2015年上半期M&Aされた国内スタートアップ14社まとめ:半分はEC関連

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全然跳ねずに悲しかった、2015年上半期1億以上資金調達59社まとめを気にせずに、次はM&Aまとめを。記事が長すぎると読まれないようなので、サクッといきます。こちらもジャンル別で金額順。金額非公開はTS予測金額順としました。

7月発表のVoyaginとQuipperも含んでしまいましたが、2014年下半期はTS調べによると5件(もう少しありそうですが+1-2件でしょう)で、nanapi、mery、iemo、セカイエ、リジョブあたりでした。2015年上半期は14件なので確実に増加トレンドです。そもそも、本誌では「資金調達まとめ」はあっても「M&A」をまとめるのは初の試みです。「M&A」カテゴリーも新設し、M&Aネタは強化していきます。

M&A

EC関連6件:今後も増えそうだがチケットキャンプは異常

チケットキャンプ 115億 チケット mixi
アラタナ 30億 EC周辺 スタートトゥデイ
MUSE&CO 17.6億 ファッション mixi
waja 4億 ファッション リブセンス
ルクサ 非公開 高級クーポン KDDI
WebPay 非公開 決済 LINE

2015年上半期のM&A案件はジャンル分けするとEC関連が最多でした。

チケットキャンプ115億円は業界の度肝を抜きましたが、ある程度利益が出ていそうで伸びそうとはいえ、いくらなんでも価格が高すぎるという説が業界の共通見解のように思えます。mixiの節税にしても高すぎると。

アラタナ、MUSE&COあたりはドナドナ感のあるディールという印象。要はIPOは無理っすというディールです。

参考記事:スタートトゥデイ、アラタナを株式交換で約30億円で買収
参考記事:mixiに節税効果はあるが、MUSE&Coに17億の買収価値はない

ルクサは金額非公開ですが、それなりの価格は付いたのではという説が30億以上はあるのではと。それよりKDDIはSyn.の滑りっぷりをどうリカバリーするのでしょうか。WebPayという決済スタートアップも買収。LINE Payとのシナジーはわかりやすい絵です。

メディア関連3件:キュレーションメディアの買収は続く?

4meee ! 6.25億 女性キュレーション エニグモ
Voyagin 非公開 旅行ツアー 楽天
Find Travel 非公開 旅行キュレーション DeNA

この3件はいずれも一桁億円後半のディールと予測します。キュレーションメディアは2014年下半期のmery・iemo案件の流れが確実にあります。DeNAがパレット構想を打ち出し、そこに上手くハマったのがFind Travel。外部からVCをいれず、創業1年満たずのスピード買収で、創業者の井出さんには5億以上のキャッシュインがあったと想定されます。立ち上げ時に話を聞きましたが「10億くらいで早く売りたいっす」といっており、有言実行で素晴らしいですね。

女性メディアに関しては本誌では何度もLocariの買収予測を報道してきていますが、下半期にあるのでしょうか。キュレーション案件は他には育児系のmamariのM&Aが確実視されています。

直近であった驚きは旅行ツアー予約メディアのVoyaginの案件。サービスコマースという意味ではECに分類してもいいのですが、メディアと位置付けました。他メディアの報道によると1年で3万人に旅行者にサービスを提供。客単価を5,000円と仮定すると年商1.5億でマージン20%と仮定すると粗利3,000万。どこまでスケールすると楽天が踏んだかはわかりませんが、買収価格は一桁億円後半と本誌では予測。

この手のアクティビティ予約メディアはJTBなどから6億調達したあそびゅーなどもありますが、めちゃくちゃスケーラブルなモデルとは思えず、Voyaginの売却タイミングはクレバーな選択といえると思います。逆にあそびゅーは出口で苦しみそうですが、本誌予測を覆すEXITを楽しみにしております。

