先日お送りしたネット上場企業時価総額の定点観測コーナーであるTheStartup40で紹介した中で、時価総額の伸びが著しかったネクストを分析します。ちなみに株価はここ半年で2倍以上に跳ねています。
2015年5月に2015年3月期決算発表があり、「投資フェーズから回収フェーズ」へのシフトを発表し、来期業績への期待感から取引高が増え、株価が上昇しています。ネクストの決算資料を見ながら、今後の同社の成長性について、読者の皆様と見識を深めたいと思います。最初に記事タイトルの「なぜ半年で2倍」のロジックを下記に。
☆ざっくりハイライト
①:既存事業は事業者への反響課金の値上げで増収増益を見込む
②:2014年10月に115億で買収したTrovitが連結になり売上35億営業利益12億程度が通期でアドオンされる
③:利益貢献は先だが、新規事業をLiFullブランドで仕込んでいる
④:海外の類似事業者と比べて株価が割安な水準にあったがゆえに
①と②でファンダメンタル向上が見受けられ期待が膨らんだ。④でテクニカル的に割安であることを証明。その掛け算で、株価が爆騰した。と本誌では予測します。
後述しますが、売上は国内不動産セグメントで前年比31億の増収、海外セグメントでTrovit連結効果により25億の増収を見込みます。
それでは、既存事業、M&A、新規事業、IRの4つの観点で、ネクストに迫っていきましょう。
注:文中のスライドは全てネクスト2015年3月期決算資料から抜粋
既存事業:楽天流の値上げと積極的PRで増収増益見込み
まず1枚目のスライドにより、HOME’Sのヘビーユーザーである事業者からの反響課金の料率を改定し、値上げました。HOME’Sは値上げのたびに増収増益してきた歴史があるらしく、値上げ時には不動産屋のチンピラ兄ちゃんがキレるらしいのですが、影響力ゆえかさほど解約率も高くなく、値上げは率直に増収増益に寄与しそうです。
2016年3月期には国内不動産業全体で30億の増収(増収率20%)、中でも主力である賃貸売買領域が28億の増収(増収率28%)を見込みます。SEOは強いですし、TVCMを中心とした広告宣伝も従来通り強化するんでしょうが、直接的な増収増益はこの値上げが確実に寄与するといえそうです。
このHOME’Sの値上げプレイは一部では「楽天流」とも呼ばれています。ネクストの大株主には楽天が保有率15.9%で入っており、楽天流は継承しているのでしょう。
M&A:115億でTrovit買収。営利率35%の優良企業だが?
ネクストへの期待値が上がっている背景に、2014年10月に買収したTrovitが年間で連結に組み込まれるため(2015年3月期は4Qのみ連結)、来季予測では海外事業の売上を35億を見込み、営業利益ベースでも10億程度のアドオンが見込まれます。
Trovitとは何者なのでしょうか。スペインに本拠地を置く、約40カ国でMAU4,700万を稼ぐ、不動産・中古車・求人・通販情報・貸別荘情報などのアグリゲーションサイトらしいです。
領域的にはCraigslistのようなクラシファイドサイトといえるかもしれません。ちなみにネクストはクラシファイドサイトを目指した「ロココム」を最近完全撤退したようです。オプトじゃなくてネクストがジモティを買収すればよかったのではないか。
TrovitはロングテールのSEOに強みがあるとのこと。たしかにクラシファイドサイトは扱うジャンルが膨大なため、納得です。2014年度は売上28.8億の営業利益10.1億で営業利益率35%。従業員数は94名。このモデル、営業マンが不要か少なくてよいので、少数精鋭で高粗利を叩き出せるビジネスモデルであり、単体で見ると優良企業です。
ネクストは115億で買収しました。2014年10月時点でのネクストの現預金は80億強であり、Trovitも合わせて年間のキャッシュ創出力は36億と見積もった中で、短期借入70億のリスクを取って買収です。クックパッドも海外買収に積極的ですが、ネクストのTrovit買収は相当な勇気ある決断といえます。
価格算定の根拠としては、買収価格115億をTrovitの当期利益6.5億円で割るとPER17倍程度でメディア企業のPERとしては妥当な気がしますが、大型M&Aとなるとそのロジックだけではないはずです。今後の成長性も見込み、5-10年で回収できる見込みがあると踏んでの判断なのでしょう。
