伝えたくなるストーリーを提示するのがPRの仕事

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本誌では徹底して取材依頼を受け付けない方針です。「The Startupでうちのサービスを紹介して下さい」という依頼の仕方をすると確実に掲載されないと思って下さい。個人のメディアなので私が興味のあることしか書かないというスタンスです。と、Aboutにも明記しているのですがたまに見知らぬ人からのプレスリリースが来て辟易とします。

The Startupで実施してきた取材記事は全て私発案の独自企画によるものです。取材記事においては依頼されて書いたことはありません。と言いたいですが、3〜4回はありましたね。多分。一方、「こういう切り口の記事を読みたい」というリクエストは歓迎します。

他のメディアやライターのことはよく知りませんが、彼らの立場への想像と、私個人の考え方を掘り下げて、「メディアが取り上げたくなるようなネタ」とはどういうネタなのかを考えてみました。本稿はwebサービスのPR担当者に送る私なりのメディア攻略の赤本です。

大手メディアはニュース、個人メディアはオピニオン向き

メディア特性の違いを踏まえてライターと接するべき

まず大手メディアと個人メディアの性質の違いを押さえる必要があります。良識のある方なら当たり前に気づくはずですが、大手メディアはコンスタントにそれなりの数字が取れ、個人メディアは大手にはない切り口の記事で時に数字が取れることが見込めます。

大手メディアの知り合いの記者に話を聞くと、テック系メディアに関しては「サービスリリース」「資金調達」「ユーザー数の公表」などのニュース色の強いネタです。無謀にもこの「リリースネタ」で私も大手メディアとの戦い方に臨んだことも何度かありますが(リリースネタは情報解禁タイミングが引かれ、解禁後に各社がこぞってリリースする)結果は散々たるものです。

大手メディアにニュースネタでは勝てません。勝てる場合は速報性と網羅性がある時くらいで、多くの場合はリリース記事はどこも内容に大差ありません。記者も本当に取り上げたい場合と、付き合いで書いている場合の二種類があるでしょう。よって、個人メディアにリリースネタを持っていくのは得策とは思えません。リリースネタをサクッと書いて下さる心優しい個人メディアの方もいらっしゃいますが。そのリリースにファクト・インパクトがあれば大手メディアでは数字が取れます。

*勝った負けたの基準は「バズったか否か」とした。

自分が知りたいこと、誰かに伝えたくなることを書きたい

「書く」という行為は「誰かに何かを伝える」ことである。

自分が知りたいことであるか否かが、私が書くネタを判断する軸です。自分が知りたいことは、他の誰かが知りたい可能性も高いと思うからです。その上で、誰かに伝えたくなるようなサービスや人について書きたいと思っています。

伝えたくなるサービスや人を構成する要素は何か。純粋に共感できる、トレンドになっている、明らかなユーザーメリットがある、単純に好きだから。昨今の読者は日々情報の洪水を浴びているので、役に立たず面白くもないものは容赦なくスルーされます。微妙な広告臭でも嫌がる読者は多く、仮に読まれても「PR記事か…」と残念がられることもあります。

中にはPR記事を書いてくれる心優しい記者もいるでしょう。しかし、ただのPR記事を読者は求めていません。記者がその事象を本当に伝えたいと思っているか否かは、文章から熱量が伝わると思います。

消費される記事ではなく記憶に残る記事

「HBRのようなエッセンスが詰まったメディアにする」

これが最近策定したThe Startupのコンセプトです。たしかUmeki Salonで本誌の印象を聞いた際に出てきた言葉から頂きました。このコンセプトに至るまでに1年半かかりました。具体的には読者が思い出せるような印象に残る記事を提供し続けることです。誰か1人でも思い出せる記事を提供できれば最低限はクリアーです。もちろん多くの人が思い出せる記事の方が望ましいですが。

週刊誌的に多くの人に読まれて消費され、どこにでもあるようなコモディティネタは追いません。それほどのインパクトを残せているメディアはウェブに限らず少ないと個人的には思っており、それだけ印象に残っているのは私の好きなEsquireくらいです。厳密には、TVやラジオというマスメディアではなく、雑誌やブログの中では、という話になります。

ちなみにテクニカルな話をすると「記憶に残る記事」というのは「あの記事なんだっけ…」と探されやすい記事になり、検索流入が増えるという仕組みでもあったりします。結果的には「記憶に残る記事」の方が読まれて認知もされるので、そういう記事を書いてもらうことをPR担当にとっても狙えるとベストだと思います。

ちなみにこの種のコンセプト的な話は昔懐かしのブロガソンでも書きましたが(まったく読まれてないですがw)半年でコンセプトはここまで進化するものだなと感慨深く思いました。

PR担当者へ:記者が伝えたくなるストーリーを提示せよ

オフラインでも人に語りたくなるストーリーを伝える。

PR担当者には記者が伝えたくなるようなストーリーを提示してほしいと思います。既に注目されているサービスのリリース情報なら大手メディアの記者には刺さるでしょうが、そうではない場合が大多数です。まだ注目されていなくても、サービスが優れていて、時流にも合っているような場合は、記者は勝手に取り上げたくなるはずです。

いかにして人に伝えたくなるストーリーを語れるか。これがPRパーソンがメディア攻略の際に欠かせないポイントになるのではないでしょうか。サービスが実現する世界観、そのサービスの立ち上げ秘話やファウンダーの想いを魅力的にメディアに伝える。単純なリリースのファクトのみを伝えても注目されていない場合がほとんどだと思われますので。

最終的にはオフラインで誰かに話したくなるようなネタが強いと思います。オフラインでの話のネタにしてもらえそうな角度でのストーリーが望ましい。「俺、こんなの作ったぜ!聞いてくれよ!」と言っても貴方を知らない人は聞いてくれません。相手に興味を持ってもらえそうな話をする、相手の興味を調べた上で刺さりそうな提案をする。わりと普通のことですが「俺の話を聞け!」的な人が多いのが残念です。

認知向上の具体的施策が、伝えたくなるストーリーの提示

本稿は「伝えたくなるストーリーを提示するのがPRの仕事」とやや危険な断定口調でのタイトルとしました。

PRの一般的な仕事は「ポジティブなイメージでの認知向上」といえ、時に裏返すと「ネガティブなイメージは徹底的に排除する」という仕事もあるでしょうが。「ポジティブなイメージでの認知向上」を図るための具体的な施策が「伝えたくなるストーリーの提示」であると私は考えました。

見ず知らずの人にいきなり「書いてくれ!」メッセージを送りつけても、相手は「伝えたくなるストーリーだ」とは思えないでしょう。私のようにネガティブな意味で伝えたくなってしまうかもしれませんが。PR担当にはマーケティングマインドをお持ち頂きたいものです。

メディア視点で書いてみましたが、広報的な実務を今後やる機会も増えそうなので、自分へ向けての戒めとしても書き残しておきました。加えて広報には「強引さ」というのもかなり重要だと思います。オラオラされる、なんかまあ書いてみてもいいかなと思う時もあるのが記者心だったりもすると思います。

ということで 、The Starupに書いてくれって言わないで下さいね!

他メディアでの執筆に関しては、お仕事ですので積極的に引き受けます。

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