IPOをめぐる会計基準の解釈の相違

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B Dash Campのセッションレポート…ではないのですが、札幌の「空気」を東京の皆様にも共有したく、お届けいたします。秋元康さんも、新潟の「空気」を売っておられたじゃないですか。

スタートアップと会計、特にIPOと会計は切っても切り離せない話です。上場後1年以内のインターネット企業の不祥事としては、みんなのウェディングの売上架空計上や、AppBankの経理横領問題などがありました。

上場承認が降りたにも関わらず、上場申請を取り消した例としては、2015年8月に本誌でもお届けしたリッチメディアの架空取引疑惑がありました。当時は「延期」とありましたが、1年以上経った今、特に上場観測は聞こえてはきません。

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マザーズのインターネット企業銘柄のなかで有名監査法人から名もない監査法人に最近変更になった企業もあるようです。これは一般論としては何かあるのではないかと疑われてもおかしくありません。オークファンは10月17日から18日にかけて連続ストップ安になりそうなほど株価を下げています。

そんな中、本誌とも歴史的に非常に馴染みあるスタートアップが上場直前期と申請期の2度会計基準を変更したようだという話を耳にしました。結果的には予算未達で上場延期になったようですが、この「会計基準の変更」というのはなかなか興味深い論点のようです。決算書を見たわけではないので詳細はわかりかねますが、下記のようなことが考えられます。

上場直前は一般的に売上を伸ばし「伸びてますよ」というアピールが必要になる。成長率を鑑みて、証券会社もvaluationするためでしょう。gumiショック以後、上場審査における予実管理は厳格化され、予算未達は許されないようです。

そこで売上の計上の仕方として「架空計上」はさすがにまずいわけですが、例えば年間で受注したものを当月に計上するか年間で割ったものを月次で計上するのか。これに関しては会計上、解釈の余地があるようなのです。明確に年間契約の商品しか売っていない企業であれば、当月計上で良いかもしれませんが、そうじゃない企業が予算達成のために特定の取引だけ当月計上する。これは限りなく黒に近いグレーな気がしなくもありません。

そこまでして予算を達成したい経営者の心理は理解できなくはありません。株主、従業員などさまざまなステークホルダーからのプレッシャーを受け、なんとか早く上場したい。明確に黒じゃなければ、やってもいいのではないか…。しかし、その積み重ねがいつか大きな粉飾を引き起こしてしまうのかもしれません。

この本誌と歴史的に馴染みのある企業の会計解釈の問題は、他社も巻き込んでスタートアップ業界のトップレイヤーの間では酒のつまみになっているようです。その企業のみならず、その企業のリード・キャピタリストが会計解釈問題をかばうため、業界内では彼にも厳しい視線が向けられつつあるようです。

あくまで「解釈の余地」がある会計問題のようなので、難しいところですが、会計は「解釈の余地なく白か黒」で判断がつくものがほとんどかと思います。なので「解釈の余地がある」もので自社に都合の良い解釈をするのではなく、そこは厳しく自社に都合の悪い解釈をした上で、監査に臨むのが高潔な企業の在り方ではないでしょうか。

これがIPO目前じゃなければ、都合の悪い解釈ができたかもしれない。都合の良い解釈で予算を達成すれば、IPOできる。そういう瀬戸際の意思決定で、負けてしまう(当該企業にとってそうした事実があるという話ではなくあくまで仮定の話)のは理解はできます。

2016年は年初予想よりインターネット企業のIPOが少ないですが、師走のIPOラッシュに向けた上場承認祭りがそろそろ始まる季節です。1つの企業の粗相により、他のインターネット企業のIPOにまで確実に迷惑がかかります。自社のことだけ良ければ良いではなく、業界全体の健全な発展を願いたいものです。私も大人なことを書くようになってしまったものですな…。20代の頃のような切れ味を失いつつあります。

会計問題は大きくなるとエンロンや東芝のようになってしまいますからね。冬の訪れを感じる札幌ですが、会計問題がスタートアップの冬の到来の引き金にならないことを祈りたいものです。

以上、札幌の「清々しい空気」をお届けいたしました。



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