たしかに現時点ではTrovitは優良企業といえますが「アグリゲーションサイト」というのが気になります。というのも、IndeedのようなアグリゲーションサイトはSEOロジック的に弱体化していくトレンドにあるという説があります。アグリゲーションサイトとは「他サイトのコンテンツをアグリゲーションしている」という意味合いがあり、同様のコンテンツが他のオリジナルサイトにあり、今後はそちらが評価され、アグリゲーションサイトの評価が落ちるという説があるのです。
これが真であるとするならば、アグリゲーションサイトは壊滅の危機を迎えます。SEO的に一度死んだサイトが再浮上するのは難しく、ネクストの買収額はそのリスクを織り込んでいないと本誌では判断し、「115億って、ちょっと高くね」と思います。筆者はSEO専門家ではないので断言しかねますが、構造的にダウントレンドにあるとはいえるのではないかと。
海外買収といえばGREEの100億単位の減損祭りもございますので、115億、ちょっと高値掴みじゃないかなと。Trovit社の経営陣にとっては、ダウントレンドな中、良いタイミングで売り抜けたといえるでしょう。
Trovit買収を発表した2014年10月には株価が少し落ちています。大型M&A発表の後のネット株の株価はたいてい微減している気がします。
新規事業:LiFullブランド群にスタートアップ売却先の活路
新規事業もきちんと仕込んでいます。人生を満たす、いわゆるリア充サービスを拡充していきたいようです。HOME’Sからの直接的な誘導のシナジーがあるとはあまり思えませんが「暮らしを支える」的な軸では一貫している。
これがLiFullブランドのサービスの一部ですが、FaMってTIMERSのFammと一緒じゃん!という。TIMERSを5億くらいで買収しておけば、Pairyもくっついてきたので良かったんじゃないですかね。価格が合わなかったかな。
Travelingの方は先日インバウンド市場の記事で「ここにチャンスがありそう」と見立てた市場に近い。アクティビティ予約ではなさそうですが、トラベラーとローカルのコミュニケーション自体には需要がありそうです。
Trovit買収で借入の返済もあるので厳しいかもしれませんが、LiFullブランド群に入りそうなスタートアップを一桁億円後半で買っていくプレイはやっても良さそうだと思います。スタートアップの皆さんはネクストからの買収が活性化することを祈りましょうw
個人的にはこの新規事業領域が当たるようにはあまり思えず、リスクとってでもTrovitを大型買収した方が評価できるポイントかと思います。
巧みすぎるIR:海外の類似企業と比較して割安に見えた
このスライドはネクストのIR的に相当上手いというか、株価上昇に寄与したと思われるファインプレーかと。PERで見るとZooplaあたりの水準とは近しいですが、REAやRightmoveの方がPER高いし、EBITDAがさほど変わらないZillowはネクストの10倍の時価総額。
ほらほら、海外勢と比べて割安ですぜ!という魅力的なスライドです。
資本政策観点では、2015年6月4日に楽天への第三者割当による40億の調達を発表しており、その40億を短期借入の返済にあてるようです。7月17日付での690円での割当であり8月6日現在の株価は930円であることを鑑みると、市場価格よりかなり割安ですね。Trovit買収に際しては、短期借入、第三者割当も辞さないという気合を相当感じられます。
以上です。2015年8月6日時点ではネクストの時価総額は約1,100億円と、2015年5月に発表資料の653億円から大幅に上昇しています。あとは、通期予測に結果が付いてくるかどうかといったところでしょうか。過熱気味な気もしますが、EBITDA50億あれば時価総額1,000億程度はメディア企業なので妥当な水準な気もします。
ネットキャッシュ100億未満の企業でも、借入で100億以上のM&Aをやるのねというネクストの勇者ぶりには拍手喝采です。GREEのように100億減損にならないことをお祈り申し上げます。