最近、耳を疑う条件でのシードラウンドのファイナンス事例を聞いたので、これはあり得ないんじゃないか?と世に問いたくて書きます。
その条件とは・・・
■本当にあった、シードラウンドファイナンスの話
投資後企業価値(Post):2,000万円強
出資額:1,000万円
VC保有比率:40%台
!?僕は耳を疑いました。最近、バブっていたこともあり、自分の中の相場観がズレてしまったのかと思いました。僕が知っている限りの各シードラウンドのプレイヤーの事例を元に、相場観を算出しましょう。
■各シードラウンドプレイヤーの投資条件
A社:「うちは10%以上は取ったことないよ!」
I社:「キャンプからは300万円程度の出資をですね..」
S社:「さむら〜い…しゃ〜うと!(Post3,000で300-450万投資)」
M社:Convertible Equity(Valuation Capで次回ラウンド後に10%)
参考記事:創業直後には投資家を10%以上入れるな!
2014年現代のシードラウンドの日本国内の相場観は「投資後企業価値(Post)3,000万円で、出資額300-500万円(VC保有比率10-17%程度)」と私は見ています。これはサムライに代表されるシードアクセラレーターによる投資が一般化した2011年以降に整備された相場観といえそうです。
ところがシードで30%のシェアを取って「共同創業」と名乗る人も出てきました。
ファンドでも、VCでも、エンジェル投資家でもなく、「共同創業」
赤羽雄二氏によるシードラウンドで30%を取得する投資手法の話です。実際の持分比率は知りませんが、サイバーエージェントが子会社化して後のキクシルを作ったPitapat社などが赤羽氏が入っていた案件として有名です。
この記事は当時オフラインで多くの「いいね!」をいただきました。
それではなぜシードラウンドでVCが高いシェアを取ることが問題視される(少なくとも僕は問題視します)のか説明しましょう。
次のラウンド以降の資本政策が組みにくい。に尽きる。
問題視される唯一無二の理由としてこれかと思いますが。
起業家にとっては自社株は自分の命と恋人の次に大切であるといっても過言ではありません。事業が順調に拡大しても、すぐに十分な売上は上がらないでしょう。事業拡大のために数千万円、数億円と資金調達が必要な時がまた来るはずです。
そこで起業家の持株比率がまだ85%くらいあるのと60%くらいしかないとでは全然余裕が違う。資金調達は投資ラウンドが進むに連れて、第三者割当で新株を発行し、起業家の持分が希薄化していきます。33%を維持できなければ、経営権も握れません。あれ?自分で創った会社なのに、いつの間にか自分で意思決定できない…というぐぬぬ感に苛まれることになります。
なので起業家側は極力自分の持株比率は維持したい。特にシードラウンドでは。と思うのが一般的な考え方のはずです。シードラウンドでいきなり50%を外部株主に渡してもいいという起業家の方がいればご意見下さい。
資本政策は不可逆性が高く、初期の株主の比率が高すぎる案件には次のラウンド以降の投資家も乗りにくいはずです。取れる比率が従来より下がることもあるでしょう。
よって。シードラウンドで40%くらい外部株主が株を取っても、次の資本政策を組みにくいので、起業家、シードの株主、次のラウンドの株主、誰も得をしないと思うんですが。。。起業家の情弱ぶりにつけ込んだ、強欲なシードの株主という印象ですね。何らかの「正統な戦略」がない限りは、むしろそうした株主も情弱だと思いますが。
シード期の今の相場観は正しいのか?
