IRに踊らされるメディアと読者

Pocket


主要インターネット企業の四半期決算発表が続きますが、決算を報じるメディアや読者の反応に違和感を覚えます。

インターネット企業の決算の見方は、メーカーのようにクリスマス商戦などでの季節要因が少ないため、「前年同期比(YoY)」という数値で語るのはあまり意味がなく、かつ環境変化も激しいため「前四半期比(QoQ)」で見るのが妥当かと思います。もう一度言います。YoYではなく、QoQでないと意味ないっす。QoQの各セグメントの売上と営業利益だけ見ればいいんじゃないすかね。

これを感じたのがサイバーエージェントの決算でした。今回の決算がメディアを通して好感されがちだったカラクリを解説しましょう。

営利YoYではなく、営利QoQやコスト構造推移を見よう

Venture Nowからこんな記事が出ています。

サイバーエージェント1Q営業176%増 ― スマホAmeba事業が黒字転換

これは事実であり、インパクトのある箇所を抜粋しています。このタイトルだけ見ると、読者は「いい決算ですね!」と感じがちです。中身をみるとどうでしょうか。

スクリーンショット 2014-02-01 15.21.38YoY176.3%成長は事実。四半期毎のコスト構造を見ましょう。

スクリーンショット 2014-02-01 15.21.22資料が細かくてみにくいでしょうが、数字を下記に整理します。

■広告費

2013年1Q:43.5億
2014年1Q:22.5億
差分:−21億
注:2013年1QはAmebaスマホ30億プロモーションを掛けた頃

■営業利益

2013年1Q:15.4億
*厳密には2014/1Qに計上がない売却済のFX事業の営利10.5億も入る
2014年1Q:42.6億
差分:+27.2億
広告費の21億を相殺するとYoYの営業利益の伸びは+6.2億
YoY実質成長率:40%(営利21.6億÷15.4億=1.4倍)

【セグメント別営業利益】

■SAP

2013年1Q:9.7億
2013年4Q:24.8億
2014年1Q:21.5億
YoY増益、QoQ減益

■広告代理店

2013年1Q:20.6億
2013年4Q:21.8億
2014年1Q:20.3億
YoY減益、QoQ減益

■Ameba

2013年1Q:-30.6億
2013年4Q:-10.4億
2014年1Q:0.2億
YoY増益、QoQ増益

■3セグメントのグロス営業利益推移

2013年1Q:-0.3億
2013年4Q:16.2億
2014年1Q:42億
YoY増益、QoQ増益
*投資育成は数字小さいので除いた

FXと投資育成がないと2013/1Qは損益ほぼゼロです。

YoYの広告費差分27.2億を換算
YoY実質成長率54%(42÷27.2=1.54倍)

決算数字そのままに受け取るとたしかに営業利益176%増(42.6億÷15.4億=2.77倍)です。しかし、2013/1Qの広告費特殊要因と、FX事業が2013/1Qは計上され、2014/1Qの計上にはありませんので、両方に存在する項目のグロス推移で見るのが、Apple to appleの議論として適切です。セグメント別の伸びはテキストだけじゃわかりにくいので、下手な図を作ってみたよ。

スクリーンショット 2014-02-01 16.46.09

176%というともの凄い成長に見えますが、実質はそこまでは成長していない。54%くらいの成長ということです。

四半期毎の営業利益の推移を見ましょう。

スクリーンショット 2014-02-01 15.34.08これも小さくて見づらいでしょうが、2013/4Qと比べてSAPとインターネット広告事業は減益となっています。Amebaはたしかに黒転ですが、コストを絞った結果であり、課金が減収した結果、広告が微増しても全体では減益となっています。

スクリーンショット 2014-02-01 15.37.53Amebaの黒転は売上が伸びたからではなく、コストを絞ったから。「Ameba黒転」という文字だけがメディアに載ると、事業の調子が良さそうという印象を受けてしまいます。

IRからの情報を額面通り受け取らず、本質を見極めよう

重箱の隅をつついたわけではないですが「サイバーエージェント1Q営業176%増 ― スマホAmeba事業が黒字転換」だけ見る印象と、コスト構造やYoYではなくQoQで見ると印象が全然違います。同社に関して株価的な見方をするのであれば、SAPのドラクエが当たりそうな点がAmebaの営業利益未達を吸収できれば通期の着地営業利益が上振れる可能性があるので、buy。ということもできます。

今回の記事で強調したいのは、投資判断ではなく、IRからの情報をメディアやアナリストはどう扱い、読者や株式市場に伝えていくかという点です。

決算の数字が文句なくYoYでもQoQでも良ければありのままを語ればいい。順風満帆な数字でない場合は、いかに嘘をつかずに良い面を強調し、自社の好調ぶりをメディア(やアナリスト)を通して市場にアピールするかがIRの仕事だと思う。

よって強調したい数字がメディアを通して市場に出回り、イメージを上げた結果、株価を上げられればIRの仕事としては素晴らしい出来です。僕らメディア(やアナリスト)はIRが発表する数字を額面通り受け取って、情報発信していたのでは今回の事例のような落とし穴に落ちることがあります。

決算をじっくり見た結果、良い内容であればそのまま事実を発信するのもアリ。今後の業績向上が見込める要素を見つけたのであれば、分析して発信するのもアリ。決算では語られないネガティブな側面を指摘するのもアリ。

IRが強調して出す都合の良い数字で、かつ企業のファンダメンタルを見る上ではどうでもいい数字というのが場合によってはあります。特殊要因を考慮しない「YoY○%増」とかあまり意味がない数字であっても、その事実だけを流せば、決算の内容をよく読まない低リテラシーな読者は「調子イイのね!成長してるのね!」と判断する。

そんなIRの罠に踊らされるメディアは愚かだし、それを支持する読者も愚かです。一方でしっかり分析をしているメディアもあり、そういう記事は素敵です。Social Game Infoの決算分析とか素晴らしくて、さすがコロプラが買収して同社CSOで元アナリストの長谷部様が代表取締役を務めておられるだけあります。コロプラの決算は至る所で絶賛の嵐ですが(実際の数字のみならず資料の見やすさも)ネガティブな面にも言及している点に好感を持てますよね。ちなみにコロプラ決算では営利QoQが強調されていました。

決算情報で都合の良さそうな数字が一人歩きしていることもあるので、本誌の読者の皆様におきましては、騙されずに自分で決算を見ましょう。The Startupでも一時期上場企業決算分析というけっこうヘビーな分析記事を何本か書きましたが、もっとライトなアナリストメモ的なものを今後は出していきたいと思います。

最後に強調しておきたいのは、CAの決算が悪いわけではなく、都合の良い数字だけを抜粋して伝えるメディアとそれに踊らされる読者が存在するため、自らの目で情報は確かめた方が良いですよという話です。ということ。


■ The Startup最新事情

梅木雄平が選ぶお勧め書籍30冊

オウンドメディアの企画執筆を受け付けております。こちらを参考に。

東洋経済で「スタートアップのビジネスモデル」を連載中。

 šƒoƒi [RGB -72dpi i685 ~65)_

会員数200名突破!スタートアップ業界の表裏最新事情を届けるUmeki Salon、サロンインタビュー記事はこちら



Pocket

コメントを投稿する

「IRに踊らされるメディアと読者」に対してのコメントをどうぞ!