スタートアップはサイバーエージェントをなめてはいけない

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スタートアップ業界では自分たちと比較してサイバーエージェントはITリテラシーが低いという共通認識があるようにに思える。スタートアップが先に参入した領域に後発でサイバーエージェントが参入し、スタートアップvsサイバーエージェントとなる図式をたまに見かける。

だが、スタートアップ側はサイバーエージェントをあまり相手にしていない。平たく言うと「なめている」気がする。DeNAじゃなくて良かった。サイバーなら大したことはない。というニュアンスだ。

現にフリマアプリ市場にはパシャオクで参入したが既に撤退しており、メルカリの一人勝ちとなりつつある。キュレーションメディアではDeNAに買収されたMeryに対してby.Sがある(この分野は勝敗がつくというよりは狙うジャンルが異なるので棲み分けが進むと僕は見る)。一方でバイラルメディアは2014年8月に様々なメディアが派手に炎上したが、スポットライトの月間訪問者数が1,100万を突破したとあり、勢いは一番あるように見える。

上記は注目されているので良い方で、ネタにすらならずに参入して撤退したプロダクトは数多い。サイバーエージェントのスタートアップサービスが成功する確率を見ると、スタートアップの立場では脅威に感じないというのは理解できる。

前置きが長くなったが、今回はクラウドファンディング市場のプレイヤーであるMakuakeを紹介する。同サービスの運営社であるサイバーエージェントクラウドファンディング取締役坊垣佳奈さんとチーフキュレーターの森恵さんに話を聞いた。僕の感覚では、このMakuakeはスタートアップをひっくり返す可能性がありそうだ。

IMG_2638「なめんな」風な坊垣さんと森さん
注:梅木によるディレクション

Campfire抜き国内2位。ReadyFor?に肉薄するMakuake

クラウドファンディングといえば国内における市場先行者はスタートアップであるReady For?とCampfireであった。

◆参考記事:国内クラウドファンディング8社比較(月刊事業構想)

Makuakeは2013年8月ローンチ。総合型からジャンル特化型まで乱立状態にあったクラウドファンディング市場の中で、先行者である二大巨頭の一角であるCampfireの月次成約額を抜き、首位のReadyFor?に迫る勢いだ。

スクリーンショット 2015-02-08 16.07.29注:画像をクリックすると拡大します。拡大画像でぜひご確認ください。

出典:日本の主要クラウドファンディング単月の月次支援額推移

参考までに直近2ヶ月の数値を下記に。

■2014年12月

ReadyFor?:5,838万円
Campfire:1,147万円
Makuake:4,331万円

■2015年1月

ReadyFor?:5,572万円
Campfire:637万円
Makuake:3,921万円

第三者の声として、クラウドファンディング市場に詳しい野村リサーチアンドアドバイザリーの澤山陽平氏にコメントを求めた。

2014年は約1,500件のプロジェクトが成立し、13億円弱が調達された。うち、1,000万円を超える大型案件は7件(調達中案件を含めれば11件)である。一方、平均の成約額は50〜100万円で過去2年ほど横ばいが続いている。2014年にクラウドファンディングに参加した人は累計で10万人程度と、拡大の余地は大きい。今後は各社ともプロジェクトの立ち上げや募集活動の支援に力を入れるのではないだろうか(澤山ょたん氏談)

キュレーターが企画力で案件を磨き、坊垣が全国行脚する

プロジェクト数が増え、プロジェクトの資金調達額も増加していくのが、クラウドファンディングサービスの好循環を作る上では必須だ。

よって、プロジェクトを磨いて成立させる「企画力」と、プロジェクトを他のプラットフォームではなく自社へ呼び込む「営業力」の2点が事業立ち上げのポイントだと筆者は仮説を立てていた。

直近では新規掲載が決まるプロジェクト数が月次で100件を越えています。ご応募いただいたものからそのまま掲載することもあれば、実行者の方々と相談しながら魅力的なプロジェクトに磨いて、案件を仕上げていくものも多いです。そうしたや役割を私など社内の5名の「キュレーター」が担います(森さん)

企画は応募されたものを単に取捨産別するのではなく、キュレーターが一緒に考えて創り上げてくれる。金融機関のように審査を厳しくするつもりはなく、極力多くのプロジェクトを掲載したいと考えているようだ。実行者とプロジェクトを考える上では、このプロジェクト自体に魅力があるのか少し不安に思う気持ちを優しく後押しすべく、女性が向いているという話もあった。キュレーターの森恵さんのような天然癒し系な女性が向いてそうだ。

