M&Aのその後の検証記事を見かけたことがなかったので。
TheStartup開始後の2011年1月から2014年12月までに買収されたネット企業20社を調査し、主に決算公告情報をインターネット上から拾えた企業15社に絞り、そのPMIの良し悪しを本稿で検証します。各社の直近決算の利益剰余金と当期利益及び定性評価から、PMIの成否を考えていきます。
大前提としてですが、M&A後のPMIでは定量面定性面両方での評価があって然るべきかと思いますし、PMIが成功したか否かを判断するのは買収側の話であり、第三者のメディアが勝手に「このPMIは成功だ!」とか決めつけるべきではないのでしょう。10億円かけて買収した企業がその後利益をほとんど出せなかったが、被買収企業のCEOが買収企業の経営陣として参画し、その後業績を伸ばした。そういう例は成功と考えてよいのでしょう。
第三者のメディアが定性判断をするのは難しく、推測の域を出ません。しかしながら、買収後に積み上げるであろう利益額と買収額を天秤にかければ、
定量的な良し悪しというのは数字である程度判断できるのではないか。
そんな大前提を理解して頂いた上で、読み進めていただきたい。
*クリックすると拡大表示します。PCから見たほうが見やすいでしょう。
注記1:データ不足により、ナターシャ、コーチ・ユナイテッド、ブランケット、エンタークルーズ、ネイキッドテクノロジーは割愛。
注記2:調査対象は5億以上の買収案件であり、ソーシャルランチやカマドは5億未満と仮定し、リストから除外。
注記3:利益剰余金や当期利益額はネットから拾えた決算公告より引用
注記4:「直近決算」は買収後から直近で確認できた決算までの期間を指す
PMIの成否は3割と言われる中で、定量面では15社中5社は成功するのではないかというのが本誌判断です。定量判断ではガチガチに考えるのではあれば、買収後の当期利益の積み上げが買収額を上回ったかというのが最もコンサバな指標でしょうが、営業利益の積み上げでもよいのではと。なんとなくの感覚値に過ぎないのですが、買収額の半分以上の営業利益の積み上げがあれば、定性評価も鑑みて、そこそこの成功といえるのではと。
PMI検証において買収から年月が経っているほうが成否の確からしさの確実性は上がり、全然ダメだなという場合は減損処理をしたりするわけです。買収後から半年から1年でのPMI検証はさほど意味がないように思えますが、そこは業界情報を鑑みた上で本誌独自の解釈をご紹介します。個別案件を時系列で見ていきましょう。
☆1:アトランティス ◯
スマホアドネットワークでGREEに買収された同社。2014年決算時には利益剰余金17億まで積み上げており、22億での買収案件に対して利益剰余金でそこまで積み上げ切れているのは定量的には十分な成功といえるでしょう。
☆2:ノボット ×
同じくスマホアドネットワークでmedibaが買収。その後medibaが吸収合併します。買収後の1年半ではようやく利益剰余金は0.1億。吸収合併後はトラッキングが難しく、ノボットのアドネットワークがめちゃくちゃグロースに寄与したよという話も聞いたことがなく、定量的にはアトランティスと比べるとこちらのPMIは相対的にはイマイチだっといえるかもしれません。
☆3:クロコス 定量× 定性◯
もはや何の会社だったのかもよく覚えていないですが、この案件をきっかけにyahooの経営陣に小澤さんがジョインしており、そのタレントバイの効果を考えると定性面でPMIのインパクトがあったと判断できると思います。2014年11月にyahooが吸収合併。
☆4:インブルー ◯
ソシャゲ買収合戦で一番早く買収された同社。買収価格は15億円という報道もあり、2013年12月時点では利益剰余金は6.3億までの積み上げ。2015年3月にgloopsが吸収合併しますが、2014年と2015年にも利益は積み上げていると本誌の定性ヒアリングの感覚値では想定され、よって定量面ではPMIは成功したのではないかと判断する。
☆5:コミュニティファクトリー ?