アドテク2件:確実にM&Aが早まっている

Kauli 14.8億 SSP Voyage
popIn 非公開 ネイティヴアド Baidu

アドテク領域もM&Aが増えそう。RTBはSSPのジーニーに上場観測が出ていますが、RTB関連のIPOはそれで終わりではないでしょうか。

RTBの次の波と言われているネイティヴアド関連ではpopInがなんとBaiduに買収されました。ログリーというプレイヤーもいますが、こちらはVoyageから3億調達し持分適用化(Voyageの持分が20%以上)となっています。VoyageはM&Aや投資でアドテク周りを強化していますね。

残るネイティヴアド関連や動画広告周りのM&Aが2015年下半期に数件発生すると本誌では予測します。KDDIとかが買いそう。

その他3件:エウレカのクロスボーダー案件など

Quipper 47.7億 EdTech リクルート
エアロノーツ 2.5億 電話占い にじげん
エウレカ 非公開 デーティング IAC

ジャンル分けしきれなかったのが残り3件。

つい先日発表があったQuipperのリクルートによる買収。EdTech関連は単独の上場が難しそうな銘柄が多く、2015年下半期はEdTechのM&Aが増えると予測します。EdTechのM&Aの本丸といえたベネッセが右肩下がりの状況ですから、ベネッセを当てにするとマズイかもしれません。

面白い案件としては、じげんの子会社にじげんが買収したエアロノーツ。電話占いは平均APRUが高く、3-4万ARPUとなることもあるようです。高額コンテンツは利益率が高くて良さそう、マーケティング費用を投下してもきっちり回収できるモデルです。

最後にオンラインデーティングのペアーズやカップルSNSのカップルズを提供するエウレカが米国最大の出会い系コングロマリットIACにより買収。これはエポックメイキングなディールでした。価格は非公開ですが、50億から200億まで、幅広いレンジの諸説が業界では流れています。50億を割っていることはなさそうですが。

買収側:国内11社海外2社、mixiが2件実行

買収側のプレイヤーを確認します。2015上半期最大のトピックはクロスボーダーM&Aが2件あったことです。popInのBaiduとエウレカのIACです。クロスボーダーM&Aが増えると国内のスタートアッププレイヤーには出口が増えることになり、業界的には大きなプラスとなります。

国内の買収側のプレイヤーを確認する際に、2014年1月に出している主要上場インターネット企業現預金ランキングが参考になります。本稿ではそのランキングからさらにプレイヤーを絞って下記に掲載します。

単位は億円。引用は直近決算と2015.7.3時点時価総額。「2014.1増減」はその時期と現時点を比較した増減額。

企業名 現預金 2014.1増減 時価総額 2015上期買収案件
ヤフー 5,093 611 28,645 なし
楽天 4,452 1,001 29,171 Voyagin
リクルート 3,071 1,460 21,325 Quipper
KDDI 2,642 422 79,663 ルクサ
GREE 746 291 1,697 なし
DeNA 687 47 3,620 Find Travel
mixi 654 532 5,233 チケットキャンプ
CA 306 22 3,824 なし
カカクコム 247 46 3,929 なし
スタートトゥデイ 247 121 3,928 アラタナ
クックパッド 115 63 2,508 なし
Voyage 51 1 257 Kauli
じげん 38 31 436 エアロノーツ
エニグモ 23 2 332 4meee!
リブセンス 23 1 174 waja
LINE       未上場 WebPay

買収側のプレイヤーからは様々なことが読み取れます。まずこの1年半で現預金が増えたプレイヤー。時価総額1兆円を超える企業は KDDI以外は1,000億前後の現預金を積み増しています。KDDIは売掛金が多いのか現預金は案外少ない。注目に値するのはmixiが500億、GREEが300億近く積み上げている点。mixiはモンストの一発ですが、GREEも着実に積み上げている。

ただし、現預金の増減が多ければいいわけではありません。積み上がる現預金を上手く投資できていないという見方もできます。DeNAは1年半で47億しか積み上がってないですが、キュレーションメディア3社の買収で60億近く使っていると思われます。

