上場承認(IPO)のメタップス、ミステリアスな女みたいな不当に高いValuation

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各誌から出遅れること数日。メタップスのIPO分析を。今期予測の発表を待っていました。

metaps

 赤字だが公募時時価総額400億越え。来期予測は・・?

まずは時価総額関連を。

公開日発行済株式総数:12,332,310株
TS予測公募価格:3,300円
TS予測公募時時価総額:約406億
会社予測当期純損益:約-3.7億円
会社予測当期利益適用PER:NA(赤字のため)

☆参考
直近ラウンド株価:2,000円
直近ラウンド時時価総額:約223億

出典:東京IPOと一の部

資本政策は調べるおさんの記事がわかりやすいので、ご参考までに。来期予測は今のところ開示していないようで、来期予測適用PERを算出できない。

原価率高いビジネスは薄利多売?現金は上場後100億近くに

                                   メタップスPL(単位:百万円)
連結 2013年 2014年 2015年3Q 2015年通期予測
売上 1,301 2,265 2,966 4,041
売上原価 904 1,719 2,540 3,439
原価率 69% 76% 86% 85%
売上総利益 397 546 426 602
粗利率 31% 24% 14% 15%
販売管理費 374 1,034 684 937
営業利益 226 -488 -258 -335
営業利益率 17.4%
現金 915 1,075 4,664 8,349

これが会社の今期予測を入れたPLの推移。

アプリ収益化プラットフォーム「metaps」はSDKを入れればKPIやデータ管理ができるというツールサービス。「metaps」導入アプリの累計DL数はグローバルで20億DL。下記が「metaps」を通して受けられるサービス。アドネットワークで課金の方法がリワード、CPA、CPCの3パターンに加え、解析機能、おまけにオフラインといった感じ。

・インセンティブ付与の成果報酬型広告サービス
・成果報酬型広告(ネイティブ広告)サービス
・クリック課金をベースとした広告サービス
・“Metaps Analytics”の提供
・テレビCM等のオフライン(インターネット以外)広告の提供

本誌の読者の中には「メタップスといえばアジア強いんだよね」と記憶している方もいるかと思います。2014年通期は約13億がアジアの売上で、国内の約9億の売上を上回りました(ちなみに2013年通期の国内売上は10億)。

解析ツールは導入社数が多ければ多いほど利益率が上がるものの、広告ビジネスは在庫仕入れが発生するため、利益率は上がっていきません。後述の「SPIKE」と「metaps」でセグメント別の開示がないですが、「metaps」事業は導入アプリ数が増えていければ徐々に利益率は上がってはいくものの、メディア事業のような高粗利ビジネスではありません。極論すると、薄利多売なモデル。AIを用いたアナリティクス機能が肝とのことですが、たしかにあまり強力な競合他社を思いつきません。楽観視すると、手堅く導入アプリ数を伸ばしていきそうな気がします。

決済手数料無料のフリーミアムモデル「SPIKE」はEC向け決済サービス。決済取引高がスケールしないとそれなりの利益額の確保が見込めない。だが、決済領域はメタップスが仮想通貨とか銀行をやりたいとか、もっと大きな絵への布石にすぎないとも捉えられ、SPIKE単体での収益化はあまり狙っていないかもしれない。「SPIKE」の存在自体が、メタップスにとってのフリーミアムモデルかもしれない。

一番下に「現金」の項目を付け加えましたが、2015年2月に43億の資金調達を実施していながら、直近で大型の事業投資がないため、公募での調達と合わせると現金は100億近くまで膨れてきます。この現金でM&Aとか仕掛けてきそうな気はします。未上場で43億調達する意味があったのかよくわからず。

VCの顔ぶれから見る、メタップスの未上場での評価

筆者界隈ではメタップスに対する評価は相当に分かれていた。主要株主の顔ぶれを見てみよう。

・フィデリティ
・インテック
・三井住友海上キャピタル
・京大ベンチャー
・セガゲームス
・I SHIN
・ネオステラ
・FENOX
・gumi
・博報堂

ジャフコだぜ!も俺たちのニッセイもあのGCPもいない。フィデリティ以外はストレートな表現をするとセカンドティアが並ぶ。事業会社でいえば、セガゲームスやgumiはmetapsのクライアント、博報堂はTVCM関連での協業があったため資本関係としたと推察される。

