スクエアのような巨大IPOの後にはメディアが「このIPOはうまくいった」とか「このIPOは史上最悪だ」とか薄っぺらい所感を論じることが多々ある。
「IPOの成功」とは立場によって見方がかなり異なるのではないかと思われる。各立場の最大公約数を以ってして「成功」といっているのか、単に公募価格割れただけで「失敗」と見なされてしまうのか。様々な立場から「IPOの成功」を考えてみたいので、ぜひ本誌の「様々な立場」の読者にはご意見を賜りたい。
◼︎1:発行体の場合
まずは発行体の立場を。発行体にとって上場は「資金調達の手段の一つ」であり、より多くの資金調達をしたいと考えるのは当然である。よって公募価格を吊り上げて、より多くの資金を市場から調達することが、発行体としての「IPOの成功」といえる。
極端な話ではあるが、上場後に公募価格を割ろうが、公募価格に売出株数を掛けた調達額に変わりはなく、公募価格を安く押さえ込まれるより、いかに高い公募価格で多額の資金調達ができるかが最大の論点といえる(違ったらすいません・・)
近年のネット銘柄のIPOを見ても「経営力が高そうな経営者」が率いるIPOの公募価格は比較的高い。これは対証券会社に対して高い交渉力を有するが故に、それなりの公募価格を認めさせているといえる。一方のSBIが主幹事的な小粒IPOの場合は公募価格はさほど高くはなく、経営陣の証券会社に対する交渉力の低さが垣間見える。
◼︎2:既存株主の場合
既存株主においてはシードステージなのかレイターステージなのかでも大きく考え方が異なるであろう。シードステージの株主は公募時点ですでにそれなりのリターンとなっており、一定数を公募で売り出す場合もあります。レイターステージの株主の場合、公募で売り出してしまうと(ラストラウンドからIPOが日が短いとロックアップかかってる場合もあります)1.5倍程度にしかならないこともあるので、初値でバブったところで売り切るか、中長期的に保有して株価が上がってきたところで売るかなど、売却戦略も多種多様です。サイバーエージェントはmixi株を一気に売るのではなくちまちまと売っていたのは有名な話です。
既存株主はIPOにおいては初値で売るのか中長期保有なのかという戦略スタンスを明確にした上で、初値がかなり高騰してそこで売り切れれば「IPO成功」とみなす場合もあれば、ロックアップで上場から半年以内は売れず、初値はバブったものの、ロックアップが外れた頃には公募価格どころか投資簿価も割っており、そこで売るという判断をすれば「IPO失敗」と考える場合もあるでしょう。
◼︎3:新規株主の場合
IPOから参加する株主です。公募で割り当てられた株主にとっては、初値が公募価格を割って、そこで売ってしまうと損なので、わかりやすいIPO成功の定義としては「公募価格を割らないこと」でしょうか。個人投資家が数十万円分買って、IPOで公募価格の2倍程度になって売る。という投資行動が多いでしょうから、個人投資家にとっては公募価格を割らないことは重要かと。
一方でIPO後に初値とかで買う株主にとっては、その後の推移が成功か否かの定義です。公募割れした銘柄を初値で買って、その後結構上がって売却すれば、「IPO直後に買って良かった」となるのではと。
◼︎4:証券会社の場合
証券会社にとってIPOの成功とは、まず主幹事を獲得して販売手数料を受け取れるか否かが大きいかと。証券会社は自社の顧客にIPO銘柄を販売するわけで、顧客に損をさせるわけにはいきません。一般的には個人投資家にとってプラチナチケットといわれるIPO株で、公募価格割れで顧客に損をさせることは失態といえるでしょう。よって、証券会社の観点でも公募価格割れは許しがたい事態ですね。
◼︎5:発行体の社員の場合
IPOで発行体が利益を得るのは「自社の成長資金として10億前後を市場から調達する」のと、創業者利益として公募時に創業者及び取締役が持分の数%を売って利益確定させ、何億円(もしくは何十億円)かキャッシュインするというもの。現場社員はストックオプションを付与されており、上場から1-2年後にストックオプションの権利を行使して現金化する人も出てきます。
そうした社員にとっては、ストックオプションを行使する時期の株価が大事であり、例えば上場時の株価が高くてもストックオプション行使時の株価が低いと切ない。実際にいつ売ったかは定かではないのであくまで事例として使いますが、トレンダーズ株をはあちゅうがストックオプションで持っていたと仮定します。
2012.10トレンダーズ上場時株価:4,000円
当時言われていたはあちゅうの持分総額:5,000万円
2014.10トレンダーズ株価:700円
2014.10にはあちゅうが全株売却したと仮定:877万円
上場時の保有資産は5,000万でも売却時に1/5以下に。
社員にとってはストックオプションを行使できるタイミングまでその企業で働き続けるか?という問題もあり、行使タイミングまで待てなければ、SOPは単なる紙屑です。なので、SOPを行使できなかった社員の立場では「IPO成功」とは言えないでしょう。
トレンダーズIPO時のはあちゅうの持分だけを見て「はあちゅう金持ちだなおごってもらおう」とか思う奴はアホです。利確のタイミングがいつで、どれくらいのキャッシュインなのかは、上場時には「売出し」でしかわからないはずですから。
以上です。本稿ではあくまで「IPO時点での」成功を主に考えてみました(社員の立場ではSOP行使タイミングなど時間軸もありましたが)。
長い時間軸で見ると、IPOからかなり株価が上がることもあり、そういった銘柄こそがIPOした意味があった銘柄と言えます。たとえば、コロプラはIPO時の株価は333円で、2014年8月には4,446円付けており、10倍以上に上がっています。
一方で初値が上場来最高値として3年くらい一度も更新できない企業は「上場ゴール」と言われても致し方ないでしょう。公募時に高い期待値を形成しておいて、蓋を開けてみると全然ダメだったという。
利害関係者が複数いるIPOにおいては、結局中長期で見たときに、より多くの人が得できたか否かで「IPO成功」が語られるべきかなと思います。上場ゴール銘柄は発行体と創業者(と短期的には証券会社)が得できただけですし、IPO後に株価が順当に上がっていけば、公募で買った株主も、初値で買った株主も、みんなその後に売ればリターンを享受できます。
なので本来的には初値だけを見て「IPO成功」とはいえないと思うんですけどね。