スタートアップやベンチャーを支援するエコシステムが急速に整ってきている。IPOを間近に控えると主幹事証券会社や監査法人との付き合いも始まるが、IPO準備に入るかなり前の段階のスタートアップに対する支援も増えている。その代表格といえるのが監査法人トーマツグループが手掛ける、トーマツベンチャーサポート株式会社(以下TVS)だ。
サムライインキュベートなどと組み、スタートアップを積極支援するTVS。その支援内容に関して、代表取締役の吉村孝郎氏と事業開発部長の斎藤祐馬氏に話を伺った。
ベンチャー支援に対する、吉村氏と斎藤氏の想い
トーマツのIPO支援実績は国内で群を抜いている。代表取締役の吉村氏がIPO支援に携わった企業は新興市場発足の2000年以降で30社程度。旧くはサイバーエージェントやGMOインターネットグループ会社、直近ではアイスタイル、トレンダーズやコロプラなどを手掛け、国内IPO実績ナンバーワンのトップ会計士といえる。
「学生時代に経営者と接する参謀のような仕事をしたいと思い、会計士になりました。若いうちから経営者と接するには大企業ではなくIPOを目指す成長企業が良い。現在、私が率いるベンチャー企業を支援する『トータルサービス1部』は私が入社した頃は5名でしたが、現在200名になり、属するトータルサービス本部は全国約800名まで拡大しました」(吉村氏)
「トータルサービス1部は若いうちから経営者と接することに憧れる、ベンチャー支援が大好きな会計士で溢れています。社内でも一番人気のある部署です。ただ監査をしたいのではなく、経営者と共に頑張りたいという気概を持つ会計士が多いです」(吉村氏)
スタートアップ界隈でその名を聞く機会も多い、TVS事業開発部長の斎藤氏がスタートアップ支援に賭けるそのモチベーションは何であろうか。
「中二の頃に父親が脱サラをして事業を始めたため、事業を経営することの厳しさを肌で感じて育ちました。一人で苦労をしている父親を目の当たりにして、経営者をきちんと支援出来る支援者の重要性を痛感し、高校一年生の時に会計士を志しました。会計士は経営課題に直面する経営者の参謀。若いうちから経営者の参謀ができるとうことで、トーマツ入社後はトータルサービス1部を志望しました」(斎藤氏)
「しかし、実際に業務で関われるのはIPOの監査を受けているそれなりの規模のベンチャー企業へのチェック業務が中心であったため、入社1年目から業務外の夜と土日でスタートアップの成長支援に没頭しました。成果が出始めた5年目にやっと本業としてトーマツベンチャーサポートでベンチャー支援が出来るようになりました。」(斎藤氏)
大企業アライアンスやPR支援などのTVSの提供価値
実際にTVSが提供している価値は何になるのか。サムライインキュベートが主催するイベントの協賛など、スタートアップ界隈でその名を見かける機会は多いが、提供内容に関する踏み込んだ情報はなかなか見かけない。まずビジネス的な狙いに関して斎藤氏に伺った。
「休眠状態にあったTVSを2010年11月から復活させ、2013年3月現在はフルコミットメンバー及び監査業務などの兼務を含めると全国90名規模に拡大しています。当社のミッションは監査の市場のパイとシェアを拡げること。まずパイを増やすためには起業してから上場準備に至る期間を従来の5-10年から3-5年に短縮できるような支援インフラを提供することで、上場準備企業を増やす必要があります」(斎藤氏)
「また、シェアを拡大するために、従来の上場準備開始時に営業をして契約に結びつける手法ではなく、起業から上場準備までの成長支援にコミットすることで経営者との信頼関係を強化する方針を採っています」(斎藤氏)
提供内容は下記が中心であるという。
1:大企業とのアライアンスの促進
2:主にマスメディア関連に向けたPR支援
3:資金調達の助言
「まず大企業とのアライアンスですが、監査契約及びコンサルティング契約などで当社グループは多くの大企業との取引実績があります。取引先と支援先は両者に漠然とした不安や情報の非対称性によるミスコミュニケーションが生じるため、そこを両者を代弁しつつ、橋渡しをするイメージです」(斎藤氏)
