上場企業決算分析シリーズ。今回はネットリサーチのマクロミルです。アナリストカバレッジでは2社しかカバーしてないんですね…。スタートアップ業界ではキュレーションマガジンAntenaへの15億円出資(により持分法適用会社化)が今夏話題になりました。直近3年分の決算を見ると売上営業利益共に伸びており営業利益率も20%前半で堅調に推移。2013年6月期決算では売上171億円営業利益38億円。
ネットリサーチ事業の市場の伸びが今後さほど期待できないことと、同社の新規事業の不確実性から市場に評価されていないと思われる。2013年11月13日時点での時価総額は約373億円。PERは10倍を切る水準だ。来期も堅調な伸びを予測しており、競合環境や事業の特徴から急激に売上が下がるリスクは極めて低い。
この事実だけを見ると割安銘柄といえる。しかし既存事業だけでは無難な成長しか見込めず、新規事業の不確実性を市場はマイナスに評価していると思われる。マクロミルが展開する新規事業の可能性を中心に本稿では掘り下げて見ていきたい。尚、本稿作成にあたりShared Researchの同社レポートを参照させてもらった。
4つの新規事業:リサーチ / プロモーション / メディア
同社では4つの新規事業をローンチもしくはローンチ予定である。
1:ミセコレ(ロングテール市場向け低価格マーケティングプロモーションサービス)
2:Questant(DIYリサーチ)
3:MACROMILL MARKET INDEX(データベース事業:拡大集計POSサービス)
4:Antena(メディア事業:キュレーションマガジン)
全体感としてはこうなる模様。
SurveyMonkeyモデルのDIYアンケートQuestant
個別に見てきましょう。まずはリサーチ事業から。2013/10/31にリリースされたばかりのDIYリサーチ事業のQuestant。既存リサーチ事業の主要クライアントは広告代理店やコンサルティングファームであり、単価結構高い。既存リサーチ事業の平均受注単価は約90万円ほど。スタートアップなどにはしんどいですね。。。
質問項目を自分で作成して、その回答はマクロミルの約130万人程度のモニターに送る。マクロミル側は営業がコストが下がるため今までより体単価でのサービス提供が可能になる。ロングテールを取りにいくビジネスモデル。
尚、グローバルではこの市場のプレイヤーにSurveyMonkeyがいます。サイトを見ると既に日本語版もありますね。SurveyMonkeyに関しては調べてみると既に調べるおさんの記事がありました。その記事と他の記事から概要を洗い出してみましょう。
■About SurveyMonkey
時価総額:約1,350億円
売上:113億円
営業利益:62億円
PER:27倍
注記:上場する気がない?
出典:Why SurveyMonkey is holding off on an IPO
借入でJPMから資金調達しているが、上場する気がないからだろう。
高い営業利益率ですがグローバルのトップ企業を持ってしても100億円程度の売上です。マクロミルではQuestant事業の2016年売上高8億営業利益3-5億円を目指すとあり、軌道に乗れば利益率が高い事業なのでしょうが、スケーラビリティに?となる事業といえるかもしれません。SurveyMonkeyも市場規模的に売上1,000億にまでは届かないであろうから、現事業のみでの上場は踏みとどまっているのかもしれませんね。10億ドル企業ですが。
同様のリサーチ事業に属する拡大推計POSデータサービスMACROMILL MARKET INDEXは2014年4月にサービス開始予定とのこと。POSといえばスタートアップ業界ではユビレジが有名。ユビレジと提携、というか買収するとシナジーあっていいんじゃないだろうか。リリース前のサービスなので詳細は今回割愛します。
ミセコレはLINE@の競合的なアプリ:立ち上げ難易度高い
プロモーション領域のミセコレ。ざっくりいうとよく行く店と行きたい店をリスト化し、たまに店舗からクーポンなどが届くアプリ。といえます。似たようなサービスをスタートアップでも見かけた気がしますが、ブレイクしているサービスは現状ないと思われます。
