「分散型メディア」という言葉を聞いたことがある読者は感度が高い。「分散型メディアについてどう思いますか?」と聞かれたが、そもそも筆者はよく知らなかった。そこで少し調べて考えてみた結果、今後のメディア運営においては相当に重要な考え方だと感じた。
■分散型メディアの筆者(梅木)の定義
自前サイトのみならず、様々なコンテンツ流通チャネルを通してコンテンツを読者に届けるメディア
上記参考記事からざっくり解釈すると、「バズフィードというサイト自体がなくても、各流通チャネルがあればバズフィードはメディアとして成り立つ」とバズフィード関係者が言っている。簡単にいうと、数百万人のユーザーを抱えるFacebookページがそれ単体でメディアになる。数十万人のフォロワーを抱えるインスタグラムアカウントがそれ単体でメディアになる。という話である。
テキストリンクの集合体だけがメディアではない
筆者は「分散型メディア」とは上記のようなことを指すと解釈した。従来は「リンク集積型メディア」(本誌もそうだ)のように記事を自社サイトに蓄積していくことが多かった。だが、リンク集積型メディアのコンテンツは必ずしもダイレクト流入や検索流入の比率が高いとは限らなくなってきた。現にバズフィードではFacebook流入比率が相当高い。
「リンク集積型メディア」においては各流通チャネルからの「直接的なトラフィック」でPVを得ていくことを望ましいとするのが普通の感覚だろう。一方でインスタグラムやYouTubeアカウントを開設しても、インスタグラムにはリンクを貼れないし、YouTubeにリンクを貼ってもFacebookページの運用ほどにはリンク集積型メディアにトラフィックがあるとは思えない。
「そのメディアの上に流通するコンテンツに、ユーザーが接触することで、そのメディアのブランド価値が高まる」というのがメディアの根本的な構造である。ゆえに、テキストリンクによる直接的なトラフィックのみならず、たとえばインスタグラムでフォロワーを増やし、インスタグラム内でターゲットユーザーとの接触頻度が上がることで、そのメディアのブランドワード(指名)検索でリンク集積型メディアのトラフィックが増加する「間接的なトラフィック」にも価値があるはずである。
各流通チャネル最適化:YouTubeとインスタグラムに好機
せっせと記事を更新しているだけで読まれる時代ではなくなっている。
各流通チャネルを最適化するだけで、(潜在的な)読者との接触機会が生まれ、各チャネルの運用如何でトラフィックは激変する。
バイラルメディアの投資検討の際に「Facebookのアルゴリズムが変わるとトラフィックが激減すると思われるから危険」という声がよくあった。たしかにそういったリスクはあるが、各流通チャネルの最適化をどこよりも上手くやって成功した例がバズフィードやハフィントンポストといえ、リターンも相応に大きいと証明されている。
日本国内の2015年4月時点では流通チャネルとしてのトラフィックのわりに、コンテンツの供給が追いついておらず、需給的に好機があるのはYouTubeとインスタグラムといえる。YouTubeはYouTuberを抱えるMCNが複数立ち上がってきたり、インスタグラム関連でもInstagramerを抱える広告販売を開始したりしている。
YouTubeやインスタグラムはメディアとしてトラフィックが大きいがゆえ、広告出稿主にとって大きな広告ビジネスの機会があることは自明だが、メディア運営者にとっても従来のFacebookやスマートニュースのようにコンテンツ流通チャネルとしての大きな機会がある。
だが、YouTubeやインスタグラム上でのコンテンツ流通を最適化できているリンク集積型メディアは国内ではまだあまり見当たらない。直接的なトラフィックの寄与が低いため、優先順位が低いためだろう。先行者として上手くやれば、1-2年後には相当な先行者利益を得られるかもしれない。フォロワー数やチャンネル登録者数に応じた広告収益の機会にもなるだろう。
キュレーションメディアの画像権利問題は死活問題かも
筆者が共同編集長を務める東京カレンダーWEBのようなメディアは画像を自社で内製している(雑誌発行時にコストをかけている)ことが多い。それゆえ、画像の惹きがあるメディアはインスタグラム運用とは相性が良い。
一方で昨今流行りのキュレーションメディアは画像引用が多く、たとえばインスタグラム上でキュレーションメディア「ゴリラ」がアカウントを開設して、全て引用画像を無許可で使用していくのはさすがにマズい。記事と違って写真しかコンテンツがない世界では、記事の一部で画像引用するより辛いのではないか。DeNAのmeryのように各コンテンツ保有事業者と提携できているところは、そういった問題をクリアできているので逆に有利であろう。
インスタグラムアカウントの中にも工夫しているところもあり、コメント欄でCGM的に画像募集をしたり「○○さんからご提供いただいた画像です」とクレジット付きで紹介しているところもある。
写真力があるメディアはインスタグラム、動画で面白いものを作れそうなところはYouTubeなど、リンク集積型メディアは自社メディアのブランド価値をどのチャネルで拡充できるか早めに再考した方が良いだろう。本誌においては画像にコンテンツ価値はないのでインスタグラムはやらないし、YouTubeはやろうとして登録者数を100人以上一旦集めたが、動画コンテンツの方向性を上手く掴めていない。
メディア運営者はFacebookページ運用はおろか、スマートニュースやAntenna対策を施してきているところも多いであろう。だが、YouTubeやインスタグラム上での最適化にいち早く取り組むべきではないか。半年以内にリンク集積型メディアのYouTubeやインスタグラム上でのコンテンツ最適化の好例を紹介できる機会が必ずやあると筆者は考える。