「あなたの得意でハッピーが広がる ワンコインマーケット」をコンセプトに展開するCtoCサービスのココナラ。2012年7月の立ち上げから約半年で4万人以上のユーザーを獲得。19ジャンル5,000件以上の出品がある。
ロゴ制作やコピーライティングのようなビジネス的な出品や、似顔絵作成や星占いのようなプライベートな悩みに対応するサービスも出品されている。
なぜ事業立ち上げが難しいといわれるCtoCにおいてここまでスムーズに事業が立ち上がったのか。事業立ち上げの観点とマーケティングの観点の貴重なノウハウを、ココナラを運営するウェルセルフの南章行氏にお伺いした。
コンセプト:500円という固定相場制が肝だった
「一人ひとりが『自分のストーリー』を生きていく世の中をつくる」をビジョンに、ココナラはスタートした。
南氏はNPO団体の運営を通して、人々が「自分のスキルを人の役に立てたい」という欲求を持っていることに気づいた。お金を稼ぐためにというよりかは、単純に誰かの役に立ちたいという欲求だ。
上手く立ち上がった理由はいくつか考えられるが、コンセプトレベルでは500円という固定相場制を取ったことが大きかったのではないかと南氏は振り返る。相場がない市場の中で、出品者側に価格設定を任せると同じような商品でも価格差が生まれ、マーケットプレイスとして購買者側に不信感を与えてしまうのではないかと感じた。
そこでインターネット上で完結する取引として、気軽に許容できるであろう500円に設定した。ワンコインという響きもメッセージとして伝えやすく、マーケティング上の利点にもなったという。いかに出品ハードルと購買ハードルを下げるかがこの手のサービスでは重要であり、500円という価格設定は出品数や成約数の増加に大きく寄与したと思われる。
立ち上げ:mixiが提供できていない機能を提供した
オープン時にはサイトの空気感をコンテンツにより醸成しておくことが大切であると考え、サービス出品者を事前にある程度集める必要があった。創業メンバー3人で1週間で、各々の知り合い伝手や、mixiのコミュニティ内での勧誘に精を出し、約1,000名のターゲットユーザーにアプローチした。その結果、400名がユーザー登録をし、200名が出品した。mixi経由でのアプローチでは、3人に1人からは返信があったという。
特に似顔絵や占いのサービス提供はmixiのコミュニティで盛り上がっていたものの、サービスを提供する個人が「サイト内に決済手段がなく、個人名や銀行口座などの個人情報を相手に晒したり、そもそも料金を取りそびれることもある」という課題があることを想定しており、ヒアリングを重ねたところ想定通りであった。そうした課題をココナラで解決できそうなことが、出品者の支持を得たのであろう。
ココナラでは出品者を非常に大切にしており、オープン前にはβ版段階での出品者を集めて、ココナラのビジョンを伝える出品者イベントを開き、出品者コミュニティの形成にも力を入れた。イベントには30-40人が参加し、オープン後も継続的に開催していった。「ココナラがある社会はどういう社会になるか」というようなワールドカフェ形式のイベントも開いていったという。「綺麗にファンを形成できた」と南氏は振り返る。
ちなみにジャンルは19あるが、twitterやFacebook用の似顔絵や占いは「バイラル係数」が高く、すでに相場観もあるため購買しやすいと考え、立ち上げ時に特に注力したカテゴリーであったという。似顔絵や占いをフックにココナラに訪問してもらい、他のカテゴリーのも興味を持ってもらうという戦略を描きそれが功を奏した。
ライフネット式のストーリー・マーケティングに徹した
マーケティングは、当初はSEMに力を入れようとしていた。しかし、リスティング広告は単価が高すぎて効率が悪く、SEOもコンテンツがないと効いてこないということを、Cyta.jpの有安氏に相談していた中で気づいた。そこで、ライフネット方式の共感を軸にしたストーリー・マーケティングを軸に据えることを決めた。
