本誌では以前IPO情報を扱っていましたが、最近は個別銘柄に関してはウメキワークスでお届けしています。
IPO準備を実務として担当する方は実務書を読んだり、証券会社や監査法人の方は会社で学ぶこともあるかと思いますが、それ以外の一般人はIPOの細かい点を知らないというのが実態ではないでしょうか。
せいぜい公募株を手に入れれば、初値が何倍かになってそこで売れれば儲かるという、「楽して儲かる宝くじ商材」的な理解が、栽培マンの大多数だと思います。
公募株を手に入れるのは当選倍率がとか、コネがないととかありますが、上場後は誰にでも開かれた平等なマーケットなわけで、銘柄によっては初値付近で買ってもその後何倍何十倍になっている場合もあります。もちろん、初値をピークとした上場ゴール銘柄もありますが。
下記の「IPO投資の基本と儲け方ズバリ!」はIPOに関して大局的な話が網羅されており、個人としてIPO株を買う場合にも、本誌の主要読者であるIPOを目指す起業家がエクイティストーリーを設計するための手引きとしても役立つ有用な書だと感じましたので、ご紹介します。
筆者は「IPOジャパン」の編集長ということで、IPOマーケットに精通しているお方ですね。私はいつも「東京IPO」を読んでいたので、正直「IPOジャパン」は存じ上げませんでした…w
学びになった点を、いくつかご紹介。
IPO初値のロジック:マクロとミクロの需給
歴戦の起業家や投資家にとっては既知の内容かと思いますが、本稿では栽培マン向けにお届けします。
大局的:IPO銘柄に向かう個人投資家の資金量
個別銘柄:売出し株式数による需給
考えてみれば分かる話ですが、大局的な話は、言われてみて、そうだな。と感じました。
時価総額1,000億未満の銘柄は機関投資家から「小型株」という扱いを受けるため、ほとんどのIPOでは個人投資家が買い手となります。
個人投資家がIPO株を買いたいという意欲というか資金量が例えば1,000億円分とか一定量あり(多少のボラティリティーはあれども)、IPO件数が一定期間に集中してしまうと、その資金が複数銘柄に分散されてしまう。逆に、2,3ヶ月IPOがなく久々のIPOとなると、待ってましたと言わんばかりにその銘柄に買いが集中する。
久々のIPOになると、初値が高騰しやすいというデータがあり、こういった個人投資家の動きが背景にあります。
続いて個別銘柄に関しては、これは理解しやすいと思いますが需給で価格が決まるため、売出し株数が少ないと高値となりやすい。VC比率が低いとか、発行体による公募売出しが少ないとか。昨今でいうとウォンテッドリーはこれに該当する案件です。
IPO「後」をどう見るか:成長株の条件
公募と初値の乖離がどれくらいなのかは、公募株を手にしていない一般投資家にも重要です。公募に対して初値が大して上がっていなければ、初値で買っても上昇のチャンスが見込めます。
IPOは公募時には「IPOディスカウント」が東証の場合は10%程度、マザーズの場合は20%程度適用されるとあり、マザーズ銘柄で公募3,000円の株の場合、3,000円÷0.8=3,750円となり、利益成長率期待値50%(本書ではこれを「IPOプレミアム」と呼ぶ)とすると、3,750円×1.5=5,625円、これくらいが高値メドとなります。
この範囲内に初値が収まっていれば、理論的には初値で買ってもまだアップサイドが見込めるので、初値からの上昇で利益が出ると期待できる。
初値が高いとそれはそれで、しばらくはその勢いのまま買われ続けることが本書によると多いようで、短期的(1ヶ月未満)には初値で買っても数倍で売り抜けるチャンスはあります。
IPO後3〜6ヶ月はボラティリティーが激しく、買うタイミング次第で儲けられると思いますが、一般論的には6ヶ月後あたりは初値からだいぶ下がり、公募価格レベルか公募価格割れを起こす銘柄もあります。
そこからは株価形成におけるファンダメンタルバリューの比率が上がり、業績が良い企業は株価を再び上昇基調に乗せていきます。ここで本書にあった「成長株の長期投資手法」を下記に紹介。
1:業績予想の上方修正が連続して出る
2:外国人投資家の名前が株主名簿に出てくる
3:外国人投資家の持ち分が増加する
特に2と3に関しては時価総額数百億円前半の銘柄では難しく、数百億円後半の銘柄となるでしょう。個別銘柄のスクショは本稿では記載しないが、時価総額1,000億円に乗ってきた後の株価の伸び率は、数百億円台の時の伸び率よりも高いらしく、より早いスピードでの株価上昇が見込めるようですね。ライザップなど、いくつかがその事例として紹介されていました。
1の業績予想に関しては最近様々な決算とその後の株価の動きを見ていて思うところがある。決して悪い決算ではないのに、営業利益が予想より5%程度ビハインドしただけで、株価が10-20%落ちる銘柄があります。業績予想を上回っても、株価が落ちることもあります。それまでの期待値が高すぎたことの裏返しで、高い株価を形成した材料が出尽くしてしまったということでしょう。
業績予想の出し方が保守的で、常に業績予想を上回る結果を出す方が株主の信頼を得られ、株価が安定しやすいという記載がありました。
2017年ネットIPO銘柄17社の推移
