ライフネット生命保険はなぜこのタイミングで上場したのか?

Pocket

3/15、ライフネット生命保険(以下ライフネット)がIPOを果たした。メディア露出機会が多いこともあり、個人的に昔から注目していた企業。2006年10月の設立だが、ネットライフ企画時代の2008年の3月に私は「新卒採用はやっていないのですか?」と問い合わせたこともあったほど注目の企業であった。

未上場での132億円の資金調達はネットベンチャー業界に留まらず、あまりに有名な話。私はてっきりもう数年後に時価総額1,000億クラスで上場すると予想していたのだが、予想よりもかなり早いタイミングで赤字上場をし、初値も公募価格の1,000円を割った930円、3/15現在は時価総額は400億前後である。Facebookのように焦らして時価総額を釣り上げて上場する企業が多い中、なぜこのタイミングでの上場を踏み切ったのか。

結論としては事業成長のドライブを急ピッチで掛けにいく、かなり攻めのIPOであると推察できる。黒字化してからではタイミングが遅かったといえるのかもしれない。その根拠および今後の成長性を考察する。

先行投資による健全な赤字と流動性のあるBS

*ライフネットIRでは「売上」ではなく「経常収益」という表現になっている。経常費用の「売上原価」は保険料項目を足してTS独自で設定。

直近3年のPLによると2012/3Qで保険契約者数が10万件を突破したとのニュースもあり、事業上の数字は好調のようだ。赤字幅も縮小しているのと、ブランド力強化のための広告宣伝費の先行投資であると見れば健全であるといえる。

BS状況に関しては数字の表は割愛するが、現預金2億強、有価証券65億強の配分で、132億の資金調達の約半分を活かして主に国債や社債で運用しており、その運用益も売上に充当している。社債の詳しい明記はないが、大株主の社債である可能性もあるであろう。 有価証券を売却すればまだまだ余裕はあると考えられれ、資金的に余力がなくなったことによる今回のタイミングでの上場というわけではないということが読み図れる。

TVCMの投下量増加によるブランディング

東京IPOによると今回のIPOで約120億(訂正:厳密には公募77億、売出33億)を調達し、主な用途は「広告宣伝費や新規商品開発に充当する」とある。ライフネットのIR資料「成長可能性に関する説明資料」にもP24の中期戦略の骨子に「マーケティング」「オペレーション」「組織運営」に力を入れ、とりわけP25で「広さと深みを両立させるマーケティング戦略」とあり、特にTVCMなどのマスマーケティングに資金を投下を増やすことが想定される。

TVCMは中途半端な出稿量よりもある程度のボリュームの方が効果があるようだ。確かな情報筋によると某ソーシャルゲームは、中途半端な量で出稿するよりもある程度のボリュームを投下した方がCPAが良い結果になるようだ。生命保険も大手のTVCMを見かける機会も多く、マスでの認知を上げ、契約者を獲得するにはTVCMとの相性は良いであろう。ドリランド並の量のライフネットCMを見かける日も遠くないかもしれない。

今回の120億の資金調達を元にTVCM投下量を増やし、一気にティッピングポイントを超えるというマーケティング戦略のための攻めのIPOであったともいえる。ここ1,2年でキャッシュアウトが増えたとしても、保険料がストック型のモデルであるため、契約者数が伸びさえすれば売上は安定し、利益も安定的に見込めるようになるであろう。

マーケティングエクセレントなベンチャーとしても名高いライフネットであるが、副社長の岩瀬氏と常務取締役マーケティング担当の中田氏のマーケの話は、プレジデントの記事が興味深かったのでリンクを貼っておく。

多様な株主の観点で見る今回のIPO

上記の観点からみると事業にアクセルを掛けるための攻めのIPOである。(大体のベンチャーはそうなのだろうが、特にライフネットに関しては赤字にも関わらず上場するというあたり、この辺の気合いを感じた)株主からすると上場時の時価総額が高い方がキャピタルゲインを得られやすいため、未上場時に132億調達したにも関わらず、上場時時価総額が400億を切るというのは資本効率があまり芳しくないという見方もできる。

事業会社の大株主が多い点が特徴的といえ、事業会社が上場後すぐに売却するとは考えにくいか、一点気になるのはマネックスと並ぶ最大株主のあすかDBJがファンドとして利益回収を図りたかったか否かという点だ。ファンドの組成時期や利益回収目的のファンドか否かの裏取りはできなかったが、この点は引っ掛かる。

事業会社のように中長期的に保有してシナジーを追求したい、VCのように売却益が目的であるなど、各株主によってスタンスは異なる。今後の資本構成の変化の有無に注目したい。次項でライフネットの投資判断をbuyとする理由を述べるが、確実な値上がりが見込め、上場のタイミングやロックアップが切れた3ヶ月後でも、上記のようなファンド満期による利益確定の動きがない限りは、既存株主もしばらく保有すると思われる。むしろ保有しておかないと既存株主にとっては損だろう。

ライフネットの中期的な投資判断をbuyとする理由

①:保険料はストック型の事業モデル

手数料ビジネスであり(ちなみにライフネットは保険料原価と手数料を開示している)契約者数が伸びれば月額課金による安定的な収益が見込めるストック型のビジネスモデルである。この点はソーシャルゲームなどの一時的な課金ビジネスよりよほど安定感がある。一時的にマーケティング費用を大量に投下したとしても順調に契約者数が伸びればLTV(ライフタイムバリュー)はかなり高いと推測され、しっかりと投資回収できる。

②:営業マン不要の低コスト構造

ネットによるダイレクト販売のため、既存の営業マンを必要とする保険会社よりも安価でサービスを提供できるという点は以前からセールストークとして謳っていましたが、ユーザーメリットがあるだけでなく、契約者数が拡大していけば構造的にPLインパクトが大きい。今は赤字だが、契約者数が増えれば、競合と比べて営業利益率が高くなるのは目に見えている。

③:将来の事業価値に対する割安感

赤字決算という目先の数字に市場の投資家は踊らされることが予測されるため、初値も公募割れとなった。①と②の理由、および資金調達による広告投下で契約者数を10万人から一気に伸ばしにいくフェーズであり、
契約者数の伸びが安定的な収益をもたらし、スケールによりじわじわと効く低コスト構造により営業利益率が一気に伸びる可能性を秘めている。
広告費増加により、2012年/2013年決算での黒字転換はないかもしれないが、それ以降驚異的な伸びを示すことが想定される。よって将来の事業価値に対して割安感があるといえる。

とても堅いビジネスであり、契約者数さえ伸びればほぼ上手く自転する。その契約者数を伸ばす鍵となるのがマーケティングである。ライフネットのマーケティング力で契約者数を伸ばし続けることは可能であると判断でき、その軍資金をIPOで得た。よって2-3年の中期での投資判断は明らかにbuyといえる。今後のライフネットにはますます目が離せない。



Pocket

コメントを投稿する

「ライフネット生命保険はなぜこのタイミングで上場したのか?」に対してのコメントをどうぞ!