この株主構成からは二つの考え方ができる。一つは、メタップスがわけがわからない企業なので、主要VCが投資を全て断った。レイターステージにもかかわらず、これだけ読めない案件はない。筆者もレイターステージだとしても、担当者だったら正直投資したくない。怖いもん。一方で、メタップス側が事業提携する企業を中心に資金調達活動をし、主要VCはあえて回避したという見方もできる。実態はどちらなのかは、筆者にはわからない。

メタップス代表の佐藤氏のインタビュー記事などを見て「世界を変えそうだ!」と熱狂する人もいる一方、不確実要素が多いリスキーな銘柄として未上場市場では捉えられていた肌感覚が筆者にはある。

メタップス。そいつは、ミステリアスな女だ。

主軸である「metaps」「SPIKE」ともに単体で見ると利益率が決して高い事業とは言えず、ここのみを見てメタップスを判断するとえらい割高な企業に思える。だが、メタップスの本質はそこではない。「AI」「仮想通貨」「宇宙」など、未来のインフラを感じさせる世界観をメタップスは醸し出しており、そこに反応する意識の高い人達が一定層いる。

正直、頭の悪い栽培マンアナリストである筆者は、主にNewsPicksあたりの世間で絶賛されている佐藤さんのブログを読了できたことがない。長すぎて途中で離脱してしまうのである。よって、佐藤さんの思想を全て理解できているわけでは全然ないのだが、スケールの大きな経営者だということは理解できる。

驚いたのが、こうした「佐藤ファン」の中には「佐藤さんになら騙されてもいい」と思っている層が一部いるということ。失敗してもいいから、彼の壮大なビジョンに賭けてみたいという、意識の高い個人投資家は多そうだ。未上場時の株主の顔ぶれから推察しても、メタップスは万人ウケはしないだろうが、一部の層から熱狂的に支持されるのかもしれないと感じた。

この足元の数字が全く魅了的じゃないのに、400億の公募時時価総額を付けて上場してくる「メタップス現象」は、ミステリアスな女性がえらい魅力的に見えるという男性心理に近しいのではないかと感じます。「仮想通貨よ。どう?ウフフ」「宇宙って素敵じゃない?A-ha」みたいな感じで、魅力的な未来を誘惑してくるメタップス。「利益はまーだ♡焦らないで。」とお預けさせられている感じが、なんともやれそうでやれないメタップスです。

現時点の収益構造と利益率や利益額だけ見ると、公募時時価総額400億はとても肯定できません。しかし、主軸の2つの事業をもとに展開される世界への期待感から、高いvaluationが付いているのではないかと。ミステリアスな女が好きな人も嫌いな人もいるでしょう。ミステリアスな女は万人から好かれる必要はありません。株主と企業の未来との間の虚像を見せることで、誘惑すれば良いのです。結果、ミステリアスな女が好きな株主が「俺、佐藤さんなら騙されてもいいよ!」とか言い出すのです。

スッピンが微妙でも、お化粧すると(粉飾という意味ではない)魅力的に見える女性。メタップスとはそういう銘柄であり、迂闊に投資判断ができないアナリスト泣かせの銘柄といえます。世の中や株式市場には「わけのわからないものは強い」の法則というものが存在し、メタップスのミステリアスな女IRが機能して、株価が上昇するシナリオも十分考えられるでしょう。IR戦略として、ミステリアスっぽい感じで新規事業をちらつかせるのは上手いと思います。現段階の事業価値に対しては明らかに高い。

お会いしたことはないですが、市場から受ける印象として、佐藤さんは『現実歪曲空間』創造力が非常に高い方なんだろうなと思います。gumiの國光さんにもそれを感じました。

筆者も個人的には、ミステリアスな女は嫌いじゃないですけどね。



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