久々のIPOネタ。先日上場承認が降りた電子書籍取次ディストリビューターのメディアドゥの上場申請有価証券報告書などから分析した記事をお届けします。電子書籍分野は実はフィーチャーフォン時代に熱いと言われた分野で、既にパピレスやイーブックイニシアティブが上場。メディアドゥの上場承認を受けて連動してパピレスの株価も上がったようです。
メディアドゥを中心にパピレスとイーブックにも言及しつつ、電子書籍市場の概要を本稿で把握しましょう。ちなみにメディアドゥはDGインキュベーションが約17%保有しているようです。
営業利益率は4%台と低水準、LINEマンガに提供を開始
着うたやゲーム事業も手掛けているようですが、電子書籍関連事業の売上構成比率が約75%のため、ここにのみ焦点を当てます。電子書籍の配信システムとストア構築システムの使用料を取るというビジネスモデルのようです。下記の図は上場申請有価証券報告書より抜粋。同資料によると、国内の電子書籍市場は2012年約790億円、2016年には約2,000億円との試算がある。
システム使用料がさほど高くないのか、営業利益率はかなり低いビジネスです。流通業みたいなものですから仕方ないのかも。
過去の分は上記に含めませんでしたが、売上が右肩上がりなのに対して利益はそうでもないというかむしろダウントレンドにあるのが気になりました。過去の着うた事業などが利益率が高かったのでしょうか。
直近のトピックとしてはLINEマンガへ提供を2013年4月に開始したことが挙げられます。LINE株式会社への販売実績は2013年4-8月の5ヶ月で約2.5億。これはKDDIへの販売実績の約3.2億に肉薄する数値で、LINEマンガの伸びと同社の業績は連動するといえそうです。
まとめとしては、市場はここ4年で3倍程度伸びる可能性はある。しかし、営業利益率が低いモデルであることは変わらず、売上が3倍になってもなかなか営業利益率は改善されないでしょう。2013年度着地は売上50億で営業利益2-3億というところでしょうか。
類似業種で直販のパピレスとイーブックは利益率2倍の差
類似会社のパピレスとイーブックを見ましょう。パピレスはシステム提供ではなく、両社ともプラットフォームとなって書籍を販売しています。類似業種ですが営業利益率は倍近く異なります。両社の有価証券報告書を比較するとその理由は広告費が10倍異なるから。
広告費を掛けて売上を伸ばしにいったパピレスとさほど広告費を掛けずにそれなりの利益率を確保しているイーブック。私はモバイルのレップ営業も社会人1年目で一瞬経験したことがありますが、たしかにパピレスは大型出稿主の位置付けに入るクライアントだった気がします。モバイル広告に年間17億ですからね。
営業利益額自体はほぼ変わりませんが、利益率の差が時価総額の差にもそのまま反映されているといえそう。広告を出し続けないと売れないモノなのか(フィーチャーフォン時代の月額課金サービスではないので積み上らず、従量課金制)両サービスのAPRUの違いまでは資料から算出できませんでしたが、どうなんでしょうか。
先行投資してプラットフォームにリテンションできれば良いのでしょうが、私のMacクロムではパピレスは閲覧環境的にDLできず読めない。ebookは読めます。広告費掛ける前に開発費掛けた方が賢明な気がしますが…。
電子書籍で売れてるのはマンガが88%
パピレスの決算説明資料で興味深いスライドを一枚貼っておきましょう。電子書籍といっても売上はほとんどマンガなんですよね。
掲載冊数は35%に対して販売冊数は88%を占める。パピレスでサンプル本を落としてみたのですが、小説のUIはけっこう厳しいものがありました。電子書籍はただPDF化すればいいと思っているところが多いのでしょうか。。。マンガはある程度読みやすいのですが。
与太話として、私は新卒時の最初の仕事がエロマンガのデバックでした。「たまりませんわい」というタイトルのエロマンガを昼間からチェックして、たまらない気持ちになったことはネタとしてたまに人に話しています。
電子書籍市場の行く末:マンガ以外のUI改善が鍵
電子書籍は来る来る言われてなかなか来ている実感はありません。私はKindleユーザーでその恩恵を受けてはいるものの、コンテンツ数はまだまだ不足していると感じます。iOSアプリで散見される、雑誌のUIをPDF化すればいいというのは間違いで、コンデナストグループのようにwebに最適化したUIで雑誌の内容は展開すべきだとも思っています。GQとか見やすいし。
デバイス軸:スマホ、タブレット、Kindle
ストア軸:自社プラットフォーム、キャリアなどにOEM、Kindle
ユーザー視点での雑感としては、マンガは伸びそうですがUIが劇的に改善されない限りはマンガ以外の書籍はKindle以外のプラットフォームであまり読まれる気がしません。スマホやタブレットでもマンガ以外の雑誌や書籍が読みやすいユーザビリティのサービスを開発できるかが市場の伸びを左右すると思います。そうした観点ではこの中では相対的に開発力がパピレスよりはありそうなイーブックに期待といったころでしょうか。取扱書籍数増加よりもKindle的な読みやすさを追求した方がずっと売上は伸びるはず。
直販プラットフォームではなくシステム提供のメディアドゥはLINEマンガなどが当てればたしかに売上は伸びるのですが、営業利益率が高いモデルではないので市場からは評価されにくく株価の上値は重いと思われます。よって上場時時価総額は50-100億円のレンジ。その後も劇的な伸びは期待できず、買いとは言い難い。という結論で本稿を締めておきたいと思います。
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