リサーチ事業で集めた顧客基盤140万人程度(PCスマホ110+モバイル30)にプロモーションを掛けて立ち上げるというのをイメージしているのでしょうが、既存事業とのシナジーはそれ以外は特になさそう。この手のローカル情報のアグリゲーションサービスは需要はあると思いますし、何か一つメインプレイヤーが出てきてもいいと思うのですが、立ち上げ難易度が相当高いと思います。
需要はあるんですが、これがなきゃ困る!という強烈な需要というほどではないのが立ち上げ難易度の高さに繋がっていると思う。この事業は店舗側から見るとLINE@が競合になりそう。LINE@もそんなにスケールすると思えず(店舗にとっては月額数千円をCRMに支払うハードルが高い)いわんや知名度がないミセコレをや。という感じです。2016年度売上高10億営業利益5億を目指しているようですが、ここはあまり期待できないと思います。
Antenaは前倒しで100万ユーザを達成:現在134万ユーザ
キュレーション銘柄として本誌読者の認知も高いと思われるAntena。周囲で使っているユーザを見たことがないのですが、現在134万ユーザまで伸ばしてきたようです。
個人的にはこれはアフィリで強引に取ったユーザ数であると予測しており、MAUが気になるところです。そうでなければMAUを開示しても良いはず。周囲で使ってる人見たことないので…。広告商品の販売も100万円〜で開始しているようです。同業種としては海外のFlipboardが2013年9月にKPCBなどの追加出資でシリーズCを実施しています。
Antenaに関しては収益予測は出ていません。Gunosyなども広告販売を開始していますが、この分野は何社かがスマホでのヤフトピ的なポジションを獲得し莫大なトラフィックによりマネタイズ可能と見ています。個人的にはAntenaがそこまで跳ねるイメージは正直持てません。プロモーションを強化するよりはplanBCDでも使ってMAUを上げることを考えた方がいいと思うとアプリを触って思いましたね。
リサーチはクラウドソーシングで更なるコストダウンが可能
以上から新規事業はQuestantの浮沈が鍵を握ると見ています。SuveyMonkeyとのガチンコ勝負でしょうが、国内においてはリサーチはマクロミルというブランドイメージが浸透していることもあり、どうプロモーションを掛けるか次第ではありますが、売上が堅調に上がりそうなイメージがあります。ミセコレとAntenaは不透明と言わざるを得ないでしょう。
Questantによりロングテール分野に参入しましたが、質問項目の作成はDIYになったものの回答者はマクロミルの既存会員を使うという構造。回答者をクラウドソーシングで集めることでリサーチの単価は更に下げられるのではないかと感じています。現に雑誌の取材で伺った際に、Yahoo!クラウドソーシングには簡単なアンケート調査の案件がありました。ちなみにマクロミルの筆頭株主はYahoo!で22%を保有しています。
リサーチのクラウドソーシング事業はマクロミルにとってはイノベーションのジレンマになるでしょう。自社の資産を使えず、Questant以上にリサーチの単価が下がると自社の首を絞めかねません。クラウドソーシングを活用したリサーチ事業を構想するスタートアップの話は聞いたことがあり、立ち上げて10数億円程度の売却には持っていける市場感かなと思います。マクロミルはリサーチ事業領域でのM&Aも視野に入れていますから、そんなディールが来年にはあっても良さそうです。
投資判断に関しては「弱気な買い」としておきます。
■マクロミル投資判断根拠
・既存リサーチ事業のダウンサイドリスクは低く、堅調な推移が見込める
・Questantが跳ねて収益貢献できる可能性が高い
・ミセコレ、Antenaは未知数で焦げ付く可能性がやや高い
・現状のPER10倍程度の水準は割安であり上昇余地はある
以上です。まともなカバレッジが野村証券のみですから、マクロミルの新規事業のことはAntena以外はあまり広く知られてなさそう。大変勉強になりました。
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