南氏はライフネット生命のマーケターである中田氏の10万人に愛されるブランドを作る!を読み込み、共感を軸にしたマーケティング手法を研究した。必要な機能やサービスが既に揃っている現代においては、人を軸にしたサービス設計をし、ストーリーを伝え続けることが重要だと判断した。具体的にはこういう意識の元に施策を実行し、このような結果となった。
■意識
・中身が見えず、使ったことのない新しいサービスが拡めるには、語り部が必要である
・ココナラへの関係の有無にかかわらずイベントに多く出て、毎回3人の熱狂的なファンを作り、語り部を作る■施策
・顔が見える、正直である(業績数字などをできるだけ開示する)
・出品者向けにより丁寧な業績開示(動画での挨拶なども)
・行脚(どんなテーマでもいいので依頼があれば何かしら喋りに行く)
・イベントで配る大きな名刺:(エバンジェリスト育成?:参考URL)■結果
・共感を軸に獲得したユーザーは質が高く、そうしたユーザーが醸成する空気感がサイトの質の維持に大きく貢献した
・あらゆる施策の効果は3ヶ月後に現れる
⇒TVなどのマスメディアから引き合いがくるようになった
ライフネット流のマーケティング施策の分析は、本誌の「10万人に愛されるブランドを作る!」ライフネット生命保険のマーケティング手法図解という記事で解説しているが、施策の表がわかりやすいとの声もあったので、この記事にも貼っておく。
ココナラの主なユーザー属性:匿名ならではのニーズ強し
ココナラは出品者も購買者も実名匿名どちらでも使える世界観を構築したことにより、Facebookが流行れば流行るほどFacebookで満たせないような、昔ならmixiが解決していたようなニーズを満たすことができると考えている。
たとえば女性ユーザーは意外にも30代以降が多いようだ。30代の方が、独身、既婚者、それぞれがまわりの友人には相談できない悩みを抱えているからだろうと推測される。ココナラはそのようなユーザーにとって、匿名だからこそできる誰にもできない悩みを相談できる場にもなっている。一方で男性ユーザーは実務的に役立ちつつもコストパフォーマンスに自信を持ちにくいサービスである、コピーライティングやWebに関する相談の需要が強い。
リピーターも多いようで、月に10回以上何らかのサービスを購入するユーザーも少なくないという。累計で10回以上サービスを購入したユーザーは200人以上はいるそうだ。
蛇足:スタートアップに汎用的にいえそうな2つのこと
ココナラの立ち上げ事例を通し、南氏と話していく中で、日本のスタートアップシーンにおいて汎用的にいえそうなことが二つあった。
■1ライフネット式マーケは、ユーザー数10万人規模までは通用しそう
共感を軸にしたストーリー・マーケティングは、コンシューマー向けサービスであればユーザー数10万人くらいまでスケールさせるには良い手法ではないかということ。立ち上げ時には良質なファンを獲得することで、サイトの質を作ることもあり、予算もないし、サイト内にコンテンツが溜まらなければSEOも効かない。サービス立ち上げにライフネット式マーケティングをメソッドとして応用できるケースは少なくないかと思う。特にCtoCサービスにおいては、空気感が大事であり、質の高いユーザーがいる空気を作ることが重要であると南氏も指摘していた。
一方で、10万ユーザーを超えてくると、サイト内のコンテンツ資産を活かしたSEOがとても重要なフェーズになってくるであろう。
■2:mixiやヤフオクのカテゴリーを焼き直したサービスが多い
ココナラに限らず、最近のスタートアップはメガサイトのカテゴリーをバーティカルに取り出して、現代風の味付けをしたサービスが多い。国内ではmixiやヤフオクがその主な対象となるし、米国ではCraig’s ListやeBayが対象となることが多い。個人的にはとりわけmixiのコミュニティ機能はFacebookでも提供できなかった価値であり、この分野をバーティカルの現代風にアレンジしたビジネスにはチャンスがあると思っている。
同じことを昔どこかで書いた気もするが、それほどmixiのコミュニティ機能は価値が高かったといえるだろう。
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