8つのIoTサービス分野、各々のその必要性を見極めよう

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おそらく、本誌でIoTにまともに言及するのは初ではないかと思う。トレンドになっていながらも、「動画」や「キュレーションメディア」と比べて、私にとって身近な領域ではないので、避けてきたと言っても過言ではない。

だが、本誌調査の範囲内だけでも、IoTの億単位調達が10社前後と出揃ってきたため、スタートアップ市場としてもひとつのジャンルとして確立しつつあると判断し、はじめてIoTに特化した記事を書いてみた。

読者の皆さんであればご存知の通り、私は文系人間のため、技術的な細かい点はあまりわからない。どの企業のIoT技術が優れているかという点は見抜けないのだが、どの企業が狙っているどの市場にIoTで切り込む価値があり、事業化が期待できそうか、という観点で本稿をお届けする。

☆今回の調査対象企業:12社
:右の数字はざっくりとした推定累計資金調達額

ソラコム(モバイル通信):37億
WHILL(車椅子):30億
D Free(排便デバイス):6.2億
ウフル(データ連携プラットフォーム):5.2億
フォトシンス(スマートロック):4.5億
KAMARQ(家具):3.5億
Qrio(スマートロック):3.3億
Secual(ホームセキュリティ):1.5億
アトモフ(デジタル窓):1億
スカイデスク(着脱式センサデバイス):1億
SELTECH(セキュリティ):1億
サイマックス(排便):非公開

まずは「いつもの図」からご覧いただきたい。

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上記の12社は、「だいたい」上記の図のいずれかにプロットされる。私の読みでは、IoTサービスは左上の象限が最も勝率が高いと感じている。それでは各ジャンルを紐解いてみよう。

必要性が高く、コストダウンにつながる5つのIoT領域

①:モバイル通信

日本初IoTの雄といえば、ソラコムだろうか。「モバイル通信のクラウド化」とは、わかりやすく必要性が高く、コストダウンにつながる。技術的な面は私にはわからないが、これがグローバルで広く使われるようになれば、High-Valuationを正当化するだけの価値になるであろう。

②:排便デバイス

ここのプレイヤー「D Freeとサイマックス。特にD Freeeの「うんこが漏れない世界を」というビジョンは素晴らしい。排便予知デバイスは、介護のコストダウンを実現すると考え、明らかに必要性も高いため、有望な分野である。B2Bで介護施設に導入などが進むと良いだろう。

「介護」ということで近接領域に、車椅子のWHILLがある。こちらも調達額的には日本を代表するIoT企業だが、一脚99万円の車椅子がどれほど売れるのかは、私は懐疑的だ。車椅子ユーザーの負は確実に改善されるのだろうが、企業や介護する人にとっては「コストダウンなのか」という点は、疑わしい。

③:センサデバイス

B2B利用メインであろうが、スカイディスクが提供する「GINGA Box」では、農業、流通業、環境の3分野で、温湿度、加速度、照度などをセンシングして調節するサービスだという。例えば、農家にとってはコストダウン効果が見込め、主には大規模な施設を持つ企業に対して、ワークするデバイスであると考える。大企業向け営業が肝と考えたからか、アーキタイプを株主として迎えている点も、正しいように思える。

④:スマートロック

スマホで開ける鍵。とてもわかりやすい価値ではある。一人暮らしで鍵を落として帰宅してしまった時の、やってしまった感といったらない。鍵の複製には2万円ほどかかり、私も学生時代複製したことがある。

しかし、既存の物件は鍵のタイプが多様で、必ずしもスマートロックに対応できるとは限らないようだ。むしろ、対応できる形態の鍵の方が少ないという。新築物件にスマートロックは向いていて、デベロッパーに導入させる価値はあるが、既存市場の攻略が難しい。そこで、Qrioなどは、スマホなどなくすと困るものにつけておく、「Qrio Smart Tag」をリリースし、そっちの市場を狙いに行ったのではないか?と推測する。

スマートロックの主要プレイヤーは、フォトシンスのAkerunとQrio。

⑤:ホームセキュリティ

わかりやすく言えば、セコムのコストダウンか。「一人暮らしの女性でも安心に」という訴求からも、そういう需要か。工事不要で窓に貼るだけという点では、既存物件に対してはスマートロックほどハードルは高くない。個人向けでもセンサーやゲートウェイが4,000-6,000円で売られており、手軽に買える価格ではある。

しかし、必要性が高いか?というと、この象限の他のサービスほどではなく、少なくともスマートホームの観点で言うと、スマートロックの方が必要性が高いと思う。タワーマンションなどで個人で使う理由もあまり思いつかず(私はユーザーとしていらないと思った)法人利用でセコムのシェアを奪えるか、の一点に尽きる気もしている。

