ざっくりいうと…
・スタートアップの従業員=年収が低いのが当然。というのは固定観念ではないか
・スタートアップの経営者は人材採用を舐めすぎな場合もあるのではないか
・転職しても良いなと思わせるスタートアップの人事制度
Wantedlyなどを筆頭に、人材採用関連のスタートアップサービスが乱立してきています。その手のサービスの立ち上がりが多いということは、採用需要が旺盛ということ。求職者がスタートアップへの転職を検討する際、成長企業での仕事に魅力があるとか、この経営者の下で仕事をしてみたいとかそういう動機が主だとは思います。一方で、年収に関しては良くて前職維持、大抵は下がる。というケースが少なくない。
スタートアップはお金がないので、雇う従業員の給料は安くて良いのが当然。という考えがわりと一般的かと思いますが、本当にそうなのでしょうか。実際に私がスタートアップで従業員という立場で働いた経験、採用側としてのスタートアップ、転職を検討する友人たち。そういう周囲を見て感じたことを書いてみます。おそらくスタートアップの経営者からは嫌がられ、従業員側からはそれなりの共感を得られるのではないかと思う。
求職側:スタートアップへの転職は経済的な期待値が低い
上記の通り、求職者側はスタートアップへ転職する際に給料以外の点にメリットを感じて転職を決断する場合が多い思います。実際私もそうでしたし、給料が上がったからスタートアップに転職した。というケースはあまり聞きません。
大手のネット企業で4-7年目くらいのそれなりに活躍している人で、起業志向ではなくどこかのスタートアップにジョインしてもいいかな。と考えている潜在層はそれなりにいると思います。採用側も優秀なプレイヤー、ないしはミドルマネジメント層としてそういう人材が欲しいと思う。
しかし、取締役レベルで年収1,000万円以上とか+株とかの条件でなければ、経済的なメリットは乏しい。今の地位を捨てて、経済的なリスクが高いところに飛び込むという決断は、20代後半以降はしにくいのではないかと思う。大手企業に留まった場合とスタートアップに転職した場合をケーススタディで比較しましょう。
非常にザックリ置きましたが、そこそこ現実的なレンジかと思います。
①ー①:大手ネット企業で出世したパターン=確率20%
②ー①:スタートアップに転職してIPOするケース=確率15%
くらいで置いて、ストックオプションを行使できたとしても、経済的な期待値はスタートアップの方が低いと思われます。スタートアップへは取締役などのCクラスで転職しないと、大手で出世するより経済的なメリットは見込めないのです。仮にIPOまでしたとしても。
①ー②:大手ネット企業で出世しないパターン=確率40%
②ー②:スタートアップに転職してリビングデットなケース=確率40%
双方のアップサイドをあまり見込まないパターンでも、大手にい続けた方が経済的メリットは高いと考えられます。特にスタートアップは業績が伸びなければ給料が伸びることもほとんどないはずです。
ということで経済的な期待値で図ると、スタートアップにCクラス以外の従業員層で転職するメリットは低いと判断せざるを得ません。特にスタートアップのボートメンバーは硬直しがちな傾向もあるので、従業員クラスで入社してからボードメンバーに上がる難易度はかなり高そうです。
ゆえに大手ネット企業に在籍する優秀な人は取締役レベル以外では転職に二の足を踏むケースが多いのではないかと推測します。それくらい優秀な人であれば、これくらいのシナリオは想定するはずで、平均の期待値が高い方を選択した結果、在籍し続けていると考えられます。
採用側:リスクを取って固定費となる人件費は上げるべき
一方の採用側です。経営者は固定費となる人件費は極力安く抑えたいのが本音でしょう。人材紹介会社への一時的な紹介料は支払っても変動費のためまだ気安く、従業員の年収を上げて固定費を上げるよりはマシだ。という判断をする場合が多いのではないでしょうか。経営者は経営効率を最適化する必要があり、経営者であれば当然の発想。一応、一介の経営者になったばかりの私ですらそう思います。
しかし、いい人材を採用できないと嘆くスタートアップの経営者は少なくないのではないでしょうか。上記の求職者側のロジックからすると、低コストで良い人材を採用しようというのはちょっと甘い発想ではないかと。固定費を上げたくない気持ちはよくわかりますが、人材紹介会社への紹介料や、人材紹介関連の使用料を支払う+採用の工数を勘案して、求職者側へより良い条件を提示した方が合理的ではないでしょうか。
需給関係で価格は決まるため、希少な職種の方は年収が高騰しがちだとは思います。一時期のエンジニアバブルとか、その頑強でしょう。しかし、スタートアップだから安くて当然。という発想だと、良い人材を獲得できず、事業のスケールスピードも遅くなってしまうでしょう。
もちろん、そのことを理解して、スタートアップでもそれなりの待遇を用意して良い人材を獲得しにいっているところも何社もあります。従業員側の期待値の観点からのみならず、事業のスケールスピードを考えても、提示年収を上げて良い人材を獲得しにいった方が良いのではないかと思う。
明確な給与テーブルを設計し、採用時に提示する
求職側は経済合理性が低いためスタートアップへの転職をリスクと考え、踏み出しにくい。スタートアップ側は金がないし、金がない中、固定費を上げるのはリスクが高い。折衷案として梅木式スタートアップ人事制度を提案しましょう。
スタートアップへの転職での条件提示の際、経営者側は大体「頑張ってくれれば、給料を上げますよ」と言うケースが多いでしょうが、スタートアップであるがゆえにまだ制度自体設計されていないし、納得のいく指標が形成されている場合は稀でしょう。従業員側からすると、食べることができないニンジンをぶら下げられている気持ちになることもあるかと思います。
スタートアップの経営者側としては、事業が上手くいくかどうかの不確実性も高い中、高い人件費は出来るだけ避けたく、曖昧なニンジンで人を釣ろうとする気持ちはよくわかります。最初から高い人件費に設定するとリスクがあるため、ニンジンに明確な階段を付けて条件提示するのが良いのではないかと思います。半年後の評価で、これくらいできていれば○○万円くらい上げる。とか。
経営側からすると実行する難易度は高いのでしょうが、良い人材を採りたければそれくらいやっていいと思います。人材に対する意識って、大手ネット企業の方が高いように見受けられて、その結果、サイバーエージェントの若手とかの離職率は相当下がっているように見受けられるんですよね。
私としてはスタートアップの経営を批判するのではなく、サイバーエージェントの若手たちにスタートアップへ転職して活躍していただいた方が、社会活性化には良いと思っております。しかし、彼らがスタートアップへの転職へ二の足を踏んでいるであろうことは事実で、その背景にはこういう思考回路があり、こういう解決策があるのではないか。と思った次第です。
求職側はリスクを取るわりにはアップサイドの期待値が低いのが現状だと思いますので、初期のリスクを軽減するのが筋かと思います。
最後に、記事化の際には触れませんでしたが、下記で執筆したネット業界の年収記事では、いずれもスタートアップの平均年収は大手を約100万円以上は下回っていました。悩ましい問題ではありますが、スタートアップの従業員の年収が低いのは当然。って当然じゃなくね?という主張でした。
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