B Dash Camp 2017年3月のセッションレポートです。
セッション:最強ファンビジネスの作り方
パネラー(敬称略)
小室哲哉
前田裕二 SHOWROOM
中川悠介 アソビシステムモデレータ
宮澤弦 ヤフー
セッションの全てではなく、気になった点を掘り下げてお届けする。
アーティストが何もしなくても課金されることはあるのか?
とにかくライブで会場埋めたい。リピートが大事。友達を連れてきてもらう。できればライブの帰りにはファンクラブの用紙に名前を書いていってほしい。そうすれば継続的な繋がりを持てる。(小室氏)
B’Zの稲葉さんがまだメジャーになる前の時代にTMネットワークのライブに出ていた時期があったようです。平たく言うと、TMネットワークのライブだけど、何をやっても許されると。今日は歌えないけど、トークだけでもいいかな。とか、そういうことでもアーティストとファンが許される関係だった雰囲気があったようです。
その後、「太陽のKomachi Angel」をB’Zが発売した時、TMネットワークのファンクラブで紹介したら、9割のファンがCDを買ってくれたという。
この話を聞いて、私はファンビジネスというのは本質的には「演者が何もしなくてもファンというだけで課金が成立するか否か」が大切であると感じた。言い換えると以前本誌で紹介した、感情課金という概念に近い。
課金側の心理としては、そのアーティストの過去作品への信頼があり、たとえば今日参加したライブでアーティストが歌えなくなっても、「サービスが提供されてないじゃないか!」と怒ったりはしない。その前に長い年月をかけて、ファンとアーティストの間で信頼関係が築けているか否か。
むしろ、「今日歌えないとか、つらいね。大丈夫?」とアーティストの心理をねぎらうようなファンもいるであろう。コアファンであればあるほどに。おそらくAKBの中でもニッチなグループであればあるほど、この心理のファンの比率が高いと思う。
別の例でも解説すると、東京カレンダーの世界では、港区おじさんが港区女子に何の見返りも求めず、家賃を支払ってあげるという構図と似ている。港区女子も、ある意味ではファンビジネスなのである。
コアファンには手紙を書こう。エンタメビジネスの科学
上記の図をSHOWROOM前田氏はこう解説してくれた。
従来はDの象限のアイドルが多かったが、Aの象限でいかにファンと濃い密度を作れるかが大切で、AKBとかはこのAの象限から始まり、B→Cと伸びていった。
ファンと濃い密度を作る一例を挙げると、Twitterやyoutubeでファンのリアクションに対して、一つずつ丁寧に返信していくとか、そういうことの積み重ねだという。AKBでいうと、握手券とかに近い考え方かなと。
前田氏は小学校6年の時に、路上ライブで、どうすればファンのアテンションを引き、自分のファンになってもらい、マネタイズ出来るかという検証をしたことがあるという。初月300円程度の売上が、後々月10万円くらいの売上になったという。ビジネスとしての弾き語りを追求していたという。
SHOWROOMでは13の変数に分けて、各演者をデータ分析しており、綺麗な形の子は生き残り、ボコボコな子はあまり生き残らないという。(会場ではグラフが詳細項目が見えないように紹介された)
課金継続UUを重要KPIとしている。力がついてきた演者は、この数字が下がる時期があるようだ。新しいファンに目がいってしまい、既存ファンへのケアがおろそかになり、継続力が下がる。それを見て、既存ファンに対して手紙を書いてもらうとか、そういう施策を行っている。
エンタメビジネスは感性だけではなく、データ分析で再現性を狙う必要があると前田氏は考えているようだ。
私自身、オンラインサロンを5年近くやっているので、SHOWROOMのデータドリブンな考え方は非常に参考になった。サロンメンバー数は500名前後なので、Aの象限の演者といえよう。
私もサロンメンバーのコアファンには手紙を書くべきなのであろう。その手紙によって、LTVは2倍3倍になるのであれば、安いものである。実は手紙というのは、感情に訴えた非常に高いROIを見込みやすい施策なのだ。仮にそのことがわかっていたとしても、もらうと刺さるものである。
これは本日別記事でお届けした、次に来るインターネット:個人へのパワーシフトと、需要創造型サービスの中で紹介しているが、広告ではなくバイラルでグロースするという話に通じるものがある。
ファンビジネスのアウトプットはますます多様化する
アーティストは音楽に限らず、様々なアウトプットで「伝える」ことが、今後ますます重要になると思う(中川氏)
きゃりーぱみゅぱみゅなどのマネジメントを手がけるアソビシステムの中川氏からはこの言葉が印象に残った。
音楽アーティストの場合、CDやデータ音源を売ることにこだわらず、ライブやそれこそSHOWROOMでの露出など、様々なチャネルを駆使し、アウトプットを可変して、ファンにコンテンツを届けることが、非常に重要。
今後はどれだけ多くのチャネルでPDCAを回して、当てられるまでやり切れるアーティストが勝ちやすい時代ではないか。昔のような、TVドラマやTVCMのタイアップが決まればミリオンセラー!というような、方程式は存在しない。方程式の数が相当数増え、アーティストによって成功の方程式が異なる場合が90年代よりも多いといえよう。
偶像か身近な存在か?その行き来こそがファンビジネスの核
前田氏の4象限の話でいうと、CとBの行き来が重要であるという話が最後にあった。
これはたとえば宇多田ヒカルのようなCにいるアーティストが、twitterで一般人にリプライしていくとか、そういう動きのことを指しているのだと思う。
ファンにとっては高密度のほうが嬉しいに決まっているが、アーティストにとっては栽培マンのようなファンとの交流はだるいという心理もあるため、全てにリアクションすることはできないが、それでも少しリアクションする姿勢を取れるか否かが非常に大切だということであろう。
ざっくりですが、以上です。SHOWROOMのデータ分析手法は個人的にはかなりの衝撃を受けました。私もあのグラフで分析されたい…w