今まで本誌では敢えて触れなかった音楽ストリーミングサービス。ここ数ヶ月で一気に動いた印象ですが、意識の高い本誌の読者のような方から見るとApple Musicの圧勝の模様。しかし、意外に筆者の周りではAWAユーザーも多く、本誌でいういわゆる栽培マンユーザー(情弱なマス)から支持されている印象です。TVCMは栽培マンに如実に効くというのが筆者の仮説。
2015年8月10日からLINE MUSICは一足先に有料化へ移行。世間では有料化していけば速攻で優劣が決まってしまうとこの市場では言われている。ユーザーに支持され有料会員数と売上を伸ばすことに注目されているが、コスト構造に着目すると、そこで勝負あったに見えてしまう。聞けば至極単純な話ではあるが、本稿ではコスト構造に着目したい。
Apple Musicが圧倒的に有利。ギリLINE MUSICが対抗?
売上原価となるレコード会社各社への支払いは細かくいえば原資となる売上から再生回数×いくらなどが配分されたり、場合によってはミニマムいくらの仕入れ費用を払うなどの契約があるかもしれない。ここは各社さほど変わらないと仮定し、売上原価は一律50%とした。
アプリで展開する場合は、AppleとGoogleがプラットフォーム手数料を取られないため(iOSかAndroidでの提供)コスト構造的には圧倒的に優位。よって、最もApple Musicが利益が出やすい構造であることは明らかだ。
次にLINE MUSICとAWAの比較だが、LINE MUSICはLINEという強力なプラットフォームを有しており、そこからのユーザー獲得が見込める。サイバーエージェントのAWAはAmebaを有しているが、Ameba自体のプラットフォーム力が低下しているのと、LINEのように同ブランド上に様々なサービスを置いてシナジーを加速させるようには見えない。両社とも序盤からTVCMを乱打するパワープレーとなっているが、LINE MUSICとAWAの戦争は、LINEとAmebaのプラットフォームの地力がそのまま反映すると思われる。
Apple MUSICが圧倒的に有利だが、対抗しうるならLINE MUSICというのが「コスト構造上の」本誌の見解だ。
そもそも音楽ストリーミングサービスは利益出るのか
先行者の海外のSpotifyは爆速で絶賛成長中ですが、赤字幅も絶賛拡大中とのことです。
参考記事:Spotify、2014年の売上高がついに10億ユーロを超える。音楽配信で攻勢続くも損失は拡大
直近では有料会員数2,000万人突破という発表もあり、2014年の売上10.8億ユーロを上回るペースは明らか。2014年の純損失は1.65億ユーロだったようだ。直近は広告宣伝費に投下しているかわからないが、有料会員数がこれだけグロースすれば、広告宣伝費を絞れば利益額は確保しやすくなる。だが、コンテンツ仕入れの原価率が50%のままだと、プラットフォーム手数料も相まって、粗利は20%程度のまま。
これだけスケールすればレコード会社への交渉力も高まるので、仕入れ原価率は30-40%程度まで下げられる可能性があり、そうすれば利益がもう少し出る。しかし、この音楽ストリーミングサービスモデルは、営業利益率30%を超えるような高粗利ビジネスではなく、スケールを前提とした「利益額」を確保するモデルである。Apple Musicはともかく、LINE MUSICとAWAは相当スケールしないと単体でそれなりの利益額を確保できない。
尚、Spotifyは2015年6月の直近ラウンドでは時価総額約1兆円で約650億を調達している。本誌ではSpotifyについて2013年6月の取り上げており、その際のValuationは32億ドル(3,500億程度)だった。
参考記事:日本上陸が噂されるSpotifyの事業数値と日本の音楽コンテンツ市場
2013年から噂されていたわけですが、今年は本当に来るのかなあ。
LINE MUSICがマネタイズ開始。上々な滑り出しか?