写真アプリDECOPICなどスマホアプリの雄だった同社。最近Snapeeeが閉鎖したニュースもあり、振り返るとよいタイミングで売却しています。同社の松本CEOがヤフーのアプリ室長的な役割を果たし、女性向けキュレーションメディア「TRILL」を立ち上げて、それなりにグロースしているらしいという情報も耳にします。2014年3月決算の当期利益は1.93億出ており、その後2015年1月にyahooが吸収合併。トラッキングしにくく、定量的な回収ができたかは判断保留とします。TRILLが利益出すと仮定すれば、成功といえるのかも。
☆6:gloops ×
10億以上の当期利益を出していて黒字ではあるものの、ネクソンによる365億買収には見合わず、2016年5月に243億の減損を発表。しかし、Umeki Salonで某ゲーム企業経営者曰く「当時の勢いは凄かった。ネイティヴシフトが予想以上に早かった。当時は取るに値したリスクだったと思う」とのこと。gloopsは買収時点の2012年6月期は売上約240億営業利益約60億だったが、その後はそれ以上には伸びて行かず、将来的に期待できないということでの減損となっているようだ。
・ネクソン、子会社gloopsなどの減損損失として243億円の損失を計上
☆7:ポケラボ ×
こちらも同様。下記の参考記事によると、2014年は売上が60億まで伸びたが、買収後一度も黒字に転じたことはなかった。利益剰余金も18億の赤字に膨らんでおり、gloopsに関しては営業利益60億出ていた企業の将来性を期待して365億で買収するというのは意味がわかるが、ポケラボは一体何が魅力で138億で買収したのかは、ゲーム業界素人の筆者には理解しがたい。
ポケラボCEOの前田氏がGREEの取締役となっており、タレントバイの側面としては少し機能したのかもしれないが、138億投じておきながら一度も黒字転換せず90億減損というのは、今回対象にした15社の中ではワーストの案件といえるのではないか。
☆8:カービュー ?
これはスタートアップ企業の買収とは全然趣が違うのだが、一応リストアップした。yahooによる52%買収であり、換算するとカービューの買収時点の時価総額は約60億。2014年10-12月にyahooがTOBを行い、2015年3月にカービューは上場廃止。yahooの完全子会社化し、96.65%を保有。上場廃止直前のIRから逆算すると、2015年3月期の当期利益は6億円程度か。
カービューは1996年創立と歴史ある企業であり、利益剰余金も28億まで積み上がっていた。ざっくりした計算だが60億で96%取得で利益剰余金28億あればその後事業で30億の当期利益を積み上げていけば良い。TOB時の当期利益6億程度出ていれば、4-5年で30億程度積み上げるのは十分可能ではないだろうか。とはいえ不明瞭な点もあるので、判断保留とした。
☆9:スケールアウト ◯
アドテク+B Dash=KDDIの法則、な案件。買収後1年半で2.1億の当期利益を出しており、2015年11月からSupershipに統合しているが、その統合後も同社の業績が牽引しているという説があり、定量的な回収は十分可能。PMIでの満足度は高い案件になっているだろう。
☆10:スポットライト 定量× 定性?
