宇宙からのスタート?IPO株をPSRでバリュエーションすることの是非

Pocket


2015.8.1 13:20追記(文末に)

先日、メタップスのIPOに関する記事を出しましたが、当面黒字転換がなさそうな企業の場合はどうやってバリュエーションを弾くのか、気になってUmeki Salonで話題にしてみました。

前提として、メタップスの場合は来期は黒字転換する予測を出すかもしれませんし、実際のバリュエーションの根拠はわかりません(当然、2015.8.1の本稿執筆時時点では開示されていない)。赤字企業のバリュエーション事例として、国内のIPOではクラウドワークスはPSRを用いたバリュエーション算定をしていたようです。

スクリーンショット掲載は本稿では控えますが(サロンには出しています)大和証券のお偉いさんが「クラウドワークスは通常のPERではなくPSRでのバリュエーションの考え方を取りました。まさに宇宙からのスタートです!」とFacebookにポストしていました。かなり意味深な発言です。

PSRでのバリュエーションについて、サロン内での議論(プライベートエクイティ勤務の方からのコメントなど)を元に本稿で考察を深め、市場に問いかけたいと思います。

universe

PSRとは、PSR適用がワークする業種や形態は?

PSR(Price to Sales Ratio)=株価売上高倍率で、PER(Price Earnings Ratio)=株価収益率が利益を元にしているのに対し、PSRは売上が指標。

PSRでよって利益率が低いが売上規模はある企業には有利に働く数値で、一方で利益率が高いけど売上がさほど大きくない企業には不利に働きますが、企業活動の本質が「売上」にあるのか「利益」にあるのかで、通常は「利益」のほうが株式市場で評価される印象があります。

国内でPSRを適用したバリュエーションがされるのはバイオ系や将来その市場を独占し得る業種の企業に適用されたことがあるようです。現状で利益が上がっていなくても、売上が伸びていれば、将来的に利益も相当伸びるという算段での弾きかたなのでしょう。

インターネット銘柄に関しては、米国ではPSRバリュエーションは珍しくはないようです。サロン内でのコメントを元にすると、IPO時のtwitter(赤字上場)が有名なようです。twitterのPSRはFacebookやLinkedinと同様の12倍を適用したとか。米国のユニコーン企業(時価総額1,000億以上)はPSR7-8倍が多いという説も。

よって米国ではPSRバリュエーションも全然あるというか、将来的にスケールしそうな企業はむしろPSRを重視されているのかもしれません。IPO関係者にヒアリングしたところ、米国のIPO銘柄のバリュエーションはPERとPSRの両方からクロスチェックすることが多く、米国でもセルサイドアナリストの多くはPERバリュエーションでレポートを出しているようです。

ということで、PSRバリュエーションは米国ではあるにはあるが、PSRのみで主張するのはいかがなものかというのがあるかもしれません。

PSRバリュエーションが「宇宙からのスタート」の意味

国内に話を戻します。国内ではインターネット銘柄での赤字上場は少ないようです。厳密には直前期は赤字でも、申請期や申請翌期で黒字転換していることが多いのでは。マザーズの上場審査基準は「成長性」なので赤字だから悪いというわけではありません。

しかし、赤字の場合は利益が出ていないのでPERでバリュエーションすることはできません。国内のインターネット銘柄で昨今ほぼPSRを使ったバリュエーションがされていなかったことが、大和証券のお偉いさんの「まさに宇宙からのスタートです!」発言につながっているかと思います。良くいえば、米国のユニコーン企業に習った先端的な考え、悪くいえば非常識な考えです。「宇宙からのスタート=先端的&非常識」であることは、認識されていたのでしょう。

PSRバリュエーションが良いのか悪いのかを現段階で筆者は断言することはできません。ただ、本当に売上成長性が高く、それをもってして将来的に利益をしっかり出せるのであれば、理論的にはPSRバリュエーションもありなんだと思います。赤字企業はPERでは測れませんので、PSRという論点があるという話を、本誌読者のみなさまには知っていただきたく(知っていた人も多いかもしれませんが)記事にしておきました。

ちなみにサロンのコメントでは「実際去年上場している100社くらいのネット系企業のバリュエーションを分析した時は、利益成長より売上成長の方が価値への相関が高い結果が出た」という意見もあり、マーケットは利益成長よりも売上成長を評価しているという裏付けがあります。

メタップスもPSRバリュエーションではないだろうか

個人的にはgumiやグノシーより全然バリュエーション・ロジックが不可解なメタップス。300億規模のIPOなので初値がバブることは予想しにくく、想定価格の3,300円が仮条件で提示され、ブックビルディングでどれだけの値が付くかがこのIPOの焦点かと思います。今期赤字で来期いきなり5-10億の当期利益は出ないはずですから(先行投資を絞って利益が出る構造ではないので)PSRバリュエーションを適用しているのではないかと本誌では予測。

PSRバリュエーションで想定価格3,300円を付けられれば発行体はそれなりのまとまった額を調達できるので良いでしょうが、公募価格で買う投資家、ましてやIPO後に買う投資家は損をする可能性が高いのではないか。個人投資家にとってIPOは宝くじと言われますが、公募割れしたら損なわけで、規模が大きなマザーズのIPOは公募割れリスクも昨今は高まっていると感じています。発行体の調達額の確保と(個人)投資家の利益という間でのせめぎ合いが味わい深いIPOですね。

蓋を開けてみないとわかりませんが、佐藤さんの信者的な株主が殺到して人気銘柄になる可能性もあります。PSRバリュエーションが必ずしも悪いわけでは全然ありません。投資判断としてはPSRバリュエーション銘柄は直近の業績には期待せず、中長期で5年くらいで見て価値が上がることを見越して、IPO後の乱高下が落ち着いた頃合いに、安値で買って寝かせておくと良いのかもしれません。ちなみに、クラウドワークスは今の所公募の730円は一度も割っていません。

IPO銘柄のPSRバリュエーションについて、読者のみなさまはどうお考えでしょうか?NewsPicksなどでぜひご意見ください。PSR銘柄ってアナリストはどう評価するんですかね。UBSの武田さんあたりにコメントいただきたいところ。

Umeki Salonでの議論はかなり勉強になり、筆者もすごく助かっています。

追記:本稿を読んだ読者からのタレコミで、メタップスは来期黒字転換を予想していて、来期(いわゆる申請翌期)を使ったPERを用いたバリュエーションのようだとのこと。主幹事経由の情報筋のようです。よって本誌が上記で予想したPSRバリュエーションではないようですね。



Pocket

コメントを投稿する

「宇宙からのスタート?IPO株をPSRでバリュエーションすることの是非」に対してのコメントをどうぞ!