下方修正で売上半減のイグニスは上場する必要があったのか

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gumiの下方修正より酷い内容だが、スタートアップ業界のメディアはソーシャルゲームインフォでしか報じられていないので、本誌で取り上げる。

イグニス

まずは2015年1Qの決算説明資料より印象的なスライドを引用する。

スクリーンショット 2015-05-14 19.36.45ちなみに2015年1Qは上場前の2014年1Q比で減収減益である。この四半期毎の成長カーブにはかなり無理があるように思えたが、どのような前提の元で事業計画を組んだのだろうか。後述するが、主力の無料ネイティブアプリ事業が全然通用しなくなったのが誤算だったのか、そのセグメントで大幅な減収となっている。

下記が下方修正を受けた数値比較だ。下方修正の資料を元に作成した。

スクリーンショット 2015-05-14 19.39.30通期予測は16億の減収、15億の減益で営業損益は5億円に転落。売上が予想の半分というのは比率を考えるとgumiの下方修正(通期予測309億⇒265億)よりインパクトは大きく、さすがに売上半減は業績予測の意味をなしておらず、スタートアップ界隈では唖然とされている。元々メディアに取り上げられる機会が少ない(メディアで取り上げられることを意図的に避けてきた)企業だが、これは看過できない。

無料ネイティブアプリモデルの限界?

スクリーンショット 2015-05-14 19.45.04イグニスのセグメントは3つに分かれており、上述の通り「無料ネイティブアプリ」の減収幅が大きい。これは「サクサクパンダ」などを無料提供することでMAUを確保し、その上でアドネットワークを回して広告収益を立てるモデルだ。ここのMAUは2015年1Q決算資料では800万となっていたが、2015年1Qは781万に減少。成長曲線を描いたつもりが、MAUが減少に転じたのが痛かった。

内訳を見ると広告単価の高いといわれる国内MAUが573万で減少傾向となっており、単純なMAUの減少よりは国内MAUの減少により(逆に海外は増えていると推測される)収益予測を13億円も下げたと思われる。

この背景には、決算短信には「国内ユーザーの嗜好の変化により小規模アプリのマネタイズの難易度が上昇傾向にある影響」と抽象的な表現で記載されているが、これはどういう話なのだろうか。

この無料ネイティブアプリモデルは、アプリを乱発してとにかくMAUの嵩を上げ、MAUの分だけ広告がクリックされるだろうという想定の元に組まれている。ただ、スマホユーザーがアプリを使う個数自体は1年後に2倍になるとかそういうことはない。高頻度で使われるアプリ作りを目指せば、そのアプリのMAUが1年で2倍になる可能性はあるが、とにかく乱発しても速攻で使われなくなってしまうのではないか。

ユーザーの需要が伸びない(1スマホユーザーが使うアプリの個数は増えない)のに対して、MAUが高い1つのサービスを供給するではなく、とにかくたくさん集めればなんとかなるんじゃね?というのが通用しなくなった。いや、そのアップサイドの見込みが甘かったのであり、「国内ユーザーの嗜好」が変化したとは筆者には思えない。単純にアップサイドが決まっており、アップサイドにぶつかるのが想定よりかなり早かったため、大幅な減収に予測を変えたのではないか。

マンガアプリである全巻無料は筆者もキャプテン翼で課金しておそらく4,000円くらいはイグニスの売上に貢献したが、9割の減収予測は意味が分からない。仕込むはずだったビッグタイトルを逃したとか、儲からなさそうだから3Q以降の開発をやめたとか、そういうことがあったのだろうか。

唯一、ソーシャルゲームだけは増収と上方修正した。逆にソーシャルゲームも滑ると全方位的に滑り、かなり危険である。投資対象としては、今回の下方修正で時価総額が2015.5.13時点で200億強だったのが100億を切ってくる可能性もあるが、ソーシャルゲームの爆発力を鑑みて、底値で買うと当たるかもしれないが、もはや投機銘柄であろう。イグニスのアプリ開発力を信じるのであれば、底で買ってみるのもアリだ。

そもそもイグニスは上場適格な企業だったのか

マザーズ市場では売上と利益の成長性が重視され、一定の基準の数値に達していれば、力強く成長していれば証券会社の審査も東証の審査も通りやすい。

ただ、イグニスは上場後に「安定的」な成長を描ける事業モデルだったのだろうか。弁護士ドットコムのような弁護士からの月額課金を主とした積み上げ型のモデル、クラウドソーシングのような実需に基づいたプラットフォームビジネスはまだ理解できる。

ただ、上場1年後で売上半減の下方修正を出すほどに、アプリマーケットはボラティリティの高い分野であり、未上場時にVCも入っていなかったイグニスはなぜ上場する必要があったのだろうか。ボラティリティが高いのはゲーム事業も同じだが、博打的な事業で当たって上場したまでは良かったが、継続的に売上を上げられる事業モデルではなかったことが災いし、今回の結果を引き起こしている。

安定的に売上を右肩上がりで伸ばせる手堅い事業ばかりではないことは理解できる。ただ、四半期決算に晒される上場市場において、イグニスが上場に適したモデルの企業であるとは言い難い。未上場であれば売上半減の下方修正があっても、外部の株主が少しいればそこから何か言われる程度である。だが、公開企業であって下方修正で「売上半減」は許されることなのか?

他のメディアがあまり記事にしないこともあり、gumiの時のようにあまり騒がれることがなさそうだが、今回のイグニスの下方修正は下げ幅がgumiより全然酷いため、今後IPOを考えるスタートアップ経営者が「上場すべきか否か」を考える材料として、本誌で取り上げることにした。

とりあえず上場すればいい。は目先の利益しか考えておらず、中長期的には不幸になる人を増やす発想ではないだろうか。ロマンティック上場三銃士に踊らされてはいけない。

起業家はバリュエーションを無駄に上げて馬鹿の一つ覚えに「IPO」といわず、もっと現実を見ることも考えた方がいいだろう。

嫌味ではなく、イグニスにはアプリ開発力で何かで一発当ててまた息を吹き返してほしいが、必ずしも上場している意義はないのではないかと思う。



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