課金サービスは「事業資産」を溜め、「復活課金」トリガーを引く設計を

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課金系の記事は人気でして、よく読まれますね。読んでない方は下記の記事を読んだ上で本稿を読むと理解が深まるでしょう。

<参考記事>
B2B月額課金スタートアップ7社の予測月商
最低5年は粘れ!その先に果実が。月額課金12サービス数値比較

課金サービスについて、B2B、B2C限らず本稿では掘り下げて考えます。基本的に筆者は「課金 is King」な概念で、課金ビジネスが利益率を最大化できるネットビジネスの王道であると考えています。

課金サービスは大別すると「月額課金」「都度課金(従量課金)」といえ、後者で大きくスケールしているのはゲームや占いくらいでしょうか。都度課金は文字通りユーザーが都度課金の意思決定をする必要があり、ガーッと課金することもあり高いAPRUが見込めることもあります。一方で月額課金は退会しない限りは課金され続けます。本稿では月額課金に絞って論を進めていきます。

月額課金3つのパターンで「データ蓄積型」が最も優秀

月額課金のパターンをまず考えてみましょう。

①:データ蓄積型
②:コンテンツ消費型(セミクローズド型とクローズド型に分類)
③:コミュニケーション型

多分この3つかな。上から解説していきます。まずはデータ蓄積型。これが月額課金最強のモデルだと思っていて、データ蓄積型型を②と③に如何に適用してLTV(ライフタイムバリュー)を上げるかをもっと月額課金事業者は考えたほうが良いかと。

データ蓄積型はユーザーがそのサービスを用いてログを残していきます。データ蓄積型の代表的サービスが会計サービスであり、freeeやマネーフォワードのようなサービスです。これらのサービスはデータが溜まれば溜まるほどスイッチングコストが上がり、解約されにくいがゆえに、ライフタイムがすさまじく長くなり、結果的にLTVが最大化される。

freeeを例に取っても月額2,000円で5年使うと仮定すると、年間2.4万円の5年で1ユーザー当たりLTV12万円です。経営指標としては解約率に注視する必要がありますが、この手の会計系サービスは他と比較して解約率が相当低いというのが筆者の仮説です。

筆者は課金サービスではないですが、Money Treeを愛用していますが、いまからZaimを使えといわれてもスイッチングコストが高すぎて無理です。Money Treeって月次の資産推移のグラフとかも作ってくれる(というかスマホ横にするだけで出てくる)ので、便利なんですよ。

データ蓄積型は事業者視点で言い換えると「事業資産蓄積型」といえます。後述する「コンテンツ消費型」「コミュニケーション型」はいかにこの「事業資産蓄積型」の概念から、少しでもLTVを高める施策を入れられるかが大事かと思います。

コンテンツ消費型は、機能課金>>>アクセス課金か?

続いてはコンテンツ消費型です。ここは主にC向けのクックパッドや食べログやNewsPicksを指します。

コンテンツ消費型には「セミクローズド型とクローズド型」があります。クックパッドや食べログが「セミクローズド型」であり、スマホでランキングを見るには課金しないと見れない、課金したほうが検索が便利など、基本はコンテンツはフルオープンとし、機能で課金するモデルです。日本国内においてはCGMモデルはこのセミクローズド型課金が主流です(クックパッドが先陣を切っているだけにも見えますが)。

一方のクローズド型は課金しないとコンテンツ消費できない。言い換えると「アクセス権型」といえる。NewsPicksの有料記事であったり筆者が主催しているオンラインサロンもそうです。NewsPicksは無料オリジナル記事もある中で、課金しないと読めない記事がある。TheStartupは無料だけどオンラインサロンは有料など、捉え方次第ではセミクローズド型ともいえますが。

この手の「コンテンツ消費型」は課金し続ける理由が「機能が使えなくなることで不便さを感じるか否か」か「面白いかどうか」に大別されます。スマホでランキング見れないまじ苛つく!というのが食べログに課金する多くのユーザー心理であると思われます。NewsPicksとかも課金して読みたい記事がなければ課金更新をやめます。最近久々に課金しましたが、継続課金して読みたい記事がなかったので筆者は無料ユーザーに戻りました。同様にcakesの使い方も無料有料を行ったり来たりしています。

よって、継続率は食べログ型の「機能が使えないと困るぜ」という方が高く、単なるコンテンツ提供(課金すれば記事読めるよ)だと、コンテンツの魅力に課金価値が寄ってしまうため、仕組みで課金させることができない。

本稿はメディア論の記事ではないため詳細は割愛するが、コンテンツ消費型月額課金サービスにもデータ蓄積型の仕組みを取り入れて、「使えば使うほど便利になり、退会ハードルが上がる」施策を考えられないかと思う。アクセス権型は「アクセスしたいときに」課金すればよく、継続して月額課金する必要性が低かったりする。

そしてアクセス課金型は下手するとコピペされて転用されます。藤沢所長のメルマガも多くのユーザーに転送されているように、食べログやクックパッドのような機能課金型はコピペされにくいですが、単純にコンテンツ提供しているだけだと「キャプチャして送る」などで、無課金ユーザーのフリーライドを止める仕組みは今の所ありません。Umeki Salonでも、サロンメンバーではないGCP高宮氏がなぜかサロンの内容を知っていたりするのは、このロジックが働いているからであり、防ぎようがありません。