シード期に株を放出し過ぎると、その後の資本政策、しょうじきしんどい。という話ですが、現状の相場観は正しいのか。という議論もあって良いかと思います。
■現代のシードラウンドの相場が作られた背景
僕の肌感覚的にサムライのPost3,000万円で300-450万投資でシェア10-15%というのがわかりやすい相場で、これはたしかY Combinatorの150-200万投資のシェアを維持してそのまま倍にしたくらい。とか、Y Combibatorの相場観を参考にしていた気がします(間違ってたらサムライの両角くんのツッコミコメントを待っています)
■一昔前のシードラウンドの相場
この辺はUmeki Salonでもネタにしてみたのですが、既にEXITしているお姐系起業家のコメントによると「(シードで外部株主が30%以上取るのは)シードアクセラレーターの出現前にはわりとよくある条件だった」とのこと。
現代のような数億円10億円のような大型調達は当時はあまりなかったので、シードで高い比率を取られても、次のラウンドで5,000万、その次1億くらいであれば、辛うじてシェア維持できるのでは?という話もありました。
■今でもシードで取り過ぎじゃね?という説
一方で300万円の出資を受けるのに、15%も持っていかれたのではたまったものではないという話も聞きます。僕個人の意見としては、300万円で10%くらいのシェアで出資を受けるのは、学生から20代前半の若手起業家くらいが丁度良いんじゃないかと思う。
社会人として数年ビジネス経験があり、30歳くらいで起業する人は300万円くらいの貯金はあるだろうし、シードアクセラレーターに金額以外の付加価値をよほど感じなければ、受けない方が良い。自分たちだけでプロダクトをリリースし、最初の検証を終えて数千万円を調達しにいった方が、有利な条件で調達しやすいと思う。(これも一般論かと思いますが)
とはいえ全くの異業種からインターネット領域で起業するにあたり、知見も人脈もない場合もある。そうした場合は、シードアクセラレーターを活用しても良いかもしれない。
シード期でVCが高いシェアを取っても機能する場合とは
最後に今回の案件のような話に戻ろう。今回の事例は関係各所に配慮し、どのVCでどの案件だったか。という点は開示しないことにした。本当にあった事例を抽象化してのケーススタディーとした。
シード期で40%のシェアを外部株主が取るのはあり得ない。
これが僕の主張で、その背景は述べてきた通り。
では本当にあり得ないことなのか?
この辺はサロンで話題にした際に出た、フリークアウト佐藤祐介先生のコメントを一部編集して差し込ませてもらおう。
■シードで外部株主のシェアが高くてもその投資案件が機能する場合
1:CVCで事業シナジーが見込める。ないしは本体への売却シナリオが存在する
2:創業者の特異なスキル、バックグラウンドによって運営されており今後創業者持分の希薄化が進んでも経営者交代が難しい (ことによる創業者の持分比率が低くなってもよいという自信)
1の売却シナリオの現実性が高ければ、株主にとっては純投資でキャピタルゲイン狙いではなく「戦略投資」で上手くいきそうであればすぐ連結子会社化する。という狙いがあるといえるでしょう。2はシリアルアントレプレナーとかで、シードからいきなり大規模調達するならアリかなと思いますが。
2014年は大型ファンドの設立増加に伴い、数億円10億円台の投資案件が増えています。一方でシード案件はここ数年に比べて小粒な印象です。僕に情報が回って来ていないだけでしょうか。
起業家、投資家の皆さん。シード期の投資条件について、実際のプレイヤーとしての意見をぜひお聞かせ下さい。M社のイトケンさんからまたカウンター記事をいただくのも歓迎ですw
大前提として投資なんて2社間の交渉なわけですから、双方合意の上であれば問題ないわけです。最近、賢い人が多いはずのNewsPicksユーザーでも重箱の隅を突く、非本質的なコメントが増えていますので、「双方が合意すればいいじゃん」などの質の低いコメントはお控え下さい。個別論ではなく、相場観へのコメントが欲しいですね。理想論でも構いません。そういったコメントが多く出ることが、未来の起業家が知見を養う上で有意義だと思う。
僕はシードで40%はあり得ないと激怒なわけですが、起業家をかばうつもりもありません。相場観を知らない方が悪いです。シード期は起業家も立ち上げ当初ということで、最も情報の非対称性が働きやすいと思います。だからこそ、透明な相場観をメディアが示してもいいじゃないでしょうか。
情報の非対称性を少しでも埋めることに、我々メディアの意義があると僕は考えます。
LINE田端さんも参加する、会員数210名突破のUmeki Salon
内容の参考:【きまぐれUmeki Salon第1号】LINE田端氏の降臨など
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