スクリーンショット 2015-02-07 14.37.47上:Makuake大好き森恵さん

プロジェクトを磨き上げる点にかなりの労力を割き、プロジェクトの質を上げる。一方で営業はどうだろうか。

立ち上げ時は紹介などで掲載に至るプロジェクトもありましたが、最近は私が全国各地でクラウドファンディング関連のイベントに登壇しており、地方行脚しています。イベント後にプロジェクトの応募が増えることもあります(坊垣さん)

最近、坊垣さんは地方行脚が多く、殺人的スケジュールから社内では「タレント化している」との声もあるようだ。

スクリーンショット 2015-02-04 16.04.07上:全国ツアー中の坊垣さん

プロダクトやコンテンツのプロジェクトの市場は大きい?

マーケットの話に移ろう。クラウドファンディングというとReadyFor?で多く見られる「寄付型」のイメージが強い読者も少なくないだろうが、Makuakeでは「購入型」といわれるプロダクトのプロジェクトの比率が高い。たとえば、下記のスマートロックのプロジェクトでは、リターンとして2014年5月中旬に支援者約1,000人にスマートロックが送られる。

スクリーンショット 2015-02-04 15.22.47プロジェクト実行者側の視点では、Qrioの実行者であるソニーのような大企業であれば、試作品のプロモーションとリサーチを兼ねたプロジェクトといえる。個人や中小事業者であればそこに資金調達やプロダクトのニーズ検証という用途も入ってくるだろう。

世界最大のクラウドファンディングプラットフォームであるKickstarterでも寄付型のプロジェクトより、モノがリターンとして得られるプロダクトやゲーム、コンテンツの方が大きいプロジェクトに繋がりやすく、数も多いという説もある。今後IOT(Intertnet of things)市場の立ち上がりも相まって、IOTの検証プロセスにクラウドファンディングに組み込まれることは十分にあり得るため、プロダクト購買型のほうが寄付型よりマーケットは確実に大きいといえるだろう。

国内においては寄付型の主要プレイヤーがReadyFor?、購買型がCampfireが強い印象だったが、Campfireの市場をMakuakeがリプレイスしつつあるといえるかもしれない。

知人以外の支援者の比率の高さがプラットフォームの優位性

クラウドファンディングプラットフォーム事業者は実行者のプロジェクトを掲載し、成約額の手数料で儲けるビジネスだ。同じプロジェクトがMakuakeとCampfire両方に載っている必要はない。1つのプロジェクトに対して実行者が選ぶプラットフォームは1つのはずであり、プラットフォーム間でプロジェクトのパイの奪い合いが発生する。

IMG_2630実行者の視点で見ると、そのプラットフォーム上に掲載すれば確実に注目を集め資金調達に繋がることが最重要と思われる。その点におけるMakuakeの優位性を坊垣さんはこう語る。

他社のプラットフォームでのプロジェクト実行者にもヒアリングしましたが、結局注目を集めて多くの資金調達が実現するか否かは実行者のメディア露出やソーシャルメディアでの拡散の巧拙が多分に影響します。実行者の知人以外からの支援者を集めるのがプラットフォームの意義であり、その点MakuakeはAmebaなどから誘導をかけることもでき、実行者の知人以外の支援者比率が比較的高めとなっています。

筆者もtwitterなどで盛り上がっているクラウドファンディングプロジェクトを見かけることもあるが、「あと1時間!10万円で達成です!」みたいな時に、自分や知人や家入さんが10万円入れてプロジェクトを成立させてしまうことは実際にあるように思える。

目標金額を達成しないと何も得られない「オールorナッシング型」と目標金額を達成せずとも集めた額は手にすることができる「オールイン型」があり、〆切直前に身内でパワープレーで成立させてしまうのは「オールorナッシング型」の負の側面といえる。ちなみにMakuakeでは両方の型を採用している。

直近の月間成約額は4,000-5,000万円規模だが「年内には10倍にしたい」と坊垣さんは意気込む。

米良はるか氏のずば抜けたブランディング力を擁するReadyFor?に組織力で対抗。Makuakeが年内に市場のトップに躍り出ても決しておかしくはない。

IMG_2646

米国のTechCrunchを読み漁りITリテラシーが高くなっているようなスタートアップは、その暇があればオペレーションを磨き目の前の数字を上げることに注力すべきだ。おそらくMakuakeがスタートする前、サイバーエージェント社内でのクラウドファンディングの認知率は過半に至らなかったのではないかと思う。先端的な知識だけでは事業に勝つことはできない。これはスタートアップにとって良い教訓となる事例かもしれない。

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