まだ振り返りは早いかもですが、2017年のネット関連IPO銘柄17社に関する推移です。(レノバはネットじゃないけどおまけ)ウメキワークスではIPOデータから公募のバリュエーションの妥当性や、PLなどから事業の成長性についてコメントしています。ちなみに本書は2016年IPO銘柄を様々な角度からデータ分析していますが、2017年銘柄の扱いはあまりありません。
「バリュエーションの妥当性」を私が説く必要があるのか?と感じますが、マザーズ銘柄の場合、政治的なバリュエーションがなきにしもあらずで、メタップスとかはそういう香りを感じましたね。(不当に高いバリュエーションだったと今でも感じます)
銘柄/時価総額:億円 | 公募 | 初値 | 最高値 | 11/17 | 梅木 |
マネーフォワード | 283 | 548 | 625 | 568 | ◯ |
PKSHA Technology | 318 | 727 | 1,924 | 1,292 | ◯ |
Wantedly | 45 | 229 | 395 | 298 | ◯ |
uuum | 123 | 402 | 408 | 316 | △ |
ソウルドアウト | 100 | 196 | 297 | 205 | NA |
GameWith | 154 | 370 | 391 | 260 | ◯ |
Fringe81 | 62 | 145 | 157 | 92 | × |
旅工房 | 30 | 84 | 130 | 44 | NA |
テモナ | 30 | 102 | 128 | 72 | NA |
ネットマーケティング | 68 | 105 | 113 | 94 | × |
ユーザーローカル | 103 | 452 | 509 | 195 | ◯ |
オロ | 77 | 190 | 192 | 145 | × |
マクロミル | 781 | 719 | 1,334 | 1,092 | ◯ |
うるる | 86 | 101 | 170 | 100 | △ |
ほぼ日 | 51 | 120 | 143 | 139 | △ |
ロコンド | 85 | 135 | 144 | 104 | △ |
レノバ | 136 | 204 | 417 | 219 | NA |
「梅木」欄では、TSやウメキワークスでIPO時どのような判断をしていたかを記載しています。例えば、マクロミルに関しては「時価総額1,000億突破は十分可能」とあり、2017/3の上場から8ヶ月程度の現在、1,000億台を維持しています。
17社中4社はカバーしておらずNAとしています。3社は事業の成長性が厳しいと当時記載し「×」に。結果的にこの3社は全て綺麗に直近株価が初値を割っています。初値→最高値の乖離率も低く、上場ゴール「気味」といえなくもありません。
なお、公募株価を直近株価が割っている銘柄は1つもありません。上場ゴールの定義とは何でしょうか。確認しておきましょう。
最悪のパターン:公募価格を一度も上回らない
微妙なパターン:初値を一度も上回らない
そんなところでしょうか。マネーフォワードなどの9月上場組3社はまだ上場から2ヶ月経っていない銘柄もあるので、まだ株価が完全に落ち着いたとはいえませんが、初値を現在株価が上回っているのは7/17社です。
上記のデータからサクッと言えそうなことをまとめましょう。
・7社は初値で買って今現在(2018/11/17)売っても一応利益が出るが、初値比1.3倍は3社のみ
・公募時時価総額100億未満の銘柄は9つあり、直近時価総額でも4社は二桁億円、4社は100億台前半と、伸びがほぼない。ウォンテッドリーのみが例外となっている
・公募時時価総額100億未満で梅木判定「×△」のものは成長性が低く、それが直近株価と連動している(時間が経つとファンダメンタルバリューに収斂される)と思われる
IPO銘柄は初値後でも短期的には需給バランスなどの読みから、利益を上げられる機会はあるが、中長期的にはファンダメンタルバリューに株価が収斂されていくと、サンプル数がさほど多くはないものの、理論的な話に対して、データで体感できる。
上記データに記載しませんでしたが、最安値で公募価格割れしたのはロコンドのみでした。公募→最高値率1位はウォンテッドリーで877%、2位はPKSHAで605%でした。
「IPOの良し悪し」は一概に定義できず、発行体と新規株主で異なるでしょうが、ウォンテッドリーに関しては既存株主、公募株主、IPO後のセカンダリーマーケットでの株主と、3つの株主にとっての満足度が定量的にかなり高いであろうという点で、ベストIPOといえます。売出し株式数が非常に少なく、需給バランス的に株価が上がりやすかったという背景もありますが。
発行体の調達額が少なすぎるという点では、発行体にとって良いIPOとは言えないと思うのですが、少なくとも株主にとっては良いIPOなのでしょう。
公募より高い初値が付き、初値を日々更新していく。初値ゴールに陥らないというのが、投資家から見た良いIPO銘柄の条件でしょう。
2017年はネット系でいうと、12月にイオレ、ジーニー、すららネットの3社の発表が既にありました。今週の発表で微増することが予想されますが、2017年銘柄では何社が来年以降も伸びを示してくれるでしょうか。データを見ると、時価総額二桁億円銘柄は燃えないゴミになる(ボラが低く害もなければ利益もない)確率が高いの法則は適用されそうですね。
最後はデータ紹介でしたが、IPOに関して特に投資家サイドの視点で大局観を掴みたい場合は非常のお勧めできる書です。