キュレーションメディアの台頭によって、人は悲しいくらい忘れていく生き物。スマニューで読んだ記事もグノシーの記事も。的なユーザー体験をしている読者も多いかと思います。スマニューで読んだ記事の提供元なんて、覚えてないことが9割です。
そういったキュレーションメディア上での戦いは「まだPVで消耗してるの?」という価値観の上での戦いであり、「ブランドのないメディアは生き残れない」という結論に帰着しがちです。しかし、その「メディアにおけるブランドとは何か」についてはさほど語られておらず、「ブランド」が思考停止のマジックワードと化している気がします。
ビジネスモデルにおいても、AppleによるGoogleつぶしのための「広告ブロック」により、アドセンス依存のメディアの収益性が下がることは必然です。昨今話題の記事タイアップ広告が取れるメディアは、単にPVのあるメディアに限らず「ブランドがある」メディアであれば広告単価が高くても受注しやすいのではないかとも考えられます。
ということで「ブランド力のあるメディアとは何か」を考えてみます。
単純に読者数が多いのではなくコアな読者の比率が高い
まずはそのメディアが保有している読者層に着目。
例えばこういうアナリティクスのデータがあって(期間は非公開ですが、TheStartupのデータです)。200回以上セッションしている2,233人のユーザーは明らかにかなり読み込んでいる人で、「コアなファン層といえます。感覚値ですが、100セッション以上はそうカウントしてもいいかも。
セッション数10以下は「なんか見たことあるな。あ、栽培マンについて書いてあるメディアか!」というくらいの認知と思われます。いや、栽培マンについて書いていると想起できればしっかり認知できており、「なんか見たことあるかも」レベルがここかと。
セッション数10以上100未満が、まあほどほどに見てるよと。面白い記事があれば読むよというレベルであり、固定読者とはいえるものの、TheStartupでいえば5-10本に1本くらいは記事を読んでいるというレベルかと。この三段階のレベルを雑誌購読レベルと、webメディア購読レベル(後者はざっくりの感覚値)でまとめるとこんな感じ。
①コアな読者:雑誌なら毎号発売日に買っちゃう。webならRSSが更新されたら必ず読んじゃう、もしくはそのメディアの記事を月間10本以上読んでる。Facebookページ経由で2-3日に1記事は読んじゃう。読者の声を聞いたら「おおう、お前そんなマニアックな記事読んでたんかいな!」というレベル。
②ライトな読者:雑誌なら面白い特集あれば買う。ブルータスとかそういう感じの消費のされ方。webならヒット記事は読んでくれていて、月に1-2本は定期的に読んでくれてそうなレベル。
③一見さん:雑誌なら立ち読み。webならキュレーションメディアを通して記事を読んだことがあるかもレベル。
PV戦争の初期は③の最大化にあり、そこから②や①にシフトしていきます。最終的に「全体の読者数に占めるコアな読者の比率が高い」メディアがブランド力があるという言い方ができるかと思います。
やや暴力的なやり方として、相当数の記事数を出して③を最大化することによって、その一部を①に転換するのがキュレーションメディアのモデルといえます。一旦「mery」ブランドが認知すれば、記事内容が「by.S」と一緒でも、ユーザーは「mery」に定着する。といった感じで、考え方的にはブランド力を築ければ、記事自体がコモディティな内容でも読まれる。率直に言えば、パワープレーです。
しかし、このパワープレーは「まだPVで消耗してるの?」的なPV戦争に陥りやすく、資本力のあるところが勝ちやすい構造にあります。このパワープレー以外でコアな読者を多く作り上げるには「コンテンツによる差別化」が必要なのです。
他メディアにはないコンテンツがコア読者を生み出す
キュレーションメディア乱立により「○○な5選」的な記事をどこでも見かけるようになり、類似ジャンルであれば酷似した内容もあり、結局そんな記事は冒頭の「グノシーで読んだ記事もスマニューで読んだ記事も提供元をユーザーは覚えていない」という残念なことになります。
読者をそのメディアのファンにさせるには何をすれば良いか?そこでしか読めないコンテンツを生み出せば良いのです。
手前味噌ですが、TheStartupの場合はディープな分析や投資家のリターン予測というコーナーがあります。これはニッチであり、しかも「あの企業への投資は回収できない」など厳しいことも断言するため、「いいね!」はつきにくいですが、結構読まれます。どこにでもいい顔をする他メディアには書けない記事であり、そういったコンテンツを平気で投下する点がTheStartupの強みであり差別化であると認識しているのでわざとやっています。
まず「ニュース」は左下の象限です。一瞬数字は取れるかもしれませんが、その記事は3日後には限りなく無価値になっています。左下で戦っている人たちが、最も消耗している人たちと言えます。
次に右下の象限。「渋谷区でうまいカレー屋5選」的な記事は案外賞味期限自体は長かったりします。しかし、模倣困難性は低く、パクられやすい。最近よくあるのが、超ロングコンテンツにしてSEOで狙ったキーワードをあげにいくというFind Travel的な手法です。「30選」とか、長すぎだろとw
たとえば「渋谷区でうまいカレー屋30選」という記事を作り、「渋谷 カレー」の検索ワードで1位となり、トラフィックがすごい取れたとする。読者からすると「渋谷のカレー屋を知りたい」というニーズはあり、結構役に立つコンテンツである。このキュレーションメディアでありがちなまとめ記事も、突き詰めると模倣困難性が高まり、右上の象限へシフトしていく「価値の高い記事」となります。網羅性の高い情報が知りたければ、Find Travelへ。というユーザー認知が進んでいきます。
最後に右上の象限は「他のメディアでは書けないだろ」という模倣困難性が高いコンテンツ。これは制作コスト(時間もお金)も高くつきますが、当たれば大きい。
WEBメディアは各象限のポートフォリオを組むことが大事
上記の各象限を踏まえ、WEBメディアにおいては、各象限のコンテンツをバランスよくミックスしてポートフォリオを組むのが最適解だと思います。ただ、右上のコンテンツを保有できないメディアは「ブランド力のあるメディア」たり得ないので、右上で如何にヒットコンテンツを生み出せるかが、鍵だと思います。
これはNetflixとかでも同じ構造で、コストかけて制作した映画やドラマをフックに有料課金ユーザーをグローバルで獲得して回収するという考え方があります。
実際に私も読みたい連載がいくつかあるなと思い、久々にNewsPicksに課金しました。「そこでしか読めない記事があるメディア」というのは短期的にはスケールしにくいものの、確実に強固なブランド力を育んでいきます。
理想としては、読者が記事を「消費」するのではなく、崇めるまでいかなくても「味わう」メディアでありたい。消費財ではなく嗜好品としてのメディアが、ブランド力のあるメディアであり高い収益性のビジネスを可能にし、発展するのではないかと思う。
そのメディアに読み返したいと思う記事がどれだけあるか。「賞味期限」という表現をしたが、1度読んだらもういいやではなく、3度くらい読み返したい。そんな記事が豊富にあるメディアが強い。読者が「あのメディアであんな記事を読んだ」と思い出せるか。1記事も読者が思い出せないようなメディアは、コモディティ・メディアであり、ブランド力はなきに等しい。
読者にそういったユーザー体験を提供できるメディアが増え、雑誌より収益性が高く読者に満足度も高いメディアが増えてほしいと願う。