必要性が低く、付加価値創造型の3つのIoT領域

続いて右下の象限。

①:時計

今回の対象調査企業群に含んでいないが、ヴェルトという企業からスマートウォッチが出ており、同社に対してアコード・ベンチャーズとCAVが出資している。同社の狙いは「スマートウォッチ」よりは「回路」のOEMにあると見るが。

本誌読者であれば、Apple Watchユーザーが少しいるかもしれないが、現段階においてスマートウォッチは一般人の生活において必ずしも必要性の高いものではない。スマホに来る通知を腕時計に来るようにするとか、どれだけネット中毒者なんだよという感じだ。

スマートウォッチはその狭い画面上ゆえに、大した操作もできない。よって、スマートウォッチ自体、ただのおもちゃの域を出ず、現状においてはApple Watchも成功とはいえないだろうし、スマートフォンのように革命的なプロダクトに今後なるとも思えない。

ちなみにもう少し拡張して「ウェアラブルデバイス」とすると、VRとかもIoTに入ってきますね。VRはそれはそれで市場が大きそうなので、本稿では触れません。

②:家具

ここのメインプレイヤーはKAMARQだ。「音の出る机」などをリリースしているが、冷静に考えると、決して必要性が高いプロダクトではない。デザイナーがamadana出身ということで、デザインの力でコモディティ・プロダクトを売ってきた実績から、(私もamadanaの電卓を新卒時に使っていた)失敗するとは言い切れないが、「音の出るテーブル」とか、家具とIoTという領域を、どれだけのユーザーが欲するのか。必要性が高くはなく、趣味の領域であり、難易度は高いと私は考える。

③:デジタル窓

家具よりもさらに必要性が低そうだったのが、アトモフの「デジタル窓」だ。初回生産は完売とのことだが、景色が変わるだけの窓って必要なのだろうか…趣味的プロダクトとして、どれだけ売れるのか。クラウドファンディングの域を出ないレベルだと思うのだが…

以上の2つの象限にプロットできなかったものとして、ウフルのようなデータ連携プラットフォームサービスがある。IoTが本格普及した際に、こういった分析サービスの需要は高まる。IoTの普及具合にグロースが紐づく事業であろう。

IoTサービスの資金調達と資本政策:基本はM&A

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各分野を一通りみたが、IoTの資金調達や資本政策はどういったものが適切なのだろうか。

多いのが、まずプロトタイプをクラウドファンディングに公開して、需要があるかをテストマーケティングするケースだ。これはリスクも低いため、さほど問題はないように思える。

クラウドファンディングで反応が良かったIoTサービスが、VCからの資金調達を試み、実際に実現するケースも出てきている。しかし、IoTサービスのEXITプランはなんであろうか?

IoTサービスでのIPOは相当B2Bでスケールしない限りは規模感として難しいように思える。想定される主要なマネタイズは、幅広い企業からの月額課金や従量課金。その点を満たすのはソラコムである。(主には従量課金)

DFreeはReady for?を見ると買い切り型に見えるが、買い切り型だとマネタイズに限界がある。スマートロックも同様だ。運用型で月額に持ち込みたいところ。マネタイズポテンシャルを見ると、「モバイル通信のクラウド化」のソラコムが抜きん出ている気がする。

IoT関連サービスの多くが「モノ」であるがゆえ、製造コストがかかる。大手メーカーが新規開発できなかったプロダクトを生み出し、ソニーなどの大手メーカーに早めの段階で売却するのが資本政策上は得策であり、売却後に大企業の資本力を生かした、製造のコストダウンと、プロモーションコストをかけてスケールを狙うというのが、そのIoTサービス普及に最適な戦略ではないかと思う。

その点、QrioはWiLとソニーのジョイントベンチャーということで、ソニーへの売却も睨んだ(というかファンドとして大企業の新規事業育成も担うので元の業務の一環なのか)設計となっており、抜け目がない。

よって、IoT企業で2,3社程度は2018年までに国内でM&Aが起きると本誌では予想する。IPOはあるならソラコムの一択。

ちなみに、2016年7月までのVCのIoTへの投資状況を見ると、ネット系の主要VCであるGCPやB Dashの投資案件は私が知る限りでは見当たりません。一方で、ジャフコはフォトシンスに、ニッセイはスカイディスクに張っています。ピュアなネット系VCが張るのには、あまり相性が良くなく、事業会社による投資の方が意味がありそうですね。

以上です。IoTは「センサーデバイス」「クラウド」「AI」あたりが密接に絡む領域で、IoT研究に際しては、IoT Newsが非常に役立ちました。TheStartupでは今後も滅多にIoTには触れないので、IoT関連はそちらの購読をお勧めします。

個人的には冷蔵庫の中にあるモノを感知するデバイスとかはニーズあるし、そのうちクックパッドが買収したそうなプロダクトだなと思っています。



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