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時は2015年。日本を見渡すとIT業界が2006年以来の盛り上がりを見せていた。1,000億円の時価総額が付くような上場もあれば、設立１年満たない企業が大手IT企業に数十億円で買収されていく。

僕が所属する金融業界もリーマンショックを底に各社軒並み業績を伸ばしてきているが、リーマンショック前の活気や華やかさはない。かつては外資系投資銀行を踏み台にヘッジファンドやプライベートエクイティに転身するのが花道と思われていたが、金をひたすら追い求める人生が正しいのかもよくわからなくなってきている。起業したりITのスタートアップに転職する同僚や後輩が、心なしか増えている気がする。

JPスタンレーの株式調査部に新卒で入社してもう７年。30歳になった僕は通信セクターを経てインターネットセクターを担当して3年になる。証券アナリストの仕事は企業の四半期決算説明会に出席したり取材したりして、売り推奨か買い推奨のレポートを出す。それを元に顧客に株の取引を促進し手数料を稼ぐ。正直、誰が書いても四半期決算後の見通しなどさほど差異がないし、将来性のある仕事とは思えない。

「おい、梅田。六天が海外のメッセンジャーサービスを買収したらしいぞ。買収額は900億円とのことだ。この買収が六天の株価に与える影響は？株価は下がるか上がるか？早く教えろ！」

同期の株式トレーダーの夏野が電話をかけてきた。

「メッセンジャーは六天とは直接的なシナジーはないだろう。短期的には株価は下がるだろうな。ただ、長期的にはわからない。短期であれば売りだ」

自分が本当に価値を生み出せているのか、よくわからなかった。それなのに給料はそれなりにいい。今年は年俸が1,500万円で年末のボーナスはおそらく1,500万円くらい。合わせて年収は3,000万円といったところだ。この報酬の高さが、他の業界への挑戦の大きな足踏みになる。

仕事帰りに夏野と新丸ビルの7Fのカフェ「SO TIRED」で落ち合う。仕事帰りといっても23時だ。トレーダーの夏野は一足早く退社していて、クライアントとの接待の後。僕は六天による海外のメッセージングサービス買収に関するクイックメモを執筆した後だった。

「なあ、夏野。お前はこの会社にいつまでいるつもりなんだ？今の仕事、面白いか」

「さあな。今の仕事に疑問を持っても他にやりたい仕事もない。給料もいいし、悪くない仕事じゃないか。梅田はどうなんだ？」

「そうか・・・。いや、最近よくわからないんだ。俺の仕事は社会に価値を出せているのかって。同業他社のアナリストも同じようなレポートを書いている。このままだと俺自身がコモディティ化してしまうんじゃないかって思うんだ」

「だとしたらどうするんだ。何かやりたいことでもあるのか？」

夏野のその質問にすぐ返す言葉は見当たらなかった。

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翌朝8時に出社し、インターネットの海を漁っていたらFacebookのタイムラインで『Unfinity Ventures Summit』のLaunchpadの記事がシェアされているのを見かけた。仕事柄、インターネット業界のFacebookフレンドが多かったからか、よくシェアされていた。

Launchpadとはまだ世に出したばかりの10前後のサービスの運営者が、6分ほどでプレゼンし、フィードバックを受けたりしながら審査員からの評価を受け、順位を決めるものだ。

その中で気になったサービスがあった。女性向けキュレーションメディア『Mary』だ。女性ファッション雑誌にあるような情報をWEBに最適化した形で見せる。スマホで読むのに適した分量にしたりする。記事は編集部を設けて一本一本丹念に作るのではなく、ユーザーが投稿してくれる。

『Mary』はスマホアプリのダウンロード数が既に50万もあり、月間アクティブユーザーも100万人を超えている。今回のLaunchpadでは『Mary』が優勝した。

なんだ。こんなサービス、自分でも作れそうだな。それが正直に思った感想だった。企業を評価するレポートを投資家向けに書くより、一般ユーザーの生活がより良くなるようなメディアを作った方が楽しいかもしれない。

女性向けキュレーションメディアはあるけど、男性向けキュレーションメディアはまだないな。僕はまだその時それを他人事と捉えていた。

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内容の参考：GCP、EXITへの圧力がキツい？

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