「PR支援はベンチャー企業に興味を持たれているマスメディアの方々に対し、当社がスタートアップ関連の情報を目利きした上で、まとめた情報をお伝えできることが価値です。資金調達は利害関係のない中立的な観点からの事業計画の策定支援や財務諸表のレビューの支援をしています」(斎藤氏)
実際にこれらの支援はスタートアップにとって有難いであろう。特に大企業とのアライアンスは実績のないスタートアップにとって難易度は高いが、決まれば事業がスケールするブレイクスルーになる可能性もある。そこをトーマツにより目利きをした上で橋渡しすると、アライアンスが決まる確率は上がる。実際に大きいアライアンスをいくつか決めてきているようだ。
PR支援に関しては、メディアの立場から考えると、イチからスタートアップの情報を探すのはたしかに大変だ。トーマツが一種のスクリーニング機能を果たすことはメディア側にとって有難く、スタートアップを取り上げやすくなる。
気になる報酬体型は、無料での支援が基本で、場合によっては月額5-10万円の顧問契約を結ぶ場合もあるという。TVSとして現在東京だけで約800社のスタートアップと取引があり、その内200社強を密に支援している。密に支援する社数を今後は増やしていきたいという。
全国規模でベンチャーを増やしたい:今後の展望
3つの主な提供価値に沿って、具体的に今後は下記に注力したいという。
1:47都道府県でのベンチャー支援
2:大企業とベンチャーの接点を増やす
3:マスメディアの情報の2割をベンチャー関連の情報にする
「全国にあるトーマツのネットワークを活かし、サムライインキュベートと共に47都道府県でイベントを開催していきます。経産省が大規模な予算を設けるなど、国がベンチャーの産業支援に力を入れる計画もあります。事前に地方自治体と組むなど、全国規模でベンチャーを増やす支援をしたいと考えています」(斎藤氏)
「大企業との接点は、野村証券やSkylandVenturesと共に『Morning Pitch』というイベントに取り組んでいます。大企業の新規事業担当者を呼んでスタートアップにピッチしてもらい、提携を模索しています。ベンチャーと本気で向き合っていく大企業の方を増やしていきたいです」(斎藤氏)
経営者にとって、監査法人選びは結婚相手選びに近い
最後に監査法人の話に戻ろう。正直、私個人は監査法人の違いがあまりわからず、選定基準は曖昧なのではないかと思う。
「上場する経営者を長年見ていると、変わっていく経営者も少なくないです。上場すると、経営者にいろいろな方が接触してきます。真っ当そうに見える人がもっともらしい提案、例えばM&Aの提案を持ってきて、目先の売上を付けたい経営者はその誘いに乗ってしまい、失敗することがある。正直、上場後に軸がぶれてダメになっていった経営者の方もいました。だからこそ経営者にはしっかりとした参謀が必要です。監査法人は上場までではなく、上場後からが本当のお付き合いが始まります。監査法人は経営者に長年添い遂げる参謀なのです」(吉村氏)
IPO実績30社の吉村氏の言葉には説得力がある。証券会社やVCはIPO前までは濃いお付き合いであるが、IPO後は売却で関係性が薄くなったりすることもある。監査法人は経営者の女房役として企業を支え続ける。コンペで価格メリットがある監査法人を選定する経営者もいると聞くが、慎重に監査法人は選ぶべきであろう。
直近のIPOの監査実績の比較をすると下記になる。
*上記2013年版は2013年3月1日時点のもの
トーマツベンチャーサポートの謎のベールが少しはこの記事で剥がれであろうか。そんなトーマツベンチャーサポートが4月11日(木)にGMOインターネット熊谷正寿氏、産業競争力会議メンバー竹中平蔵氏等を招き、完全招待制のイベントを実施するそうだ。完全招待制であるが、The Startup経由であれば、ベンチャー経営者先着30名まで、受け付けてれくれるという。参加したいベンチャー経営者はトーマツベンチャーサポート(tvs-tokyo@tohmatsu.co.jp)に問い合わせ、その際「The Startupを見た」と添えればよいようだ。
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