2015年8月10日からLINE MUSICは月額1,080円(学割600円)でマネタイズを開始。App Storeのトップセールスランキングでは既に50位に付けている。オンラインデーティングのPairsが45位前後であることから、PairsがクレジットカードやAndroidでの売上もあるとはいえ、iOS上での売上を月商1億程度と仮定した場合、LINE MUSICの月商は初月から0.5-0.8億程度のレンジにはあるのではないかと思われる。
非ゲームでのトップセールスランキングの上位100位は具体的には「LINE」「LINEマンガ」「Pairs」「クックパッド」「LINE占い」その他出会い系ぐらいであり、「SNS」「マンガ」「デーティング」「CGM」「占い」に「音楽」が割って入っていくことは十分理解できる。ガラケー時代に儲かったコンテンツ領域であれば、スマホでも十分売上を生み出せるであろう。
音楽は一度課金すればライフタイムが長い気がする(これは筆者の感覚値)ので、初期に広告宣伝費をがっつり投下して、長い年月をかけて回収していくモデルであることは明らかであり(余談だが、マネーフォワード vs freeeの対決に似た構造である)、TVCMを序盤から乱打することは正しい。
月額制ということもあり、音楽ストリーミングサービスでの売上規模はゲームと比べて安定しやすく、ゲームの売上比率がそれなりに高いLINEにとってもサイバーエージェントにとっても、是が非でもポートフォリオに欲しいところであろう。
サイバーエージェントはTVCMで回収できているのか?
最後にサイバーエージェントについて。2015年3Qの決算資料を見ると7月末でAWAのDL数想定300万、2015年末目標1,000万と置いています。同社の積極的なTVCMは主にAmebaブランドが中心で、2012年末にTVCMを中心とした30億の広告費投下で「Amebaスマホッ!」を普及させる作戦に出ました。他には2014年末から2015年初頭には755のTVCMもありました。
これが決算資料から引用したAmeba事業の推移です。小さいのでクリックすると拡大して見れます。緑の「課金」はほぼゲームで、これはヒット作であるガールフレンド(仮)などの貢献が大きいと思われる。一方の青の「広告掲載料その他」は従来のアメブロに加えて、スマホシフト時に新規メディアを立ち上げまくり、ガールズトークなどのメディア事業などが入っているかと思われる。(「メディアその他」事業に入っている可能性もある)
上記が営業利益の推移だが、実際にAmebaの利益を支えているのはゲームだと思われ、非ゲームの広告その他に関しては芳しくなさそうだ。スマホシフト前の四半期売上が21億程度で、スマホシフト後も最大28億までしか伸びておらず、時期によっては21億程度と伸びていない。Ameba事業全体の利益に関しては、PC時代の方が利益額を安定的に確保できている。
これはアメブロ自体に広告が入らなくなったのを、他メディアで辛うじて穴埋めしているのではないかと思われる。ゆえに、他メディアがあるからこそ、アメブロの広告減によるAmeba広告事業の崩壊を食い止めているとも、この数字からは推測できる。
ゆえに、2012年末からの30億プロモーションは、ガールフレンド(仮)のグロースを後押しし、結果的に課金売上は微増しているが、非ゲーム事業は未だに収益貢献しているとは言い難い。非ゲーム事業は大きく儲かることもないし、当初「デカグラフ」と言われた、非ゲームメディアからゲームへと回遊するという仮説も「さほどワークしていない」という説を多方面から聞き、あの時の非ゲーム事業は失敗だったのではないか。
なぜこの古い話を検証したかというと、CA風物詩「大量TVCM投下!」の勝率がどれくらいなのか気になったからだ。収益モデルの見えない755に多額のTVCMを突っ込んだり、コスト構造で分が悪いAWAに突っ込んだりと、突っ込みっぷりは盛大で良いのだが、過去事例を見ても回収率は高いのだろうか?(いや、微妙じゃね?)と思ったからである。
とはいえ、最近の決算で株価を下げたものの、ここ2年ほどでサイバーエージェントの株価は2倍近く上がり、2015年8月14日時点では時価総額3,400億円。みんな大好き、サイバーエージェントだ。セグメントを見ても、成長ドライバーとなったのはゲームや広告事業であり、Ameba事業自体の収益性には未だ疑問が残る。Ameba事業もAmebaプラットフォーム上のゲームに収益が左右されており、広告事業が十分貢献しているとはいえないだろう。
ということでAWAはコスト構造的にかなり不利に思えて、無謀な戦いに思えるのだが、結末やいかに。有料化後のユーザー数がLINE MUSICと差が出るのか否か、年末にはApple Musicを含め国内での勝敗が見えているのか。勝ち目がなさそうな場合にAWAはすぐ撤退できるのか。
この市場はまた定期的にウォッチしたいと思う。今回はサービスのユーザビリティなどには触れず、コスト構造にフォーカスした。
ちなみに筆者は、今のところAWAのみ少し使っています。
I am 栽培マン.