/16
リード→電通デジタル、インテージ、マイナビ:1社0.385億で1.16億
おお、リードキャピタルはほぼ簿価を回収しているw リードキャピタルは、アントリードグローバルファンドが2008年設立などあり、満期近くて簿価でも回収したかったのでしょうね。
古すぎる資本政策は1の部での記載が省略されてしまうので、類推になってしまいますが、持ち株数的にMICが元々リード・インベスターで(A種で入れてた?)、B種のリードキャピタルの株を譲渡したと見るのが妥当です。しかし、B種の普通株転換の記載はあっても、A種の記載はなく、かなり前に普通株に転換済みなのか。
とりあえず、MICのシェアが圧倒的です。これは私の推測にすぎませんが、このピークアウトした事業内容では、どこもM&Aで買い手が現れなかったのではないでしょうか。
そして、投資契約書に上場できそうな利益規模の場合は上場努力義務があります、的な記載があったのではないか。利益は一応出ているので、上場はできなくはない。1.5倍でロックアップ外れるし、上場させておけば、簿価は回収できるだろいう感じではないでしょうか。
ちなみに他に公募時の時価総額規模が低かったのはレアジョブ22億、すららネット24.5億などがあります。18億のホープと合わせると、すららネットとホープはGCP比率が高く、レアジョブも様々なファンドが入っていました。
小粒IPOはやはり、VCのEXITのためのものを見られても、仕方ないと思います。すららネットは2017年12月上場のためデータ少ないのでなんとも言えませんが、ホープやレアジョブの価格推移を見ると、厳しそうですよね。
アジャイルは悪くない!むしろ、被害者だ!
もはやこの状況を鑑みると、アジャイルはむしろ被害者なのではないかと思います。ファンドの利確のために、大した伸びない事業で上場しなければならないなんて。
そりゃ「厳しい環境の中で頑張らねばあかんことは認識している」とか、1の部に記載したくなる気持ちもわかります。
ここまでドナドナ感のあるIPOは初めて見ましたね。
おめでとうと言えるのは、MICに対してくらいで、いくら2018年のネット株初ものとはいえ、察するものがございます。
この事業内容と市場のトレンド感では、ホープやすららネットと共に、マザーズの底に沈みゆくことが予想されますし、既に想定公募時時価総額はそれらの企業以下の予想となっています。
小粒IPO論争なるものがありますが、大抵の場合はポジショントークです。VCによる「小粒IPOは良いと思う」と言うのは、彼らの食い扶持ですから、否定できるわけがないのです。
いやしかし、ここまで背筋が凍るゾッとする「誰が幸せなんだろうか」というIPOは滅多にお目にかからなそうですね。
売上と利益は伸びてはいるわけです。私に変なバイアスがかかっているだけかもしれません。
しかし、想定公募時時価総額「17.3億」という数字は、私の感覚が決して大きくずれてはいないという客観的な数字に思えます。
読者の皆さん、こういった案件は上場すべきだと思いますか?
東証も、証券会社も、監査法人も、上場会社が増えた方が彼らの仕事になり、利益になるわけで、上場を止めるメリットはさほどないわけです。
ガッツリ下方修正出されたら困るとかはありますが、売上も利益も伸びてるなら、まあ特に止めるメリットはないですよね、手数料入るんで。
上場した後は、せいぜいやらかさないように、大人しくしててくれという感じでしょうか。
アジャイルは売上と利益はたしかに伸びていますが、上場価値がある企業かは疑わしいと私は感じました。
価値があるかないかは、市場が決めることなのでしょうが、ここ4年ほどで60社強のネット銘柄のIPOを見てきて、これほど上場の意義を感じない案件はありませんでした。
売上や利益が伸びていれば、それで問題はないのか。
仮にしょぼそうな市場であっても。
論点としては、様々な意見がありそうだなと感じます。
普段、IPO分析はウメキワークスでやっておりますので、ご興味ある方はこちらをどうぞ。