コミュニケーション型は「復活課金」があるのも特徴的

最後にコミュニケーション型。これはB2Bではトークノート(社内コミュニケーション)、B2CではPairsに代表されるオンラインデーティングが当てはまります。

B2Bでいうとコミュニケーションインフラの役割として、共有データをそこに蓄積していけばスイッチングコストが上がっていき、LTVが上がっていく。B2Cのオンラインデーティングでいうと、「メッセージを送る、開く」際に課金が必要となります。Pairs内のコンテンツを楽しむために課金する必要はなく、コミュニケーションが発生するときに課金されます。

コミュニケーションはLINEやFacebookなどにより無料文化が定着しているので、よほどの必要性がない限りは課金ハードルが高いはずです。そこで婚活中の男女という「よほどの必要性」がある人々へ向けたサービスがオンラインデーティングであり、課金の必要性が高いため、月額4,000円でも課金されます。ちなみに、B Dash CampのオンラインデーティングのセッションでOmiai宮本氏がこんな話をしていた。

当初は月額1,900円から始めました。その後、2,900円、3,900円へ値上げしてもユーザーの退会はほぼなく、入会率も変わらなかった。ただし、4,900円にしたら数字に変化があった(退会が増え新規獲得が鈍化したと予想される)

二度の値上げではあまり反応が変わらず、値上げ分の利益が上がったが、値上げしすぎるとダメだった。この辺の温度感は非常に参考になる。2015年の日本ではオンラインデーティングにおいては「4,000円くらい」がユーザーが月次に支払いたいと思える料金なのでしょう。

しかし、見知らぬ相手にコミュニケーションし続けるのは婚活という切羽詰まった状況でも結構疲れるらしい。ゆえに、3ヶ月くらい集中的にやりこんで、その後休眠会員化ないしは退会するユーザーが多いと筆者は推測する。

しかし、面白いのが一定期間をおいてまた月額課金するユーザーが多いとPairs赤坂氏が語っており、彼はそれを「復活課金」と呼んでいた。

復活

ユーザーサイクルを分析するに、Pairsで良い相手と知り合い、一度はPairsを使わなくなったものの、相手と別れたりなど上手くいかなったりして、再びPairs市場へ戻ってくるのではないか。そしてそういうユーザーボリュームは案外少なくないのかもしれない。婚活市場に長年漂う男女は少なくなそうだ。

復活課金トリガーを直接的に引くのはユーザーがまたお相手がいなくなり、「ぼっち」になってしまうという、サービス事業者からするとアンコントローラブルな要因だが、サービスの内部に復活課金トリガーを置くこともできるはずだ。たとえば、好みの女性のスペックを登録しておいて、それに合う相手の新規登録があればプッシュでメールがいくとか。ログイン回数が多いと上位表示されやすく、自分のプロフへの訪問者数が増えやすくなるとか。婚活もそこまでデータドリブンになるとだいぶ効率が上がると思うのだが。

オンラインデーティングは「どれだけマッチング出来るか」が肝であり、ユーザー数が多くアルゴリズム精度が高ければマッチングはしやすいが、ユーザーは最初のマッチング体験をどのサービスでしたかで、その後の利用意向が決まりやすいと思われる。よって、どのサービスであってもマッチングすればよくマッチング以外の利用価値はないわけだが、ユーザーが利用している期間のデータを事業資産に転換して、無課金期間でも事業資産を活かした提案ができるち復活課金に結びつくはずだ。

「事業資産を溜めて、無課金期間のユーザーにプッシュでのアプローチ」は、コンテンツアクセス課金型にも応用できそうである。

コミュニケーション型といえば、筆者が運営するサロンは「コンテンツアクセス課金型」と「コミュニケーション型」のハイブリッドであり、ごく稀にではあるが「復活課金ユーザー」もいる。本稿では詳細は割愛するが、3年以上の運営の肌感覚では、アクセス課金型よりもコミュニケーション型の方が価格弾力性が高いといえよう(上記のOmiaiの事例からも実証されており、アクセス権型で高額課金は実現しにくい)。オフラインイベントを含めてコミュニケーション濃度を高め、ユーザー満足度を上げることでライフタイムが伸びる。サロン事業の運営の肝はそこにある気がしてきた。

最後に蛇足までに「復活課金」の考えたとしては、スタートアップとVC、男女関係についても当てはまる。一度振られたとしても、折を見て再度アプローチし続ければ、望んだ結果を手にできることもあるだろう。シリーズAでは断られたがシリーズBの出資につながったとか、恋愛工学においては「フレンドシップ戦略」がそれに当たる。

サービス事業者も一度課金してくれたユーザーに対しては、退会されても「フレンドシップ戦略」を取ることで、復活課金の潜在可能性を上げておくことが重要なのではないか。

有料課金者数=(新規獲得課金者数+復活課金者数)− 退会者数

この簡単な方程式を忘れてはいけない。新規獲得は皆頑張るが、復活課金者への施策や退会抑止施策に力を入れているサービスは少ない気がする。



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