O2Oアプリ・スマポ。楽天による買収だが、PMIでも赤字を垂れ流し、利益剰余金は9億の赤字に。直近当期損益も1.4億の赤字。同社ではスマポのノウハウから「楽天チェック」をローンチ。店舗に来店するだけで楽天ポイントが貯まるというサービスであり、楽天チェック自体での収益インパクトは薄いものの、楽天経済圏でユーザーをグリップするための施策としては効果があるのではないか。楽天ポイントを積み上げることで楽天ユーザーの購買促進につながり、間接的な効果が出ているのでは。
とはいえどれくらい効果が出ているのかは外からは判断しきれないため、定性的には判断保留とした。定量的には赤字掘り続けていて、単体で利益がすごく上がるものでもないと判断し、回収不能。そもそも、最初から定量回収は狙ってない可能性が高いですよね。楽天経済圏に間接効果あれば良いよと。
☆11:リジョブ ◯
先日お届けしたM&AとPMIが凄そうなじげんの案件。買収後1年目で当期利益1.8億出ている。2016年3月期においてもじげんの決算発表内でリジョブ単体の数字への言及はないが、全体の業績が伸びており、リジョブも同様に伸びていると思われる。
2015年度のじげんの当期利益におけるリジョブ比率は25%であり、それを2016年にも適用すると2.3億。来年度以降も毎年1億ずつ程度積み上げていけば買収後4年での当期利益の積み上げは10億を超えてくる。堅調に推移していくであろうと仮定し、定量的なPMIは成功すると本誌では予測する。
☆12:iemo 定量× 定性◯
ペロリとの同時買収で買収価格15億と推測されているが、DeNAパレットのMAUや売上牽引はほぼMERYであるともいわれており、ターゲットとする市場からもiemoが単体でそれなりの利益を出していく(3年程度で当期利益10億積み上げる)のは難しいと予想する。
DeNAの決算資料では2016年下期の黒字転換、2017年中の四半期利益10億を目指すとある。よって2017年通期の営業利益を仮に30億程度と置き、当期利益18億。その中でのiemo比率は15%程度と仮定すると2.7億。買収3年目で2.7億とすると定量的にはiemo単体で見ると回収できるとは言い難い。
しかし、iemo買収がなければペロリ買収もなかったといわれており、DeNAパレット軍を形成した村田マリ氏を囲い込んだというタレントバイで定性面では十分意味があった案件ではないかと思われる。yahooにおけるクロコスのような位置付けだ。
☆13:ペロリ ◯
上記のiemoと同様にDeNA決算資料からブレイクダウンすると、DeNAパレットの売上利益の50%がペロリ関連と見ると、2017年中のペロリの当期利益は10億程度見込めるかもしれない。TVCMも打っており、グロースの兆しが十二分に見えることからも、ペロリにおいては定量面で十分PMIが成功する兆しがあるといえるだろう。
☆14:nanapi ×
買収半年後の決算では当期1.28億の赤字。2015年11月にはSupershipに統合となったが、77億と言われる巨額買収額を回収できるかというか、そもそも当期利益で5-10億程度出せることがあるのかに疑問が残る。nanapiやanswerが凄まじくスケールしており、マネタイズの香りがするという話も耳にしたことはなく、来年くらいには減損されているのかもしれない。買収当時、その買収額に対して理解できなかったが、その感覚は正常だったのではないかと思われる。タレントバイにしてはさすがに高すぎたのでは。
☆15:セカイエ ?
買収後半年では当期2.6億の赤字となっているが、買収額も13億とさほど大きくもなく、GREEの決算資料でも提供するリフォームのリノコの受注件数が堅調に伸びており、FY2018では100億円規模の受注を目指すとある。マッチングプラットフォームなので、100億規模の取引になった時、手数料率約10%と仮定してで10億の売上。そこからコストもろもろを引くと、そこまで利益が残らない気も。
リフォームは国内で10兆円市場に成長するともいわれている。米国ではAmazon home servicesという小さな工務店の受注プラットフォームが存在し、リノコの市場と被る。Amazon hone servicesが日本進出してきたら…どうなるのだろうか。2018年の受注額100億程度では定量的な回収の道のりは比較的遠いかも。
以上です。冒頭でも述べましたが、勘違いされないように繰り返し主張しておきますと、PMIなど買収した当該事業での利益回収よりも、買収企業のグループ全体に対する定性的なインパクトが大事だとか、そういう意見があることも重々承知ですし、否定もしません。ただし、定量面の成否を無視して良いということにはならないと思います。定性面でも定量面でも共によかったという案件が、ベストなPMIなのでは。
買収価格もそこまで高くなく、PMIが機能していそうな案件として印象に残ったのは、今回の調査対象15社の中では、アトランティスとスケールアウトでした。2015年の案件に関してはチケットキャンプやエウレカなどの100億越えの案件があります。過去の100億越え案件、今回でいうgloopsとポケラボは大きな減損を出しているので、減損リスクはありつつも、どのようなPMIとなっていくかまた機会があれば検証したいと思います。
尚、TheStartupでは上場企業の買収案件のソーシングならびに売却希望案件のアドバイザリー業務を行っております。売却以降のある企業情報や買収案件のソーシングを担当してくださいというご依頼、お待ちしております。FacebookでYuhei Umeki宛にご連絡ください。