B Dash Camp2019 fallのレポートです。このセッション、個人的に興味ありました。
また興味深い点のみのご紹介になりますが。
セッション名:IPOのトレンドと今後の株式市場動向
登壇者:敬称略
宇壽山図南 東京証券取引所
齋藤剛 アクサ・インベストメント・マネージャーズ
阪井優 SMBC日興証券
永見世央 ラクスルモデレーター:
村田祐介 インキュベイトファンド
赤字企業のIPO:米国では80%あるが、日本では4%
米国では80年代は24%、2018年は81%が赤字IPOとなっている。国内では赤字IPOの比率は4%程度しかない。
ちなみに東証の上場レギュレーション改革議論で、赤字企業の上場に関しては下記の論点がある。
赤字企業の上場は、売上利益実績や黒字化に至るまでの見通しの取引所への提示を不要とし、一定の条件を満たす投資家による投資コミットメント、主幹事証券会社によるコミットメント、第三者専門委員会似寄る評価などを活用したプロセスの導入に向けた検討(が早急に対応すべき事項として挙げられている)
この検討が進むと、赤字上場しやすくなるため、スタートアップには追い風になりそうです。
バリュエーションロジックに関しては
成長株に投資する人は、PERやPSRを気にしていなくて、何年後にどれくらい大きくなっているかを見ているので、逆算で見ている。5年後のPERで見たりしている。マネーフォワード、ラクスルのIPOまではPSRを使っていなくて、割り戻してPERで考えている場合がほとんどだった。(斎藤)
斎藤さんはPSRバリュエーションは危険だ!的なニュアンスをFacebookで仰っていた気がして、私も最近特にSaaSはPSRバリュエーションに慣れてきてしまっているので、5年後から割り戻してPER的なロジックも再考したいと思います。
国内機関投資家は3年後、海外機関投資家は5年後まで見る場合が多いようです。
上場時に赤字であることは何も問題なくて、上場から何年後にどれくらいの利益を出すのか(粗利でも良い)という期待値コントロールが大切だと感じます。
公募は個人投資家に8割程度割り当てられる「風潮」がある
公募の割り当てに関して。私は知らなかったのですが、永見さん曰く、公募で8割程度個人投資家に割り当てられる「風潮」があるらしく、もっと機関投資家比率を上げるべきだという意見がありました。(ラクスルの実績は、公募時に個人:機関で5:5だったようです)
個人投資家への割り当てが多めな理由は、IPO株を餌にしてリテール取引を活発化させたいのと、機関投資家が公募段階で欲しいという需要が決して多くないからなのではないかと感じました。
現に「リテール部門に儲けさせないといけないから、リテールと機関で8:2の公募分配比率にしてくれ」と証券会社から言われることもあるようですね。ふざけていますね。発行体が証券会社の営業道具にされるというのは、よろしくないですね。
一方で、時価総額二桁億円だとロング前提の機関投資家は規模が小さくて買えない。あとは、マーケットが悪い時は機関投資家の需要が小さくなりやすい。機関投資家の需要が低いため、結果的に個人に割り当てられがちともいえます。
ただ、個人投資家はIPOで値上げりすればすぐ売りたい場合も多そうなので、発行体としては公募時に機関投資家比率を高められた方が上場後の株価が安定しやすいといえるでしょう。
海外機関投資家から投資を受けるために
下記はラクスルの「海外機関投資家から投資を受けるために」スライドの抜粋です。
・ストラクチャー
海外投資家を招聘できるオファリングストラクチャー
一定規模の時価総額と流動性を担保した上でのIPO実施
いわゆるオーバーハング懸念の解消・未上場時からのコミュニケーション
エクイティストーリーの作り込み
国内外において未上場時から投資家とのコミュニケーション
セルサイドアナリストによるレポート発行
英語による情報提供・主幹事証券会社体制
上記を可能とする証券会社からのコミットメントと支援(特に海外投資家取り組みへのサポート)
複数の主幹事起用による相互牽制機能の確率
話を聞けば聞くほど、永見さんクラスのCFOは未上場スタートアップには本当にいないんだろうなと感じました。神CFOですね。
おそらくこのクラスのCFOを採用できる企業はほとんどないと思うので、メディアなどが代わりにノウハウを聞き出して、上手い形で多くの人に伝えていけると良いのかもしれません。
上場後にアタフタ対応するよりは、上場前の準備が非常に大事なのだろうなと感じました。
また、永見さんからはこのようなコメントもありました。
市場に対して期待値コントロールするのが経営者の仕事。期待値を上げる場合は十字架を背負うを思った方が良い。
下手に期待値だけ上げて、下方修正していく企業もあるので、下方修正を出すくらいなら、最初から期待値上げすぎない方が懸命だなと感じます。
セッション全体を聞くと、テーマである「今後の株式市場動向」についてはあまり多くを割かれなかった印象がありますが、東証のレギュレーション改革が進むと、赤字上場はしやすくなる。
上場後は特に海外の長期保有前提の機関投資家を早めに株主にできると株価も安定しやすそうという話ですが、ラクスルクラスの資本政策クオリティができている近年のIPO企業は非常に少なそう。
斎藤さんのような機関投資家からも、どういうIPO企業を応援しやすいかとか、お話をお聞きしてみたいですね。
参考資料として、金融審議会「市場構造専門グループ」のラクスル提出資料を貼っておきます。