ランキングの下位を見るとここ数年でIPOした企業がスタートアップを買収しているのがわかります。ただし、多くてもVoyageの50億くらいであり、現預金100億未満の企業が20億以上のM&Aを仕掛けてくるとは考えにくいです。Voyageは現預金50億強でKauliを14.8億で買ってるのは勝負してるなという印象を受けます。

2015年上半期でM&A案件はなかったものの、今後も買収ポテンシャルが高い企業としては、ヤフー、GREE、クックパッドが挙げられます。クックパッドはみんなのウェディングや海外企業の買収もあり、今後の買収活発も容易に想像つきます。(本稿は「スタートアップ買収」であるため、上場企業の買収はカウントしませんでした)そして上場後にはLINEもM&Aを活発にやってくるのではと。サイバーエージェントやカカクコムはあまり買収する文化に思えないので、M&Aできる体力はあるけど、あまりやらなそう。

よってスタートアップ買収の主力プレイヤーとしては下記。

50億以上の買収:ヤフー、楽天、リクルート、KDDI、mixi、LINE
20億以上の買収:DeNA、GREE、クックパッド、スタートトゥデイ
一桁億の買収:直近のIPO企業でも可能

国内の買収側のプレイヤーは多く見積もって20社程度といえそうです。

被買収側のベストディール:エウレカとFind Travel

被買収側を見てみましょう。会社を売却する際には株主間の意思統一が必要であり、外部株主がいないほうが意思決定がスムーズでかつ創業者のリターンも最大化できます。

ゆえに、外部株主がほとんどいなかったエウレカとFind Travelが創業者のキャッシュインとスピード感(特にFind Travelはサービス開始8ヶ月くらい)の観点で被買収の立場でのベストディールといえます。

今後M&Aを睨むスタートアップに気をつけてほしい点としては、むやみにシードラウンドやシリーズAでバリュエーションを上げないことです。買収のオファーがきても、前回ラウンドで無駄に高いバリュエーションが付いていると、直近ラウンドの株主の利益を確保するために、より価格を釣り上げる必要があり、買い手が断念することがスタートアップM&Aあるあるな気がします。

ダウンラウンドでの買収であれば優先株の株主には優先分配権がありますが、1.5倍程度のバリュエーションでの買収に直近ラウンドの株主が応じやすいか否かは実務的に気にかかる点となります。外部株主をいれずに成長させるのが、一番美しいディールには見えます。資金調達してその分事業をスケールさせられることができれば、そちらを選んだほうがいいですが。

2015年下半期はさらにM&Aが増えると予言

以上、2015年上半期国内スタートアップM&Aまとめでした。下半期はこの14社を上回るペースと予測します。

IPO件数は減っていないと報道されている様子を他メディアでも見かけますが、gumiショック以降の審査厳格化により、上場見送り企業も増えており、年初想定よりIPOという出口が縮小気味。ゆえにクロスボーダー含むM&Aを(株主のために)模索せざるを得ないスタートアップも増えているとか。

あとは一桁億円のサクッとしたM&Aが増えたり、今回も何件かありましたが、100%買収ではなく51%とか70%程度として、IPOを目指しましょうM&Aも増えそうです。M&Aで大企業のリソースを活用してレバレッジを掛けることで、IPOに近づくスピードを速められるという考え方は双方にとって良いのではと。

M&Aには3パターンあると思われます。1つ目は短期で成長したスタートアップを買う。将来の成長性を加味し、その時点では高いと思われても、数年後に安いと思われるような案件。2つ目はすでにある程度の売上利益がある会社を買収して連結で大きく見せたい。3つ目はIPOも全然無理そうで立ち行かなくなる企業をダウンラウンドやバリュエーションをさほど上げずにドナドナ買収するというパターン。

ドナドナパターンはあまりお勧めしないですが、そろそろ2012-2013年に調達したスタートアップで死にそうなところが多発するはずなので、そういった案件が2-3件はあるのではと。

微力ながら筆者はM&Aアドバイザリー業務も手がけておりますので、買収側も売却側もお悩みがございましたらお気軽にご連絡ください。



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